第15話 愛された人
「ミスレディ、すいません」
佐々木は、悪いとはとても思っていなさそうな憤然とした面持ちで家主であるレディに謝った。
誰もがある程度は予想していたことだろう。案の定、当然といっても差し支えはない。
たくさんの量のお酒があって、一番最初に酔いつぶれるのは、一番酒に弱い人間だ。
「ささきさーん。蘭を酔わせてどうするつもりぃー」
「どうもしないって言ってんでしょうが。だから程々にしろっつったのに」
蘭はふにゃりと身体に力が入らないまま、ただずっと笑っている。幸せそうで何よりだが、最も構われる佐々木は眉を顰めたまま眉間の皺は固定されている。
「むしろごめんなさい」
最も蘭に近い身内であるレディが逆に平謝りする始末だ。佐々木と対象的に眉を八の字にして唇を"い”の形に歪めたまま、蘭の奔放ぶりをどうにもできずにいる。
「あの、蘭に悪気はなくて、ただ佐々木さんをだいぶ、その、気に入っているみたい」
レディでさえ、蘭がここまで絡み酒になるところはあまり見たことがない。いつもある程度は自由奔放になるが、ある程度で収まるような飲み方を彼女はきちんと心得てる。ところが佐々木に絡み始めた途端、どうにも収まりが効かなくなっている。
「ささきー……ささっきー! あっはは!」
「どんなテンションなんだ」
蘭が抱きついたまま爆笑し続けているのを佐々木は強く振りほどくこともできないでいる。
ますますレディが申し訳無さで茫然とするのを見て、佐々木が肩を竦めた。
「ミスレディは流石に変化がありませんね」
同じ量を、いやそれ以上をレディは飲んでいるにもかかわらず、顔色一つ変わらないでいた。
薄く施された化粧も、長い黒髪も全く乱れる様子がないので、ノンアルコールでも飲んでいるのではないかと佐々木が不思議に思ってしまうほどだった。
「あ、いや、実はそう見えるだけで……」
そう述べて一歩、レディが後退りすると背中に硬い感触を感じた。すぐ後ろに立っていた斗真の胸板に背中があたったからだ。斗真はレディの右手を優しく握って微笑んだ後、佐々木へと視線を向けた。
「佐々木。タクシー呼んで、蘭ちゃん経由で帰宅していいよ」
蘭をもう一泊させるつもりだったレディが「えっ」と斗真を振り返るが、意味深な笑顔に阻まれて、それ以上何も言えなくなった。
「うちに連れて帰ります。この時間になると、蘭さん帰る場所無くなるんで」
この時間、と言われてレディが時計を見上げるととっくに零時を回っていた。いつの間にこんな時間になっていたのか、気分的にはまだ十時やそこらだ。
佐々木が手慣れた様子で蘭を抱き上げると、騒ぎすぎたのか少し具合が悪くなった蘭は、うーんと唸りながらも、佐々木に身を任せた。
二人のいかにも親密な様子にレディが口に手を当てて、「もしかして」と邪推すれば、佐々木は違いますよ、と首を横に振る。
「ちょっと駆け込み寺になってるだけです」
その言葉を聞いて、レディは大凡の流れを理解した。蘭の複雑な家庭事情と佐々木の優しさがちょうどよく結びついているのだろう。
タクシーを家の前に呼び、蘭を抱えたまま車に乗り込んだ佐々木を見送って、レディと斗真はお互いに顔を見合わせた。
言葉に出来ない静けさがその場を包み込む。顔に含羞の色を浮かべたレディに対し、斗真は一歩ずつ歩み寄る。
「触っていい?」
斗真の放つ独特な空気と、獲物を捉えたかのような鋭い視線は、まるで金縛りかのようにレディを動けなくさせる。
簡単に出てくるような言葉さえ、喉の奥に閉じ込めさせるような、まるごと飲み込ませてしまうような、意地悪で刺激的な声と香りが少しずつ近づいてくる。
レディはただ蛇に睨まれた蛙の如く、情けなく俯くしかない。
「……どこを」
「そうだなぁ、今は頬かな。その後唇――」
