自分の知らない自分

餅つき

第1話

平凡な日々を送っている俺はトラブルを自然と求めるようになっていた。こうなったのも今年高校一年生になってから、多分よくある転生ものの小説を読んだ影響だろうと思う。

結局俺は転生がしたい、今の日常から抜け出したい。

それが俺の望みだった。



いつもの通り授業が終わり足早に学校をでて家へと帰宅する電車の中、外は相変わらずの住宅街、時々山やちらほらと紅葉が見られるがそれも一瞬、携帯を開いても特にやることが無いためこうして外を眺めている。


改札をぬけるといつもとは違う感覚に襲われた

ぐらぐらと歪む視界、頭に手を当てるとその招待はすぐにわかった。

「熱い…」

高熱とまではいかないが明らかに熱だとわかる

 足も少しふらついている、これだと家まで持つか怪しくなってきた

 ポケットから携帯を取り出し唯一ラインの相手であるお母さんに「いつもの場所に迎えに来て」とメールを送った。

 いつもの場所とは駅の近くにある路地のことで送り帰りはここと決めてある、あと3分程度で来てくれるはず…

 早く来てくれることを願いながらいつもの場所へ行き近くの段差に腰をおろした。

 助けを呼んで安心したのか急に気が抜けて僕は気を失った。




 目が覚めるとそこは見覚えの無い天井だった

腹筋と手を使いゆっくりと起き上がる

本棚と勉強机、タンスが見え部屋は比較的綺麗

 頭の辺りが少し痛むだけで体は異常がない

 転生したのか…

 なぜか転生前の記憶があやふやなこと自分がどこの誰だか分からないのに転生したかったと言うことだけは頭に残っていた。 

 ベットから降りて本棚を見上げた

天井から滝のように本が並べられていて転生先は本が好きとわかった 


 勉強机には数枚のノートが重ねられていてここで大きな情報を手に入れた

「冬木…」

 それは自分の名前であるとこの状況的にそうせざるおえない

 机をあさっていると綺麗に保管された一冊の本を見つけた

題名は「生まれ変われるなら」

 僕は不意に本のページを開いてしまった

何時間がたったのか本を読み終えると疲れがいっきに襲うも面白さでそれは打ち砕けた

内容は主人公が生まれ変わり新たな人生を楽しむというシンプルなもの

 今僕の状況は転生して生まれ変わりの本を読んだということだが、まるでマニュアルのようにこのあとの過ごしかたが明確に記載されていた

 だからこの本を読み再び決心した僕は転生後の人生を楽しもうと

 



 枕の隣に置いてあったスマホを開いてみて分かったが僕は友達がいないらしい

 理由は連絡先の登録が一件しかないのとそれが親だと思われること


 不確定な部分を兼ね備えたまま部屋を出てすぐそばにある階段を下る

 ここからは家族構成と家族からみたまるまるを調査する

 降りてリビングに繋がるドアを開けるとそこにいた母と思われる人と自分とは正反対のルックスを持つ女子からの仰天のなまざしを向けられ……

「えっ…」

 母(仮)が愛のこもった手で僕に軽くバグをしてきた

「いきなりゴメンね、でも元気になったみたいで…良かった。」

「うん、少し驚いただけだよ、もう元気」

母は僕の顔を再確認するともう一度バグをした。

 母によると病院に連れていこうと思ったが僕が「大丈夫だから」と連呼したため一旦様子をみることにしたらしいがその時の記憶が飛んでいて話を合わせることに精一杯。


妹(仮)の目線はすでにスマホに向けられていたが

僕が彼女からしてどういう人物なのか次の一言で理解する。

「ずっと寝てればいいのに」

 低いトーンで放たれた言葉は穏やかな空気を真っ二つに切断した。

 母が「もう、そんなこと言わないの!」とフォローする。

 このやり取りから日常的に言われているに違いないだろう。


 とりあえず今日の調査は終了

今日分かったのはお前はいい母親をもって羨ましいということ



次の日、転生して記憶が欠損してから初登校となる今日はとことん自分が学校でどういう立場なのかを調査する。多分スクールカーストの底辺だと思うが…


 クラスの座席表をみて、席と周辺の人の名前を覚える。昨日母にクラスを聞いて正解だった。

(なるべくおかしな行動をしたくないからな)

