外の説明はこちら




「え? お? なんじゃ? 俺だけ蚊帳の外、やめてくれません!?」

「ん? 慶にもボクは感謝してるよ」

「うるせえ! 天然ボケで話されても分からねぇよ!」

「ええ! ボク、天然じゃないでしょ!? 自分で天然って思ってないから天然じゃないよ!」

「んー、天然は自分を天然って思ってないから天然なんだろうが! もういいよ!」


 と、そこに女子の声が響く。


「なにこれー!!」


 葵は玄関からこの空間に出入りを繰り返している。


「すごーい!! どうなってんの!! え!? ええ!? どうなってんの!!」


 その様子に慶が引き気味にぼやく。


「うわー、一層緊張感がない感じで来たな、糸織の奴」


 大翔が葵に対してその場から動かずに、子供に呼びかけるように声をかける。


「葵ー、満足したらこっちおいでー」

「うん! もう少しー! すっごーい!!」


 莉雄は、大翔に恋人ができた理由が何となく見えたようでほほえましく思った。



 葵はソファーにしっかりと座った。

 慶は変わらずソファーの上でだらけている。

 枝折も変わらず、座席ではなく背もたれに後ろから座っている。

 莉雄はソファーに浅く座った。

 大翔が前のめりに座り直しながら言う。


「さて、そんじゃ、色々説明する。心の準備は良いか?」


 大翔が全員を一瞥する。


「ま、準備ができてなくても進めるけどな」


 突如、葵がぼろぼろと泣き始める。葵は姿勢を保ったまま、必死に泣くのを堪えている。だが、その両目から大粒の雫が褐色の頬を伝っていく。


 その様子に莉雄も慶も驚く。


「おい、話す前から糸織が泣き始めてるけど?」

「え? ちょ、大丈夫? 大翔、糸織さんが……」


 大翔はソファーから立ち上がり、葵の肩を抱きしめる。葵は口を真一文字に結んだまま、なおも泣くのを堪えようとしている。

 大翔は申し訳なさそうにしながら葵をあやし、そしてそのままの姿勢で莉雄と慶に言う。


「結論から言う。この世界から、みんなには出ていってもらう必要がある。近いうちにな。さっきも言ったように、そのことは一足先に、葵には伝えてある」


 “この世界から出る”。その言葉の意味の説明を、莉雄と慶は待った。


 大翔は葵の肩を抱きしめていたのを、葵に優しく小声で断って離れる。葵は尚も泣いたままだったが、強く頷いて大翔が離れるのを同意する。


 大翔が手を上げると、真っ白な空間の、五人のソファーの中心に、正八面体の石が現れる。大きさにして、一画の長さが約40cm。淡い橙色をした石だ。その石は何の支えもなく、宙に浮いている。


「こいつが、この世界を作った……スパルトイだ」


 慶がソファーから起き上がり、座り直して言う。


「スパルトイ? こいつが、いや、これがか?」

「ああ、の能力は、“自分の頭の中に別の人間を閉じ込める”ことだ。俺たちは、。詳しくは分からないんだが、俺たちが彼女を見つけた時には既にこの状態だった。そして、……


 大翔の返答に、慶が質問を重ねる。


「つまり、俺たちは彼女の空想上の存在なのか?」

「少し違う。彼女が作った空想の世界に、んだ。そういう能力だ」

「なるほど……なるほど? そういわれても急に『はいそうですか』って言えねぇよ……だが、この世界がイメージの世界だとしても、俺たちは実際に居る、で良いんだな?」

「ああ、ここにいる五人とスパルトイたちは、外の世界……から来ている。もしこの世界で死んだりすれば、現実でも死ぬ」


 外。現実……この世界は、やはり作り物だった。

 大翔が説明を続けようとするのを、慶が止めて、少し神妙な面持ちで言う。


「あともう一つある……その石がスパルトイだとしよう。だが源口、お前はそいつを“彼女”と呼んだよな?」

「ああ」

「スパルトイは、人間なのか?」

「……ああ。スパルトイは、“人間の脳みそを使って作られたアンドロイド”だ」


 その言葉に、慶はさしてショックを受けた様子もない。

 大翔がそのことを聞く。


「驚かないのか?」

「まあ……な。そんな気はしてた」


 大翔は莉雄に視線を送る。言うなら今だろう、と。

 莉雄は切り出した。


「あの……それに関してなんだけど、ボクも言いたいことが有るんだ」

「おう、なんだ? まさかとは思うが、莉雄もスパルトイですとか言うなよ」


 莉雄は黙ってしまった。

 慶は大きなため息をついた。


「マジか。マジなのか。え? 冗談じゃ済まされないぞ!?」

「ごめん。でも、ボクはスパルトイ……だった」

「だった? 人間に戻れたとでも言うのかよ! 人間に戻ったので誰も襲いませんとでも?」

「でも事実だよ。スパルトイであった時のボクの行動が、この世界を作る原因の一つにもなってるし他にも」


 大翔が二人の間に割って入る。


「そこまでだ。待てって。それに関しては、順を追って話そう。その方が良さそうだ」


 大翔は莉雄に言う。


「この世界における物語は、全部俺のエゴだ。わがままの結果なんだ。だから、俺から言わせてほしい。この、仮想世界の真実を」


 大翔は自分の席の前に戻って、されど座らずに話を続ける。


「今、外の世界、現実は酷い有様だ。今もなお、スパルトイと人間の戦争が続いてることだろう。少なくとも、小鳥遊たかなしはそういう風に教えてくれた」

「俺か?」

「ああ。まずは、外の世界に関して話しておく」


 大翔は少し前の出来事から話し始めた。


「2019年、どこからともなく、そして密かに、スパルトイによる人類への攻撃が始まっていたんだ。そしてその年の間に、スパルトイの活動は表面化。直接人類への攻撃を開始したんだ。もちろん、何の対抗策も無い人類は見る見るうちに追い詰められて行った。だが、そこにスパルトイへの対抗策を持つと言われる集団が現れた。彼らは“プロミネンス”と名乗った」


 大翔は全員の反応を見ながら話す。


「そのプロミネンスっていう組織が表立って、対スパルトイ対策を各国に呼び掛けた。今、人類はスパルトイと戦っている。その中には、俺たちのようなギフテッドも居る。人類はプロミネンスの発明品と、ギフテッドによるゲリラ戦か水際作戦で対抗してる」


 慶がそれに口を挟んだ。


「待て、ゲリラ戦って、少数でその場で敵を見つけ次第攻撃って作戦だろ? 水際作戦ってのは、敵が動き始める前に総力で潰すって作戦だろ? 真逆じゃないか?」

「だよな。俺もそう思うんだが……要するに、人類を殺すように作られてるスパルトイ相手には戦力が足りなかったんだ。いつでも、慢性的な戦力不足だったんだ。だから、行き当たりばったりだったのさ」


 大翔は下唇をむ。

 慶が質問を重ねる。


「あと、プロミネンスってのは、どんな連中なんだ?」

「それに関しては、多分記憶を取り戻した後の慶のが詳しいぞ」

「そう、なのか?」

「ああ。小鳥遊、お前はプロミネンスのエージェントだったんだぞ。覚えてないだろうが」

「お、おお、記憶を消した奴が言うのか、それ」


 肝心の慶が答えられなさそうだと大翔は理解し、大翔が答える。


「プロミネンスって奴らは、元は研究者たちだったらしい。ある存在に関して調べていたんだとさ」

「ある存在……ってなんだ?」


 慶のもっともな疑問に、大翔はじっと上を、なにも無い上を見て指さす。


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