言うが早いか、レディが良いと言う前に、斗真は右手でレディの頬を捉えていた。強制的に上を向かせられ、色素の薄い斗真の瞳と視線がかち合う。
「どうして」
「恥ずかしそうなレディが可愛いから、は理由になる?」
ならない、ならないわそんなの。そうはっきり言えたら良いのに、どうしてだか言えない。いっそ楽になりたくて受け入れてしまいそうになる。
ダメ、ダメよレディ。斗真は親代わりになるんでしょう! そう強く言い聞かせて、レディはギュッと目を瞑った。
「――っ寒いから! 中に入りましょう!」
レディは斗真の手を払い除け、肩に掛けたカーディガンを直した。乱れた心、呼吸ごと。
家の中に戻り、二人は散乱したリビングの後片付けを始めた。明日の昼には引っ越すので、片付けられるものは片付けておきたい。
とはいえ、料理に使った調理器具等は全てもう洗ってあるし、あとは不燃ごみの袋にまとめて入れるだけだ。紙コップや紙皿はそのまま可燃ごみへ。そうすると大して労働をする間もなく片付けは終わった。
それからレディと斗真は二人がけのソファに並ぶ形で腰掛けた。残っているビンテージワインを紙コップに注ぎ、この家での最後の乾杯をする。
「自分の荷物はまとまってる?」
「キャリーとダンボール一個よ。佐々木さんの車に乗れる?」
レディは斗真を見上げた。いつものような高級車だと二度往復することになるかもしれないと、レディは考えていた。
斗真は友人からワゴン車を借りるつもりだったので、心配はいらないと、肩を竦めた。斗真のガレージには何台もの車があるが荷物を積むのに適した車は、この家の前の細い道には入ってこれないような大きなSUVしかない。
「乗るってか、少ないね……本当にいいの?」
女性は持ち物が多いだろうと思っていた斗真は、トラックをレンタルすることも視野に入れていた。ところがレディの荷物は限りなく少ない。
「余計なものがあっても邪魔になるだけだもの」
「……ベッドとかソファとか大きい荷物は業者に処分させるからそのまま置いてていいよ。朝に可燃ごみとかだけ出そう」
「わかった。ありがと」
レディがふんわり笑ったので、斗真もつられて笑った。色気のない紙コップの中を斗真が飲み干すと、レディも煽って紙コップを空にした。
「たくさん飲んだよね? 体調は?」
「まだ平気。ちょっと酔ったけど」
吐いたりするほどではない。前後が不覚になることもないし足取りだって割とまともだ。斗真が心配するほどではないが、当の斗真はやけに不機嫌そうにレディの紙コップを奪った。
「いつもこんな感じなの?」
「こんな感じって何が?」
「一緒に飲んだりするとき、いつも蘭ちゃんを庇ってるの?」
「庇ってるってことはないけど、メンツに飲ませたがりがいるときはレディチャレンジさせるわよ」
斗真は会話を続けながらレディと自分の紙コップを並べ、ワインを注いだ。丁度二杯分で、瓶のほうが空いた。
レディが、あとで洗って瓶のゴミとまとめないと、と斗真の手元を視線で追っていると、斗真は不敵に微笑んでレディを見た。
「……勝つんだよね?」
勝つって何が? と一瞬レディの頭の中が真っ白になった。斗真の視線があまりにも鋭いので、思考のほうが追いつかなかった。会話をなぞってみて、レディチャレンジのことだと思い出す。
「負けるという選択肢はないわ」
レディがふんぞり返って鼻を鳴らすと、斗真はふぅん、と不満げに口を尖らせる。
「レディ、特別ルールでチャレンジしていい?」
「あなたには勝てる自信がないんだけど」
レディは思わず無表情になっていた。前回ボロボロに負けているからだ。同じ種類同じ量のお酒を早く一気飲みしたほうが勝ち、という単純なルールで斗真は最強と言える。
