初回サービス


「え……あー、慶くん。人には得手不得手があるんだ」

「……ん? それはどういう?」

「あれ? 伝わらなかった? もっとはっきり言うべき? はっきり言うことは人を傷つけるからやめろって習ったんだけど……」

「おい、まさか……」


 慶はショックを受けて、ふらつくように後ずさる。


「でははっきりと! 慶くん、キミには何の能力もありません!」

「はっきり言いやがった! 畜生! 今からでも何か目覚めたりとか!」

「どうだろうなぁ。能力に目覚めるかどうかは、その人次第だからなぁ」



 一人今目の前で起きている光景に警戒心を顕わにして顔をしかめて距離を取る刹那に、ヒカリは口の端だけ上げて話しかける。


「納得いかなさそうだね」

「そりゃ……そうでしょう……こんなの、こんな超常現象、理解ができない。それに、君はいったい、その、なんなんだ? どうして、自分たちですら知らないことを知っているんだ? 君はなんだ?」


 ヒカリは後頭部を掻いて小さくぼやいた。


「んー、ちょっと酷だね、これ。流石に同情を禁じ得ない」


 そして、ヒカリは全員に向けて言う。


「言ったろ。ボクは、キミたちのサポートで来たんだ。全部を言うことは今はできない。でも、何も助言をしなければ、キミたちが危険だと、ボクが独断で判断して行動した。直接手を貸すことはできないけれど、少なからずキミたちを助けに来たのは事実だよ。刹那くんが信用できなくても、他に道が無い、ちょっと残酷な現状なんだよ」


 ヒカリはため息をついて続ける。


「これらの能力は、世の中では色んな呼び方をされてきたんだ。超能力、霊能力、魔術、あるいは、神の加護とか……でもね、共通して、使うのは人間なんだ。人間の想像力次第なんだよ。君たちのような能力を持った人間を、ギフトを受け取った者、“ギフテッド”と呼称するんだ」


 ギフテッド。自分たちは、ギフトを受け取った、ということになる。


 同時に、これらが無ければ対抗するのは苦しいということなのだろうか? それは……どういう意味を含むのか……彼らはまだ理解していない。


「そして、スパルトイは、ギフテッドではないのに無理やり機械の力で能力を引き出した、人類を殺す目的を持った兵器なんだ。戦わないと、死ぬしかないんだ。残酷だけどね」


 刹那に向き直って付け加える。


「刹那くんの能力は……きっと、キミはもう気付いてるよね? どれぐらい使えるかは解らないけども。それを教えるのはボクじゃないかな、って思うから、ボクは黙っておくね」

「それは、どういう……?」


 消え入りそうな声で疑問を口にしようとした刹那の言葉をかき消すように、慶が唐突に言う。


「あ! そうだ。そもそも今から退けなくちゃならない奴。金属を操る能力とか言ってなかったか?」

「え?」


 莉雄は自分の能力を思い返す。


「そもそも、葵のおじさんが歯が立たなかった理由がだな……どうすんだよ、お前」

「そ、そういわれても……えぇ、どうしよう」


 するとまたヒカリが莉雄の腕にしがみつきながら言う。


「仕方ないなぁ。初回スペシャルで、特別にもうちょっとだけ教えてあげよう」

「おお! 良妻賢母!」

「りょうさいけんぼ……? なんか、ボク褒められてる!?」

「褒めてる褒めてる! 旦那も喜ぶぞ!」


 慶に煽てられながら、ヒカリは鼻息を荒げながら言う。


「良いかい? 能力はあくまで“人間の想像が及ぶ範囲”なんだ。それらは無限の力を持つわけじゃない。何をかくそう、能力を使用する上でのルールがあるんだ。それは君たちギフテッドも、スパルトイも同じ。全ての能力にルールがあるんだ」


 まだわかってないみたいだね、とヒカリは続ける。


「ほら、スパルトイが能力を使う時、何て言ってたかな?」


 ヒカリのその問いに、刹那がぼやくように答える。


「素材は、鉄……って言ってたような」

「素材? その物体が何で出来てるか、ってことか?」


 その言葉を慶が拾う。莉雄は思い出したことを口にする。


「そういえば、葵のおじさんの腕、金属に変わってた腕を拾い上げた際に『素材は鉄、アルミ、はずれか』って、そんな感じの事を言ってた。その際は、能力を使用出来てないみたいだった」


 慶は考えを纏めて、ヒカリに聞く。


「あのスパルトイの能力は『金属操作』だが、ルールとして、操る金属の種類が解ってないと操れない、ってことか?」


 ヒカリは苦笑しながら頷く。


「本当はボクが答えちゃ駄目なんだけどね。初回スペシャルってことで。ボクってば、ようさいけんぼ? だからね!」


 天然なのかワザとなのかわからないヒカリを脇に置いておいて、慶は莉雄に提案する。


「よし、ってことは、マニアックな金属を出せばいいんだな?」

「ま、待って、それでいくと、想像できないぐらいマニアックな金属じゃだめだよね!? メジャーどころじゃやっぱりだめだろうし……」

「安心しろ、名前ぐらい聞いたことが有る金属だし見かけたこともあるかもしれん」


 慶が莉雄にその金属の名前と、身近に使われている物を教えた直後、両腕を失い変わり果てた繁が裁縫室のガラスを突き破って投げ入れられる。


 そして、その後ろから、人の似姿をした兵器が、莉雄たちの前に現れた。

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