《◎GW[2019]特別企画SS◎ ~MAKIO HAZARD(後編)~》
洋館の調査を開始して数分。一同はコンピュータールームを発見した。
……無人のはずの洋館。しかし、そのコンピュータールームは誰かが使用したような形跡がある。
バスルーム、トイレ、そして手入れのされていない階段に古ぼけた絵画、ガラスもヒビ割れているとここまでの調査では、誰かがここを利用していたような形跡が見つからなかった。
ここだけだ。ここだけが、今も使われているように見える。
「こ、これは……!」
ココナがコンピュータールームのパソコンを発見するや否や、震えた声をあげる。
「どうしたの、ココナ」
「パソコンが……箱型ッ……!!」
「まあ、珍しいよな。今の世の中だと」
バブルの時代かそのあたりのものだろうか。
今どきはノートパソコンとか液晶のパソコンがほとんどなだけに珍しいだろう。だが、世界設定を考えると旧型の方が都合が良いのである色々と。フロッピーディスクだとかCDだとか、いろいろと。
「このパソコン、誰かが使った形跡があるわね。ちょっと探ってみるわ」
パソコンを起動。パスワードらしきロックもかかっていない。
この洋館で何が起きているのか分かるかもしれない。データ収集のため、この場にいる誰よりもパソコンが使えるという意外な一面の披露として、イマリが操作する。
「俺も調べてみるかね」
サンクロウも普段、そういったパソコンのゲームをやりまくっていたり、地域掲示板で仕事の愚痴を吐いたりと通報案件な事を常日頃行ってる為に操作は手慣れている。ここはイマリとサンクロウに任せたほうが得策であろう。
「……うん、怪しいフォルダを見つけたわ」
「見れるか?」
「駄目、ロックがかかってる」
「パスワードを探さないとダメ、か……」
この館の何処かにあるのだろうか。手っ取り早く仕事が終わるものかと思ってたばかりに、ヒラカズは強く頭を掻き回す。
「大丈夫よ、ヒラカズ」
するとどうだろうか。
イマリはポケットからあるものを取り出した。
「ここに”どうやって手に入れたのかもわからないパスワードの解除方法とか諸々のデータが放り込まれた小型ノートパソコン”を組織から預かってるわ。これと接続して、無理やりロックを解除するわ!」
「なるほど。”どうやって手に入れたのかもわからないパスワードの解除方法とか諸々のデータが放り込まれた小型ノートパソコン”か。そんな便利なものよくもまあ、あっさりと組織も貸してくれたものだな!」
「尺の都合よ! 突っ込んだらダメ!」
そういうわけでロックは解除できそうだ。ありがとう、尺の都合。
「こ、これは……おい、やべーぞ!」
別でパソコンを調べていたサンクロウが驚きの声を上げた。
「そっちはどうした!?」
「このパソコン使った奴! めっちゃエロサイト見てやがるぜ!」
「他人の家のパソコンの履歴を勝手に見るな!」
苛立ちのあまりヒラカズ発砲。
飛んできた弾丸は、容赦なくサンクロウの使っていたパソコンを撃ちぬいた。
「うーん、それ以外に面白いデータはなかったな……ちょっとトイレ行ってくるわ」
ここから離れた場所にトイレがあった。せっかくあるのなら使わせてもらう。それといった緊張感もなく、サンクロウはコンピュータールームから出て行った。
「お前等、もっと危機感を持って……」
「ヒラカズ! 大変よ! これを見て!」
ロックの解除が終わった五鞠の声。
ヒラカズ、そして何か役割があるのかどうかも分からないココナが揃って、イマリが開いたフォルダーのデータを閲覧する。
”最終兵器MAKIO”。
この洋館で秘密裏に開発されているという生物兵器だ。この数日でついに完成に至ったようであるが……その数か月前に、記録は途絶えている。
「なんだよ、これ……」
「カズ、急いで組織に連絡を」
「いや、それは無理だ。なにせ、こんな場所だ。電波が通じない」
無線は勿論通じないし、携帯電話も使えない。連絡を取るのは不可能だとヒラカズは告げる。
「ああ、大丈夫。この家、WiFi繋がってるから」
「あ、本当だ!? なんか、変なWiFi拾ってる!?」
