約束



 時間は少し遡る。

 莉雄りおが髑髏スパルトイに自身を追わせる形で、けいあおいから離れた直後、慶は“姿を消す能力”を持つスパルトイに羽交い絞めにされ、喉元にナイフを当てられる瞬間の話である。


 走っていった莉雄と髑髏スパルトイを追うように葵は走り出していたが、直後に異変に気付いた。

 髑髏スパルトイが撒いて行った黒い煙が空中で停止している。それどころではない、周りのありとあらゆるものが停止している。音もなく、何も動かない。


「ねぇ、何かおかしい……」


 異変に気付いて振り返った葵が目にした物は、羽交い絞めになりながら今まさに首を掻っ切られそうになりながら硬直している慶と、彼を羽交い絞めにして殺さんとするスパルトイだった。

 当然、二人も時間が止まったかのように停止している。


 訝しむ彼女の前に、なにも無い空間から大翔はるとが現れて言った。


「驚いた? 葵の『時間停止』はここまで大規模に世界を停止させたりはできないから、葵にも初めての感覚じゃないかと思うんだけど」


 言葉に詰まる葵。

 何から言えば良いのか分からずにいる彼女に、大翔は気づいたように言う。


「あ、ああ、まずは小鳥遊たかなしを助けないとな」


 そう言って大翔は、羽交い絞めにあっている慶の肩を叩く。慶の姿は消えた。


「大丈夫。安全な場所に移動してもらっただけだ。今から、葵にもその場所へ向かってほしんだけど……葵?」


 葵の反応が一向にないことに大翔は疑問を覚えた。

 大翔は思い出したように、なおも停止しているスパルトイに手を触れる。このスパルトイも慶同様にどこかに消えていった。大翔曰く「こっちは危ないところに飛ばしておく」だとか。

 そして、今一度葵に向き直る。


 葵は大翔に対して、ほんの少しの疑いは持っていた。

 ただ漠然と、という感覚に近い。けれど、彼は大事な何かを隠している。自分を守るために。その感覚を覚えている。頭が忘れても、心がそれを覚えている。どこかで、見た覚えがあるのだ。彼の思い詰めた表情は。


 葵は、少し怯えながら言う。大翔が怖いのではなく、大翔が何か大事なことを一人抱え込んでいるのではないかということが怖かった。


「それは……あたしに色々説明してくれるなら、いいけど……」

「葵が俺を疑うのも無理はないかな……解った。みんなに同時に説明しようと思ってたけど、葵にだけ先に……簡単に説明しておくよ」


 葵は大翔を信じて良いのか迷った。けれど、心のどこかで、彼を信じたい自分が居るのも事実だった。

 大翔は葵を優しく抱きしめながら言う。


「葵、お願いがあるんだ。なにに代えても、絶対に守ってほしい約束なんだ。守ってくれる?」

「なに? 内容を言う前に約束させるの?」

「お願いだ」

「……いいよ」


 そして、停止した世界の中で、停止した時間が流れ、彼は言う。


「どんなことが有っても、俺を、



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