あいたかった
植木鉢たかはし
あいたかった
メアリー・スー。
アメリカ人、23歳、女性。天才と言われたその人は、ただ一人、パソコンに向かっていた。
その天才の職業は何かというと、物書きだった。甘い恋愛ものから、どろどろとした人間ドラマ。ホラー、ファンタジーまで、ありとあらゆるジャンルを得意とし、それらは爆発的に売れた。
孤児院で暮らしていた彼女にとってそれはあまりにも幸福で、現実とは思えないような出来事だった。
自分のやりたいことをやって、こんなにたくさんの人が反応を示してくれる。
純粋な喜びと同時に、ある、一つの目的が果たされないことに悩んでいた。
彼女は、有名になりたかった。
そして、自分の活躍を知った両親に会えることを期待していたのだ。
幼い頃に捨てられ、孤児院に拾われ、育てられた。孤児院の人はみんな優しかったが、やっぱり、両親に会ってみたかった。
インターネットが発達した今の世の中、何かしらのレスポンスがあるかもしれない。
そんな風に思っていたが、一作目が大ヒットしてから、もう二年経っていた。広い世界、そんなに上手くはいかないのか。
そんな彼女がパソコンに向かって、食い入るように見ていたのは、一通のメール。
内容は簡潔だった。私たちは君の両親だ。テレビのインタビューで、顔が出ていて確信した。今度会ってほしい。……そんな内容。
彼女は喜んだ。ずっと待ち望んでいたことだったのだから。彼女はすぐにメールを返した。自分も会いたいと言う意図、それと、待ち合わせ場所と時間。それらを書き添えて。
二週間後、メアリーは両親を目の前にしていた。場所は、昔自分が住んでいた、という場所。すっかり廃れて、人一人いないようなその場所で、メアリーは両親に会っていた。
二人の男女を見て、確信したのだ。
この人たちが、自分の両親なのだと。
「I missed you」
そう言葉をもらせば、両親は優しく微笑み、自分に歩み寄る。それに微笑み返しながら、
「and...」
彼女は、隠し持っていた銃を両親に向けた。
「Good bye」
それから、二ヶ月経ったある日、メアリー・スーの新作、『I am the Killer』が発売された。
メアリー・スー初のダークミステリー小説ということで、初日にも関わらず、それは飛ぶように売れた。
同じ日、彼女は警察に出頭していた。
これでもう、自分の目的は果たされた。だから、自主をした。……そう語ったという。
彼女の目的は、両親に会うこと。
そして――自らの手で、殺すこと。
あいたかった 植木鉢たかはし @Uekibachi
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