上には上がいると既に勝つことは諦めていたのに、斗真は足を組んで悪魔的に微笑むという、挑発的な態度をとった。
「負けるという選択肢は?」
「性格の悪い聞き方ね」
この会話でレディに断るという選択肢がなくなった。このチャレンジは受けなくてはいけない。何をねだられるだろうか、斗真は一つ許すと十くらい持っていきそうで怖い。無理強いしないとはわかっていても、よくわからない強制力を彼は持っている。
斗真は片方の紙コップをレディに差し出した。
「ワイン一杯分ね」
「聞いといてもいいでしょ? ルールはどうするの?」
「レディが勝ったら、僕がレディの願いをなんでも一つ聞く」
ありがちだ。願うことなんかあったかしらと、レディは唇に手を当てて考える。それともう一つ。
「負けたら?」
「僕は今日ここに泊まる」
斗真の願いは単純明快で、レディにとっては少々意外だった。もう何度も泊まっているのに、わざわざ願うようなことだろうか。それに――
「――」
「ん? なんて? 聞き取れなかった」
「なんでもないわ。はじめましょ」
レディが目を伏せて首を振ると、斗真はまあ良いかと居住まいを正す。
レディと斗真は同じように紙コップを持って目配せすると一気に煽った。
先に飲み終わる斗真を確認してから、レディはコップから口を離した。
負けることは織り込み済み。最初から、これは勝負になっていないのだから。
◆
片付けを終え、寝る準備をした二人はぎこちなくベッドに入った。斗真が自然な仕草でレディに腕枕をするが、以前泊まったときのようなムードは一切作らなかった。
今日はもしかしたら最後までされるかもしれないと、余計な覚悟をしていたレディは若干拍子抜けだ。なにもないに越したことはないのだが。
「何もしないのね」
そう言ってから、失言だとレディは気づく。これではまるで、レディの方が求めているみたいだ。
「何かして欲しいの?」
「誰がそんなこと言ったの? 今までの流れがあったからで、別に私は」
取り繕おうとして早口になるレディの唇に、斗真が腕枕をしていない方の人差し指を当てた。
「可愛いなぁ。何もする気は無かったけど、もし、レディが望むなら――」
「望むわけないでしょう!」
レディは顔を真っ赤にして手を振り上げる。勿論その手は簡単に、斗真に捉えられてしまった。悔しさに下唇を噛む。
「ふふ、それでいいよ。下心がないとは言わないけど、一応ご両親の代わりも務めるからね」
それは斗真なりの配慮。家族をすべて失ったレディへの――
「――」
「ごめん、亡くなった両親のことを思い出させた?」
レディは懸命に首を振ったが、あながち間違いでもなかったので、ぎゅっと斗真のTシャツを掴んだ。
「……同じ車に乗っていたの。逆走してきた大型トラックと正面衝突、両親は即死。後部座席の私だけが無事だった」
余計なことだとはわかってるのに。わざわざこんな重い話しなくてもいいのに、レディの口は勝手にぽつりぽつりと呟いてしまう。斗真にだけは、何故か何でも話せてしまいそうだ。
「色んな大人が色んな話を聴きに来て、でも必ず、どうして一人だけ無傷なのって言ったの」
「酷いな」
「他人事だもの、いくらでも無神経になれる。人間は冷たくて信用に足らない生き物だって思ったわ。でも、そう分かってても一人になると震えるの。寂しいって」
身体が勝手に悲鳴を上げる。一人の真っ暗な夜は怖くて、誰でも良いから、どんな理由でもいいからそばに居てほしいのに。その願いを口にする誰かさえ、レディにはもういなかった。
だから強くならなくてはいけなかった。一人で何でもできる自分にならなくてはいけない。そんな強がりなレディを、盲目な老人は数多くの知識と信仰という拠り所で、支えてくれた。
「お祖父さんが亡くなった時も震えた?」
「……またひとりぼっちになったから。ここでの夜も、これが最後だと思うと……」
