生き返りチートは欠陥スキル?!~人生初の全クリはリアル異世界でした~
藤原・インスパイア・十四六
1-1
いつも突然やってくる。
遊んでいる時、スポーツをしている時、警備している時、そしてゲームをしている時。
目標を掲げ、その目標が達し、達成感に満たされた時、それまでとは打って変わって虚無感で一杯になってしまう。
こういった症状をバーンアウト症候群、または燃え尽き症候群とも呼ばれているようだ。
でもこんなことって誰にでもありえるだろ?
友達と馬鹿騒ぎをしていたら「こんなことしていていいのかなぁ……」って思ったり。
ゲームをしていたら「あれ?俺何でこんなことに必死になってたんだろ?」と思ったり。
絶頂に達した直後に恐ろしい程の虚無感に襲われることがある。
そう、今もそれが訪れようとしている。
こういっちゃなんだが、俺ぐらい上級者になると、虚無感がやってくる前に
「ああ、来るな……」ってのが分かるんだ。
3日前から寝るのも惜しんでぶっとおしでRPGをやり続けた。
スマホアプリが盛んなこのご時世にだ。
わざわざ家庭用ゲーム機向けRPGを出すだけで称賛に値すると言いたい所だが、このゲームは面白い。名作になるかもしれない。
ストーリーも山場を迎えていた。
そう思った途端、虚無感が訪れる予兆を感じた。
ああ、これは来るな、って。
俺は深い溜息をついた後、長時間我慢していた猛烈な尿意と若干の空腹感から、立ち上がった。
何時間ぶりだろうか、久しぶりに立ち上がったので、眩暈がしたような気がした。
さすがにやり過ぎたか。
疲労感とともに自分がやけにクレイジーな人間だと自嘲をする傍かたわら、言い様のない達成感もあった。
達成感は全ての虚無感への始まりだ。
ニヒルに笑ってみせた。周りには誰もいないが。
ああ、くるくる。燃え尽きちゃう燃え尽きちゃう。
達成感と疲労感からか、ずれたズボンを直すことも、階段の電気を点けることも、その全てが面倒で気にせずに階段を降りていった。
時々眩暈に似たものを感じる。
何かが足元を通り過ぎたような気がした、眩暈かとも思ったがその瞬間階段を踏み外していた。
あれ??
■ ■ ■ ■
視界が暗かった。
あれ? ああ、目を開けてなかったからか。
目を開けると、辺りは妙に白く、その白い空間が無限に広がっていた。
一面、白に包まれていたこの場所は、もしや天国?
「天国とは、ちと違うかの」
どこからか声が聞こえてきた。
辺りを見ても誰もいない。
「こっちじゃ、こっちじゃよ」
声が聞こえた方に目をやり、凝らしてみるとそこに白いローブに身を包んだ老人がいた。白髪に長い白髭をたくわえている。
「あ、あんたは?」
「神じゃよ」
ああ、異世界かな……?
「そうじゃ、異世界じゃよ」
お、俺の心を読んだ。なんでもお見通しって訳だ。俺はどういう手違いで死んだんだろうか。
「今回は手違いではない」
「え?」
「こちらの意図で、お主を死なせた」
「え、なんでなんで」
神と名乗った老人が手の平を翳していくと何か四角い物がうっすらと現れてきた。
「ほれ、懐かしいじゃろ」
「はあ」
懐かしい? 何を言ってやがるんだ。思わせぶりなことを言いやがって、仕方なく目を細めながら、神とやらが翳したブツに目を凝らした。
「う、うわぁ懐かしいなぁ」
童心に返っていた。気付かない内に言葉が出ていた。
今までにプレイしてきたRPGのソフトがそこにはあった。
「お主にはこれは分かるかの?」
ああ、当然さ。
「俺が今までやってきたゲームだよ」
神が何度も頷いている。
「やってきた……か。時に、これらのゲームのストーリーの結末は当然しっておろうの」
「い、いや。知らない…」
「お主はゲームは好きらしいが、クリアをしたゲームは数少ない。RPGに至っては、クリア数はゼロときた」
神は何か資料を見ながら話している。
だからどうしたってんだよ。楽しみ方は人それぞれだろ?
「わしも好んでやっとる訳じゃないんじゃ。頼まれたんじゃよ」
「誰にだよ」
「RPGの神じゃよ。お主の認識がどうか知らぬが、今の時代、神も全能神など存在せず分業制を敷いておる。わしはファンタジー界の一部を受け持つ神でのRPGの神は同期での。頼まれたんじゃよ。ほほほ。RPG神は同期でも出世頭での。こういう所で借りを作っておけば、わしも後の100年は安泰じゃと判断した訳じゃよ」
朗らかに笑いながら話す神に腹立ちを覚えた。
「俺はRPGをクリアしなかっただけで殺されたのか?」
目の前にいる神は冷ややかに笑った。
「それはのう。しかしRPGの神があんなにも怒り狂っておったのを見たのは後にも先にもお主に対してのみじゃ。ゲームが好きなくせに、特にRPGが好きなくせに1つとしてクリアをしないお主にも責任はあると思うがの」
そ、そんな無茶苦茶だ。そんなことが許されるのか。
「許されるんじゃよ」
「人の心を読むな!」
むしゃくしゃとした。普通は手違いで異世界へ行くんだろうが。
「しかしのう。もうお主は現世では死んでおる。手違いではないがの。命を繋ぐ為には転生しかないのじゃ」
「そっちの都合ばっかりで、よくもこう話を進めやがる」
「結局世界は神のものじゃからのう。して、お主転生はするのか」
苛立っていた自分が馬鹿らしくなった。神なんてものは所詮こんなもんなんだろ。
「転生してやるよ。だが、転生後どうするかは俺の勝手だ。女の子を集めてハーレムを作ろうが、仕事もせずゴロゴロしていようとな!」
「後者は今と変わらんじゃろうが……。おっと、これは失礼。わしとしては、平和な世界にして欲しいがの」
「ああ、善処するよ」
「詫びと言うほどのこともないが、異世界に行くにあたって、武器を1つ、能力を1つ与えておく」
お、きたきた。チート能力だ。
「そ、その能力ってのは……」
「まぁ、それがの近頃色々な所で手違いによる死亡事案が多く発生しておっての。それに伴い、転生をさせることが日常茶飯事となっておるのじゃ」
まぁ、異世界転生ものはね……。
「お主の場合は、こちらに否はあっても落ち度はない。与えられる能力にも限りがあるのでの。それでお主には、1日に1度生き返ることができる能力を与える。せめてもの餞じゃ。ありがたく使うように」
おおー!! そういう系か!いいんじゃないか!?
「意外に喜んでもらってワシも良かったわい。それではの。わしはこれから天使界との合コンがあるでの」
合コン? 舐め腐った神がいるもんだ。
身体から重さがなくなったような気がした。これから転生するんだろう。
「あ、そうそう。勘違いされて、またクレームを入れられても困るので、念のため。転生後の世界はゲームの世界ではないからの。1日1度は生き返られるが、2度目死ぬとその時点でお主の新たな人生もそこで終了じゃ。そんじゃの」
え?
■ ■ ■ ■
土の匂いがした。
目を開けると、草花が見えた。
立ち上がってみると、そこには何の変哲もない森が広がっていた。
これからどうしていくか。
何でもできるっちゃ何でもできるんだろうけど、その為には、神からももらったチート能力の性質を知っている必要がありそうだ。
神と名乗るあの老人が最後に言っていた『死』の在り方についても、早いこと分かっておかなきゃならないだろうな。
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