「将来の夢を見つけたとき」
温媹マユ
将来の夢を見つけたとき 大山田 茉央
私は最近になるまで将来の夢が思い浮かびませんでした。趣味もなく、得意な科目もありません。
そんな私にも唯一続けていることがあります。それはピアノです。
一年生から習い続けていて、発表会にも毎年出ています。
でもそれは、私が好きで始めたことではありませんでした。姉が最初に習い始め、なんとなく私も始めました。
でもピアノを弾くことにあまり興味を持てなかったので、それほど練習もしませんでした。そのうちやめようとも思っていました。
私の家にはピアノがありません。家での練習にはキーボードを使っていますが、やはり本物のピアノとは違います。
だから発表会前など、必要なときには先生にお願いをして音楽室のピアノを使わせてもらっています。
その日も発表会前で音楽室のピアノを使わせてもらい練習をしていました。練習するときはいつも私一人です。誰もいません。誰かいるときは練習をしません。
誰かに聞かれるのはとても恥ずかしいです。本当は発表会もとても恥ずかしいので出たくありませんでした。
でも習っているみんなが出るので仕方ありません。
私が音楽室のピアノで課題曲の練習をしているときでした。うまく弾けず、いつも同じ所で詰まっていました。何度練習をしても同じでした。
発表会には興味がないといっても、せめて詰まらず弾きたいと思っていました。
たくさんの人の前で弾くのも恥ずかしいですが、詰まってしまう方がもっと恥ずかしいです。
このままでは本番も同じ所で詰まってしまいます。何度練習をしてもうまく出来ない私は、とてもイライラしていました。
そんなとき、クラスメイトの篠崎灯ちゃんが音楽室に入ってきました。
灯ちゃんに聞かれていたことが恥ずかしくなって、片付けて帰ろうとしました。
でも灯ちゃんは何も言わず私の横に座って課題曲を弾き始めました。
それはとても上手ですらすらと弾いていました。抑揚もしっかりとして、先生が弾くよりも上手に聞こえました。
そして灯ちゃんは私の詰まったところを丁寧に教えてくれました。
灯ちゃんは二学期にこの学校へ転校して来ました。
そのときはまだ転校してきてひと月ぐらいしか立っていませんでした。
私は灯ちゃんとほとんど話をしたことがありませんでした。灯ちゃんは教室でもいつも一人でした。話しかけてもあまり話をしてくれません。
だから灯ちゃんがこんなにピアノが上手だとは知りませんでした。
それに灯ちゃんの方から話しかけてきてくれることにとても驚きました。
それから何日か私が練習をしているときに、灯ちゃんは来てくれました。
そして練習を繰り返す内に、私は課題曲をすらすらと弾けるようになりました。
それが楽しく、いつまでも弾いていたいと思うようになりました。
私たちは発表会までの数日間、練習だけでなくいろいろなことを話しました。学校のこと、家族のこと、好きな食べ物のこと。そして本を読むのが好きだということ。
多分他のどの友達よりもたくさんお話をしたかも知れません。
発表会の日、私は課題曲を詰まらず最後まで弾くことが出来ました。これも灯ちゃんのおかげです。
でも灯ちゃんは発表会が終わった次の日から学校に来なくなりました。
どうしてこなくなったのか、私は正確な理由を知りません。
毎日灯ちゃんが学校に来るのを待っていました。
この作文を書いている日も、灯ちゃんは学校に来ていません。
発表会ですらすら弾けたことと、教えてくれたお礼がまだ言えていません。
灯ちゃんは大人になってもピアノを続けたいと言っていました。もっともっと上手になりたいとも言っていました。
私もだんだんとピアノを続けたいと思うようになりました。私はまだまだ下手ですが、灯ちゃんのように上手になりたいと思うようになりました。
私は今、将来ピアノの先生になりたいと思っています。ピアノの先生になって弾くことの楽しさを教えていきたいと思っています。
灯ちゃんが教えてくれたピアノを弾くことの楽しさを、私もたくさんの人たちに教えていきたいと思います。
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