携帯電話を拾ったら勝手に電波を拾ってる。やはり、この洋館は誰か住んでいたようだ。しかも結構快適な環境で。
今考えればサンクロウは履歴を見るためにインターネットを開いていた。その地点でネットが繋がる環境がここにあったということだ。すぐに気づくべきだった。
生物兵器の存在。そして、援軍の要請をする。
これでひとまずは安心……と言ったところか。
「よし、後は援軍の到着を」
脱出を試みる。その矢先の事だった。
風が吹く。不穏な風が。
外もさっきとは比べ物にならない雷雨だ。
「きゃっ!?」
「お嬢様!」
雷雨によってコンピューターの電源が切れる。軽い停電が発生した。
「!!」
不穏な空気の中。”それ”は姿を現わした。
割れる窓ガラス。
吹き荒れる豪雨。
……人間のそれとは思えない巨人の姿。
腫れあがり切った肉体に、膨張しすぎた筋肉。獣のような唸り声を上げながら、その生物兵器は一歩ずつ三人の元へと近寄ってくる。
「なっ」
三人は一斉に、その姿を見て小言を漏らした。
「「「すごいリーゼントだ……」」」
人間離れした肉体よりも、その顔面の頭上を飾る巨大な”リーゼント”へと目が行ってしまう。アメリカの摩天楼だろうが、ジャパニーズの東京なんたらとかスカイツリーだろうが目でもない見事なトンガリっぷり。
怪物になってでもそこは意識したいのかと最早感銘すら覚えそうであった。
「感心してる場合じゃないよ! どうするの!?」
「何はともあれ先制攻撃だ、食らえ!」
イマリはすぐ目の前にあった箱型のパソコンを持ち上げ、生物兵器MAKIOへと豪速球で投げつける!
「結局、最後は能筋かァッ!」
ヒラカズのツッコミと同時、パソコンがMAKIOの顔面に命中……。
することはない。
パソコンはリーゼントに突き刺さり、その場で暴発してしまった。
「つ、強い……! 尺の都合でここに来るまで敵は狼くらいしかいなかったけど、今まで見た怪物より一番強いわ……!」
まさに、ラスボスに相応しい怪物だ。ここに来るまで敵は狼だけだったけど。
対抗策がなにもない。
何か方法がないモノかとあたりを探り始める。
「……大丈夫」
ヒラカズはそっと口を開く。
「万が一の時の為に……手は打った!」
先程、組織と連絡を取った際、別の指示を送っている。
洋館のデータ。チームの所在。そして援軍の要請……そう、援軍の要請だ。
「二人とも! 外に飛び出せ!」
ヒラカズはMAKIOから遠回り、窓ガラスを突き破り外へ飛び出す。
「外に!?」
「何故か知らないけど、分かったぞー!」
イマリとココナも彼に続いて、洋館の外へ。
ここは二階。飛び込むには多少勇気がいる。ある程度運動神経の良いヒラカズはそのまま飛び込み、ココナはイマリに背負われながら外へと飛び出した。
コンピュータールームでは、逃げた彼らに対し喚き声をあげる。
絶対に逃がすものかと、そこから飛び出そうとしたその時だった。
『全員! 伏せろ!』
聞こえてくる声。
ヒラカズ達は指示に従い、身を低くする。
暴発。総攻撃。
やってきた援軍による”ミサイル攻撃”で、怪しい研究がおこなわれていた洋館は生物兵器諸共爆発に飲み込まれていく。
生物兵器の呻き声が聞こえる。悪夢が消え去っていく。
……誰が作ったのかもわからない研究の成果は、紅蓮の炎に包まれていった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
任務完了。チームデルタは援軍チームに回収され、祖国へと帰っていく。
洋館で回収された生物兵器のデータは組織によって解明されていくことになるだろう。あと、迷子になったチームベータとシグマは近いうちにリストラさせることも報告された。
「……終わったわね」
「終わったね」
「ああ」
辛く険しく長い戦いだった(体感)。
一同は、雷雨の晴れた夕暮れを眺めながら、物思いに耽っている。
「……ねぇ」
「うん」
「ああ」
「「「俺(私)達、何か忘れているような……」」」
今日も綺麗に輝く夕日の空に____。
笑顔の”サンクロウ”が、半透明に映し出されているような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます