この勇者どこに旅立つ

東雲

第1話 旅立ち勇者のプロローグ

 僕が12歳の誕生日を迎えた暑い季節。

 孤児院でシスターや友達のみんなが誕生日会をしてくれた後だった。

 教会に鎧を着た兵士さんが二人やってきたんだ。

 こうやって書くと、物々しい雰囲気だと思うかもしれない。

 実際はいつもお城の入り口に立っている兵士さん達だから、顔なじみなんだけどね。


「よぉ坊主。誕生日おめでとう。今日も元気にしてたか?」


 一人の兵士さんが僕に声を掛けてくれるのと同時に、もう一人の兵士さんが僕の髪をくしゃくしゃに撫でてくれる。


「元気だよ! おじさん達も僕の誕生日会に来てくれたの?」


「いや坊主おめぇ……俺らまだおじさんじゃねぇから。お兄さんだ、お兄さん。そうか……坊主もいよいよ十二歳になったのか」


 お兄さんの喋り方はいつも通りなのに、どこか寂しそうな目をしていた。

 何かあったのかな?僕が聞く前に、シスターがタオルで手を拭きながら台所からやってくる。


「…………」


 でもシスターの表情も、お兄さんと同じだった。

 少し悲しそうな目。

 誕生日会の時は……ううん、少し前に洗い物をしている時はいつも通りの笑顔を見せてくれていたのに、どうしてか今は笑っていない。

 それどころか、シスターはお兄さん達に怒ってすらいるみたいだった。


「っ――!」


「すまないシスター。そろそろ時間なんだ」


「納得……納得できません。まだ子供なんですよ?」


「そうだ子供だ。だがそんな坊主が世界の希望でもある。どうか分かってくれ」


 お兄さんが言うと、シスターは顔を俯かせてしまう。

 泣いているの?

 初めて見せられたシスターの涙に、僕はただおろおろすることしかできなかった。

 身寄りのない僕らを一生懸命に育ててくれたシスターの涙。

 いつも笑顔が優しかったシスターの涙。

 みんなのお母さん変わりをしてくれたシスターを泣かす人なんて、許せる訳がない。

 でも泣かせているお兄さんは、いつも僕たちにお菓子をくれたり、遊んでくれるお兄さん達だった。


「坊主、王がお前を呼んでいる」

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