第14話 探索者組合
ユリネさんがお休みということで、かねてから行く予定だった探索者組合に向かっている。
実はここに来て、初めて家族別行動になった。
夏梛はカレラちゃんと一緒に、午前中いっぱいはシズカさんに魔法の基礎や一般教養などを習うことになった。子どもも少なく学校もないため、基本的にその地域の年長の者が教育をする決まりがあるのだとか。
本来ならば旅行から帰ってきて学校に行っているばずなのだけれど、異世界に転移してどうにもままならない状況なわけで。勉強を一緒にやらないか、というシズカさんの申し出はありがたい物だった。
この世界で生きていくのならば、日本の教育ではなくこの世界相応の教育は必要なはずだ。
篤紫は立場上、何かしらの仕事をして稼がないといけないだろうれど、桃華には落ち着いたら一緒に教えてもらうように頼んである。
ちなみに今日の桃華は、街までオーダーメイドで頼んであった衣類を受け取りに出かけていた。大量生産をせず職人が手作業で衣類を作っているため、注文からできあがりまで時間がかかる。
今日は頼んだ物のうち、既製品の手直し分ができあがる予定日らしい。急ぎで必要な、厚手のコートや防寒具が今日の受け取りなのだとか。
ついでに、食材なども仕入れてくるそうだ。
荷物がたくさんになるはずなので、全部持てるか心配だが……。
そんな流れで、探索者組合には篤紫とオルフェナが向かっている。
『篤紫、遅いぞ。もう少し早く歩けぬのか?』
「いや……待て……おま…早すぎるって」
『軟弱者よの。普段から運動をせんから早々にバテるのだよ。
ユリネ殿を見習うがいい、息一つ乱れておらんぞ』
「えぇ……む、無茶な……」
「オルフェナさん、さすがに駆け足は歩くとは言いませんよ」
向かっているはいいのだけど、早歩きを超えて駆け足になっていた。かれこれ30分は走っている。
もともと、北門までユリネさんの移動速度で40分かかるそうで、どのくらいの速度か聞いたのが間違いだった。どうも仕事の日は、北門までランニングで通勤しているようだ。
体力と持久力があるつもりでいたが、車移動の生活をしていたせいか、思いの外走れなかった。オルフェナと掛け合いで競っていたので、やめ時を逃していた。
そもそも、小さいといえ4足歩行の獣に勝てるわけがない。
「アツシさん、速度を落としましょうか?」
「で……出来れば…お願いします……」
そして、篤紫は路肩に倒れ込んだ……。
探索者組合北門支部は、文字通り北門の近くにある大きな建物だった。
北門からは大通りがそのまま西門まで長く続いているため、通りに沿って建っている建物は2階建ての大きいものがほとんどだ。
そんな建物群の中にあって、もし看板がなければ、簡単に見逃すほど地味な建物だった。
そう、初日に前を通ったはずなのに、完全に初見だった。
「あら、ユリネじゃない。昨日のブラックグリズリー、あなたの部隊が仕留めたんだって?
冬眠時期に出てくる個体は珍しいねって、みんなで話していたところよ」
扉のない入り口をくぐると、脇の受付カウンターにいた女性が話しかけてきた。長い耳が特徴的なエルフだ。緑色の髪は、肩口で綺麗に切りそろえられている。
窓口は5つほどあるが、今は彼女だけのようだ。
「こんにちはサラティナ、相変わらず情報が早いのね。
ここのところ地震が頻発しているから、驚いて出てきているのかもって、いうのがうちの部隊の推測よ。
この間も、ヘルウルフがかなり下まで下りてきたから、他にもいろいろと影響が出ているかもしれない」
この間とは、自分たちが襲われていたときのことだろう。
「それで、今日はどうしたの?」
「うちの隣に新しく引っ越してきた方が、探索者登録をするために、よく知っている私が案内してきたのよ」
そう言いながら紹介……してくれないのね……。
「お隣というと、タカヒロさんの生家のこと?
あそこ条件が厳しくてなかなか居住者が入らなかった家じゃない」
「確かにびっくりしたかな。国民課はタカヒロさんの直轄だけれど、まさか自分から動いてくれるとは思わなかったよ。
もともと私のお客さんで、この間ヘルウルフに襲われていた家族の方なんだけど、そこの娘さんがカレラと同じ歳っていうのも関係あるかも?」
「それだったら、先月のダークエルフ一家も娘さん、確か一つ違いじゃなかった?」
「あれ、そういえばそうか……」
……本来の目的を忘れて話し始めてるし。
足下のオルフェナに顔を向けるも、首を横に振られてしまった。
あきらめて、通路を挟んで受付の反対側にあった椅子に腰掛けて待つことにした。オルフェナも椅子の横に丸まったので、こういう時は諦めて待つのが正解なのかもしれない。
話し込むユリネさんとサラティナさんを横に置いて、探索者組合の中を眺めてみた。
入り口から続く通路は、大きな素材を運ぶためか、幅4メートルほど確保されていた。受付と今篤紫がいる待合室の先からは、幅が10メートルになり、奥に見える大きなテーブルまで20メートルほどの空間が存在していた。
今が午前中の中途半端な時間だからか、自分たちと組合の職員以外には誰もいなかった。おそらく夕方時分には人と素材で賑やかになるのだろう。
壁際では数人の男が、解体道具の手入れをしていた。
『のう、篤紫や』
声に振り返ると、オルフェナが壁際で上を見上げていた。壁一面は掲示板になっていて、紙がたくさん貼られている。
『すまないが、我を抱え上げて、紙を見る手伝いをしてくれないだろうか?
素材の詳細が掲示したあるようなんだが、我の場所からだと何が書いてあるのか全くわからんのだよ』
掲示板自体は子どもでも見られるようにだろうか、低めに作ってあった。しかし、体高20センチメートルあまりのオルフェナには見える高さではないようだ。
『ふむ、助かる。
5種類ほど来がけに狩ってきてあるのだが、女子どもが話している間に幾らになるか目安を見ておきたい』
抱え上げると、オルフェナは貼られている紙を確認し始めた。左に、右に指示が出るたびに移動しながら、篤紫も何があるか確認してみた。
この間襲ってきたヘルウルフは、掲示板の上の方にあった。どうやら下に掲示されている物が易しく、上に行くにしたがって難しくなり素材ランクが上がっているようだ。
自分たちを襲ってきたヘルウルフは、一体で金貨7枚の買取価格が付いていた。金貨1枚で100万円換算したとしても、単純に700万することになる。
すごい金額だが、そもそも狩れる気がしない。
ちなみにさっき話題に出ていたブラックグリズリーは掲示板の中段にあって銀貨20枚だった。
『ヘルウルフ以外は名前がわからんが、我が狩ってきたのはそこそこの金額になるやもしれんな』
「……オルフェナはいったい何をどうやって狩ってきたのさ」
篤紫はびっくりして目を見開いた。
『うぬ? 気がついたときには噛みつかれていたから、圧縮した光線で脳を貫いただけだがな。車内の倉庫に3体ほど入れてある。
もちろん、この姿のままで取り出せるぞ』
……オルフェナはかなりハイスペックだったようだ。
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