やはり震えはじめたレディの手を掴んで、斗真は優しく抱きしめた。レディは泣きそうになる自分を、ぐっと抑え込んでいつもどおりの声色を作る。
「奇跡は、最後まで起きなかった」
聖母と同じ名前を持ちながら、奇跡をレディは起こせなかった。祖父を守れなかった。自分のせいだと思った。自分が至らないから、自分が邪だから、だから神は味方してくれないんだと。
斗真に運命のせいだと言ってもらえるまで、レディは一人で自分を責め続けた。
「本当にそう思う?」
「え?」
「奇跡ってさ、死んだ人を生き返らせるとかじゃないと思うんだ。それができるのは神様だけなんだろ?」
「それは……」
「お祖父さんは君に奇跡が起きたって言ったんだよね?」
「うん……何が奇跡だったのかは教えてくれなかったけど」
「これは僕の妄想だけど」
斗真はこれ以上ない優しい声色で、レディにそっと語りかけた。子供に子守唄を歌う母のような慈愛に満ちた声だった。
「彼にとって奇跡は、自分が尊敬してやまない聖母によく似た美しい娘を持ったことじゃないのかな。そしてお祖父さんはもう目が見えなかったけど、君がお母さんに似ていることを願った」
「母のことをどうして斗真が知ってるの?」
「ああ、お祖父さんのご友人に見せてもらったんだ。君のお母さんの写真。すごく、ピエタのマリアに似ていた」
斗真は一瞬だけレディから離れ、ベッドの側においた上着のポケットから写真を取り出した。レディに渡して欲しいと頼まれた、レディの母の写真だ。
レディは上半身を起こして斗真から写真を受け取った。自分とよく似た母の若い頃の写真。まるで自分が生き写しのようだ。
「……確かに願っていたわね。母に似てるっていうことはピエタのマリアに似てるということよ。私、だから嫌だったの。聖母と同じ本名も使いたくなかった。私は彼女じゃないもの……」
祖父はレディのためにマリア像を購入し、分身と呼んだ。それが彼にとって嬉しいことだったからに違いない。
レディは目を伏せて思い出していた。大好きな祖父、彼はもう、見えなかった。それでも、私と私の母が、彼にとっての奇跡だったなら。レディは零れそうになる涙を抑える術を知らなかった。
斗真に見られたくなくて、背を向けて横になり、毛布をかぶった。
「いくらでも泣いたらいいよ」
斗真はレディの後頭部を優しく撫でた。太い指にも手のひらにも、少しも力が入っていなかった。まるでガラス細工を扱うかのように、レディを少しも傷つけない力加減だった。
「斗真って性格がいいんだか悪いんだか、どっちなんだろう」
「僕は極悪人かもしれないけど、レディには出来る限り優しい人間でいたいと思ってるよ」
でしょうねと、レディは力なく笑った。もう疑ってはいない。
けれど、そんな風に献身されるほど、レディは斗真に何もしていない。レディは以前聞きそびれた答えを、もう一度聞こうと涙があふれる瞼をこすった。
「ねぇ……三年前、私たちに何があったの? どうして斗真は私をそんなに好きになったの?」
どうしても聞きたかった。レディには思い出せない、三年前の二人の出会いについて。
「僕は三年前、君と緑地公園で会ったって言ったね」
レディは頷いた。それはもう既に聞いた。初めて斗真に会った時に。けれどこの目立つ人との強烈な出会いを、レディ自身は覚えていない。
いくら異性に興味がなかったとは言え、斗真はそういう次元ではないところで記憶に残りそうなものだ。芸能人を偶然見かけたときの感覚に近い。
「あれは正確には少し違うんだ。僕は緑地公園にいた君とお祖父さんを、全く別のところから見ていた。取引先のビルが近くにあってね」
見ていた、私達を。レディは少し考えて、息を呑んだ。どんな場面を、見られたのか?
