第6話 ア・コーナー・オブ・ヨヨギパーク

 オーナーは他のプロデュースで忙しい中、俺の面倒を見てくれた。


 それに応える為、毎日ギターを掻き鳴らした。


 そしてある日、仲間ができた。


 オーナーが紹介してくれた。音楽の専門学校に通っている人達らしかった。


 俺を含め四人でバンドを組むことになった。勿論イコールデビューってわけじゃあない。俺はまだまだプロデュースをするに値しないっていうのは解っていた。それよりも単純に同じ志を持った仲間ができた事が嬉しかった。


 俺は光栄にもギターヴォーカルを任せられた。


 バンドの名前はシナプス。オーナーがそう命名した。


 メンバーは学校もあるので、集まれる事はそんなに多くなかった。


 だから俺はたまに公園に行って弾き語ってみたりした。近くの公園だと親や知り合いと鉢合わせる可能性があったので、ちょっと足を延ばして代々木公園まで。


 代々木公園の良い所は、多様性があるところだ。

 音楽に乗ってダンスを踊っている人。

 でかいオウムを連れて散歩している人。

 スケボーで派手に転んでいる人。

 その割に、イベントさえなければ人の入りもそこそこ。混み過ぎて弾き語っていると通行人の邪魔になるって事は無い。

 空間は開けているけれど、そこかしこに木があって、スペースを一にしていない感じもまたいい。


 ギターのチューニングをしていると、遠くの方でとても綺麗でいながらにとても張りのある力強い声が聞こえてきた。女性の声だった。聞き覚えの無いメロディ。オリジナルだろうか。

 可愛らしい声よりも、ああ言う声の方が好きだな。


 チューニングが終わる頃にはその歌声も消えてしまい、代わりに大きな拍手が響いた。


 結構なオーディエンスの前で歌っていたんだ。凄いな。


 何の関係も無い人の歌声に心躍り、その日の【ワンマンライブイン代々木公園の片隅】は大いに盛り上がった。いや、まあ、俺一人なんだけど。

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