 自分の席に座り一段落、そしてタイミングを見計らい隣の人に挨拶をする。

「おはよう、柳原さん」

 挨拶は会話の始まりを作る大切なこと本に書いてあった気がする


「…おはよう」

少し間があったような

「まるまるくんが話しかけるなんて今までなかったから、つい驚いて…」 

「は、は…」 

 俺はどんな生活をしていたのか…ラインの友達もいないし隣の人とも話していないし

とりあえず会話を続行する

「なんの本読んでるの?」

「これは…異世界はいい世界」

 いや! ダジャレかと思ったが本の表紙を向けてくる限りこれは実在する。家の本棚にもあったような

「なんか、オタクギャグっぽいね?!」

「そうなんだけど内容はいいかと」

彼女の容姿からこの本を読んでいると想像がつかないが人は見かけによらず、

「…最近なにを読んでるの?」

 改めて思うが話しかけずらそうなオーラを放っていたが話してみると案外違かったり、

そんなことより返事を返さないとーー

 焦りつつも机の中にあった本を彼女に見せる。

黄ばみの入ったその本の名は……

「異世界はいい世界…冬木くんも、奇遇ですね」 っておい! お前もかよ、どんだけ人気なの

「やっぱり、この本なんだよね~」

「少し古い本ですが面白さは今も健在です」

 いろいろ話した結果、自分は超無口でいつも本を読んでいる、いつも一人、この本はすごく人気。

 今日の成果はたくさんあったが一番は

隣の席の人に存在をアピールできたこと。

 隣の席の人は柳原という

綺麗で近づきにくい感じだけど、会話での気遣いやしっかりとした意志を持っていると思う。

 その後ラインを交換した。

 彼女から「似た者同士これからもよろしくお願いします。」と送られてきた、堅苦しい言い方だがとても心が温まった。


  

 そして数日が経過した。

率直に言うとあれから何にも発展していない!

 時間はたっぷりとあったはずなのに未だ「隣の席の人」という間柄。

 それでいて今日の目標は決まっている

柳原さんと食事をすることだ。これで一気に差を縮められる可能性があるしかし、そこには大きな難点があって……

「きりーつ、ありがとうございました。」

 4時間目の授業が終わりみな、お昼ご飯の準備に取りかかる。

 と同時に……

「玲子ちゃーん! ご飯食べよう~!」

 その声と容姿でクラス中の視線を集める彼女

こそ僕の計画を狂わせてくる張本人。

 だけど今日こそは柳原さんとご飯を食べると決めたのだからーー勇気を振り絞って

「ねぇ、お昼一緒に食べない?」 

 彼女の発言を完全に無視していく


「えぇぇ先約がいたのぉ…」

彼女は残念そうに言う、毎日同じ気持ちだったから少しその気持ちがわかってしまう。

 この状況で一番困るのは柳原さんだ、とても優しい柳原さんはどちらかを切るなんて到底できない。いやただそんな気がするだけなのだが…

 ここで狙っていた発言が繰り出される。

「では、三人で食べるのはどうでしょう?」

「「賛成!!」」

 

 こうして今、一面芝生の生えた場所でベンチに座り心地よい日差しを浴びながらご飯を食べている三人で

「玲子ちゃんに男子の友達がいるなんて…もうハレンチ!」

「別にハレンチではないわ、それだったら唯は男子をもてあそんでるびっ……なんでもない…」

 彼女は「危うく失言だね!」と言い笑っている。それに対し柳原さんは頬を赤く染めながら弁当をつまんだ。

 そんなたわいもない会話を横で聞いてるだけでもなぜか楽しい、それに彼女との通常会話を聞いてみたい。

「いつ通りでいいよ、柳原さん」

 少しびっくりした表情をしながら柳原さんは微笑みで僕に返事をした。

 


 割りと大盛だった弁当を食べ終え空を見上げる

 秋風が少し肌寒いと感じる、もうそんな季節なのかも知れない。

 

 家に帰りお母さんが沸かしてくれたお風呂に入る、家族より多いシャンプーは使用禁止のものが大半である。

 湯船に浸かり今日のことを思い出した

進歩し過ぎた気がしてどこか心配だがそれよりも気になった事がSNSからの大量の通知だ。

 ここ数日間で俗に言うネット友にとあるゲームの「キャラを貸してほしい」やクエストを手伝ってほしいなどのメールが多く対応の仕方に困っているのだ。

 しかしこの理由について僕はもう知っていた。

使い古された革の財布に10000円分のプリペードカードを購入したレシートが入ってたこと、お母さんに月のお小遣いをもらったときに「課金には使わないで」と言われたことこのことから僕は重度の課金プレイヤーでネット友と一緒にゲームを楽しんでいたという結論に至った。

 

 夜ご飯ができたので急いで風呂をあがると光沢のできた目玉焼きと肉汁が閉じ込められたハンバーグが3人分並べられていた。

 僕にとって夜ご飯は栄養を摂取することともう一つやることがある、それは今日あったことを話すこと

 それはどうでもいいことから面白かったこと、嬉しかったこと正直なんでもよかった。

 この行為には目的が存在する。

 ある日スマホのメモ帳を開いたときに見つけたフォルダがある。

 内容は自分について

詳しく言うと改善した方がいいことが箇条書きになって書かれていた。それは日記の様に日にちと誰にどんなことを言われたのかが書いてあって、その中にお母さんが学校のことを心配しているがかえって鬱陶しいと書かれたページがあった、だから今こうやって話している。

 このメモ帳を知らない夜ご飯の時のお母さんに比べて今は笑顔で話を聞いて相槌を打ってくれる。

 そしてお母さんは必ずこう言うのだ「人が変わったみたいね」



 学校を終えて明日から連休。いつもなら部屋で本を読んだりテレビのチャンネルをまわしたりして時間を潰しているが今回はちゃんとした計画がある。

 そしてその計画は今後に繋がるため失敗してはならない

 

 玄関ドアを開け靴を確認する。どうやら帰ってきているらしい

 少し緊張しながらリビングへ向かうといつもの定位置であるテレビの前のソファーに妹(仮)の姿があった。

 妹(仮)はいつもお金がないと呟いたり、お母さんに服を買うお金をねだっているのを僕は知っていた。

 だから僕は有利な立場で話すことができる

「服ぐらいなら買ってあげるよ、お金ないだろ」

 僕がこんなことを言うなんて以外だったのか妹(仮)はキョトンとしてこちらを見た。

「急になんでホントに人が変わった?」

冗談混じりの発言に心の中で苦笑する。

 妹(仮)がこんなことを言うなんて以外だった、もしかしたら全然話していなかったからなのかも知れないが…


「じゃあ、お金ちょうーだい」

 当然のように差し出された手にイラッと来るがここは冷静に対応する

「条件がある、一緒に買いにいく」

 妹(仮)の顔が一瞬こわばる

そんなに嫌なのかと傷つくがきっと断れないだろうと悟った。

 なにせ妹(仮)にとってはありがたい誘いであるから

それを後押しするようにお母さんは

「一緒に行ってきなさいよ、子供の頃みたいに仲良くね」

 妹(仮)はなにか言いたそうな顔をしていたがそっと押さえ強い口調で僕に行った。

「明日10時にリビング集合」

 そう言うとすぐにスマホに目を落としてしまったけどこれは誘いが成功したのだろう。

 お母さんを見るとちょうど目があうその顔は笑っていた。

 きっと僕も同じ顔をしているだろう


 約束の5分前にリビングに行くと妹(仮)はすでに準備万端であった。

 今どきのファッションを知らないのでなんとも言えないがスカートは長めでどこか落ち着いている、いつもの妹(仮)とは思えない服装だ。

 

 目的地は最寄り駅から電車で15分ほどで着くこの市の中で一番人通りが多い駅のデパート

 もちろん行き方を知らないためリードは妹(仮)に任せることになった。

 

 電車の中、妹(仮)はずっとスマホに目をやっていた話しても無視するか「ふぅーん」としか返ってこない。どうやら僕と妹(仮)は馬が合わないのかも知れない……

電車の揺れる音しか聞こえない車内は僕の見解を導き出す手伝いをしているようだった。


 目的地に着くや否や好きなブランド店に直行して人混みの中ついていくのが精一杯、しかし妹(仮)の目はいつになく綺麗な色をしている。だから僕は少し黙っておくことにした

  

 服を物色する妹(仮)の手つきは慣れていて店員さんも妹(仮)のことは認知しているようだ。

 

「これとこれ、どっちがいい?」

「うーん、どちらもお似合いですよ笑」

それは答えになってないとツッコミを入れる妹(仮)が遠い存在に思えて寂しさが込み上げてくる。

 

 数十分考えたあとなぜか僕に決断は託された。

「ねぇ、どっちがいいと思う?」

 急に聞かれたので困惑しながらも答えはひとつ

「右側がいいかな」

 妹(仮)はうんうん、と納得したように頷き僕をレジに連れてった。

 

 一緒に何点か買ったみたいで持ち金はそこを尽く寸前の状態になる。

 僕のお腹はうめき声をあげる

「飯でも食うか」

「じゃあ、一階のファーストフードでいい?」 

 半ば強引な言い方だけどこのデパートを知らない僕にとってその発言はありがたい


 食事を済ませるとこれで最後の店だからと言い再びエスカレーターに乗る。

反対側から通りすがりの二人組の女子と目があった。

 見たことがある顔の二人、それは柳原さんと例の彼女


「奇遇ですね」

 最初に話しかけたのは柳原さん、大人しい服装だが妙に色気を感じる。それに比べ彼女は子供っぽいとまではいかないが顔と服装がマッチしている

「今、妹と買い物に来てて…」

妹(仮)はペコリと頭を下げる。

「私たちも買い物!」

 元気な彼女に対し柳原さんは気を使ってくれたのか「では学校で」と言い残し彼女を引っ張ってどこかへ行ってしまった。


「あんな可愛い友達がいるなんて以外」

 妹(仮)は歩きながらそう呟いた


 無事買い物も終わり妹(仮)も満足したようで機嫌が良かった。

 帰りの電車の車内は行きと同じ、妹(仮)はスマホに目をやっていた。

 今日はいいことをしたので僕も機嫌が良いしかし、なぜここまでうまく話が進んだのか考えるとあることに気づいた。その心遣いを人として尊敬したい。

 妹は服を選ばせたとき絶対に合わない方とその真逆のものをわざと選択肢にして僕を失敗させないようにしてること、昼飯探しにぐだらないように提示してくれたこと柳原さんたちにあったときもそうだった。

 考えないと気づかないそんな小さなことだけど妹は気配って行動していた。

 その事実に僕の心は温まった。

   

 家に帰る途中で妹は「今日はありがと」と言ったその言葉を待っていたように僕は「どういたしまして」と返した。

 その後会話は生まれなかったが今はそれでよかった。


 休みは終わりいつもの日々がやってきた

授業を受け、ご飯を食べて、電車に乗る。

 最近スマホの充電の減りが早く帰りの電車の際には残りわずかになっていた

 

 携帯をしまい久しぶりに窓の外を覗きこむとそこには一面紅葉の森が一瞬見えた、、、

連なる住宅、綺麗な紅葉、どこかでみた覚えがする。あれは確か記憶を遡っていた時ものすごい頭痛と共に脳内でフラッシュバックし記憶の扉が開いた。

 

 僕は僕であった。


 急いで家に帰るといつもなら一人だけなのにが二人の声が聞こえる。

 部屋は朝と同じ状態で本や教科書はきちんと整理されている。

 スマホを見ると僕が倒れた日から数週間も経っていた、僕は転生なんてしていなかった。


 記憶がそう言っていた。


 頭痛により一時的な記憶の欠損それにより僕は僕を忘れ、転生したと思い過ごしてきた。

 

 転生したと思わせるほどに僕の生活は新鮮だった、なにか起きないか待っているのではなく自ら行動したことにより日常は非日常に変わっていた。


結局僕は変われたのだろうか?

 壊れたゲーム機を修理してもらったみたいに

でも僕は変わっていないのではないか?

 朝に弱くて、ニンジンが嫌いで、めんどくさがり

 それが僕。


 いつもより早く起きた今日は一本はやい電車になることができた。

 外にはあの光景が広がっている、ついこないだの出来事なのに内容が多すぎてその差が昔のことのように錯覚させる。


 駅を出て学校へ向かう坂を上がる手前で僕は呼び止められた。

「冬木さん、一緒に行きませんか?」 

声の主は知っている僕がお世話になったと同時に僕の友達である柳原さんの声だ。 


 僕たちは歩き始めた


 坂の途中で

「僕は変わったのかなぁ…?」 

悩み疲れたような声で質問すると柳原さんはこう答えた

「いいえ、いつも通りですよ」

 予想もしなかった返事に驚いたがその意味について考えた。

 

 自分は自分だと言うことなのか、その答えは柳原さんにしか分からない。


 答えを聞こうと思ったがやめた、

その答えを僕は知っているはずだから

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自分の知らない自分 餅つき @MoMoMoChi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る