「君たちは周りに人気がなくなったのを確認して――」
斗真の記憶に残るほどの、強烈な、衝撃的な――思い当たる節があって、レディは振り向いた。斗真にそれ以上言ってほしくなかった。
「――キスをした」
「……っ」
やめて、と言おうとしたレディの声は間に合わなかった。斗真の真剣な表情と視線が絡み合う。
「正直、理解ができなかったよ。君は若くて、美しい女性だ。なのに何を考えて、どういう気持ちでしわくちゃの老人にキスしてるんだろうって。それはもうすごい衝撃」
三年前、まだレディは十五歳。女子中学生がキスをする相手が老人だったら、まず犯罪性を疑うのが通常の感覚だ。だから斗真はレディを調べた。人間関係、家族構成――するとキスした相手は実の祖父だという事実にたどり着く。
穏やかな春の昼下がり。花々が咲き誇る緑地公園で、盲目の老人の手を握った少女は花々の香りを嗅ぐ。そんな幸せな時間だったのだろうということも。
「でも、僕にはとても家族のスキンシップだったとは思えなかったんだ。僕は君をもっと知りたかったけど、機会がないままお祖父さんは亡くなってしまった」
家族が戯れでするような、柔らかなものではなかった。取引先のビルから見えるレディの表情は、大人の女のものだった。うちに情熱を秘め、燃え上がる炎、真っ赤な薔薇のような華やかで苛烈な激しさ。脳裏に焼き付いて離れなかったその情景が、斗真の衝動を突き動かす。
もっと知りたい、もっと深く、少女の真髄を見極めたい――。
気がついた時にはもう、蜘蛛の巣に囚われた小蝿のようにすっかり、レディに夢中になっていた。
「もしかしたら、疲れた頭が見せた夢かとも考えた。角度の問題、もしくは見間違い。でも僕の疑問は予想に変わったんだ、ここにはじめて来たとき」
首尾よく大家から合鍵を手に入れ、斗真はこの家に入った。その時感じた違和感は、肌をチリチリと刺すような刺激的な感覚だった。
「この家には寝室が一つしかない。若い娘と老人の二人暮らしにしては気遣いがなさすぎると思うのが普通だ。ベッドは一つしかない。もしかしたら君たちは……予想は昨日、確信に変わった。家族に対して、"My buddy"は使わない。」
全ての事象を当てはめれば、答えは明瞭だ。長年かけて理解した友人とは少し違う、土足で踏み入って、証拠を掴んで、ピースを当てはめて、斗真は一つの結論にたどり着いた。
斗真の真剣な瞳に、レディは何も言えなくなった。ああもうだめだ、ここまでわかっている人に何の誤魔化しも聞かない。レディはかぶりを振った。
ずっと本心を隠して生きてきた。本当は好きな人がいるのにいないことにした。高嶺の花のような素振りで男を寄せ付けなかった。単に心がもうひとりの男のものだったからだ。
「君とお祖父さんは、恋愛関係だった、んだね?」
「恋愛ね、どうかしら……」
はっきり男女の関係だったと言えるほど、老人とレディのスキンシップは多くなかった。毎日同じベッドに眠るだけ、たまにいたずらに口づけをするだけ。外国にかぶれた家族のスキンシップだったと言い張れば、それで済むくらいのささやかな愛だった。
けれどレディにとっては命を、人生をかけた大恋愛だった。この人以外はもう愛せないとすら思っていた。春の木漏れ日のように暖かく、孤独だったレディを包んでくれた素敵な男性。実の祖父であるかどうかなんて、些末な問題だった。
レディは斗真から視線をそむけ、本心を隠そうと、今一度斗真に背を向けた。
「緑内障を患ってた彼には私がよく見えなかったの。私は彼が見えないのをいいことに、恋愛ごっこをした。きっと私の片思い。――彼には何の罪もないわ」
汚れているのは私だけだと、レディの細い背中はそう語っていた。
故人を汚したくないのか、真実そうだったのか。それはもう二人にしかわからない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます