第43話 白衣の主は何色か
「貴方は誰? この子たちはトウコとどういう関係なの?」
恵森清河が映像の向こうにいるである人物へそう問い掛けたけど……投影されてる女性は緑色の模様が所々にある白衣を纏い、その下にはターコイズに結構黒を混ぜたような色合いであり装飾が幾らかはある袖無しのフォーマルドレスを着てて……ドレスのスカート丈は膝までで、脚部分は生足だから動き易そう。
靴は瑠璃紺色のレザースリッポンで中敷きが鮮やかな緑色……靴下は履いて無いから直接触れてる事になるね……そんなビジネス志向気味の装いの女性が
「わたし――は、塔子ちゃんの……開発責任者」
胸が塔子くらいの女性の顔立ちはまだまだ少女で通じるくらい若く……ぼんやりとした口調で更に続けます。
「この子たちは……塔子ちゃんから更に開発を進めて造った……簡易クローン」
白衣の女性の髪は青紫に少しだけ黒を加えた色をしてて……赤味が乗る陰影部分は赤紫色に見えがちで髪自体の反射は鮮やかな水色……髪型は腰に届かない長さで結構ぼさぼさだけど……毛艶がいいからクセ毛だね……髪にはライムグリーンで小振りのおはじき程度の大きさの星形アクセサリーが乱雑な分布で8か所にあるよ。
そんな女性に対し恵森清河が少し間を置いた後……こう質問します。
「開発って……どういう事?」
すると白衣の女性はそのピンク色の瞳をやや開き、表情に宿る意識が若干増したようになって……次の瞬間――
「改良に改良を重ね性能を向上させて行くんだけどいつも上手く改良出来るとは限らないから失敗作も多い中、結構早くいいのが出来たおかげで焦らずに開発を進められたとはいえ塔子ちゃんに辿り着くまで大変だったよー。開発過程で造った子はみんな大元のオリジナルにわたしが考えた名前を続ける結構代表的なクローンのネーミングだったけど急遽追加した名付け方で足り――そうだ少しクイズをしよう。プロジェクトは3月頃から始まったので最初の実験体はヨウコという名前でそこからはウシミ、フタコ、カノン、レオ、オトコ……ここまで聞いてネーミングの法則性に気付けるかな? ヒントは――」
「ちょ、ちょっと待って!」
白衣の女性が手の平からヒントを表示させようと振り被った矢先、恵森清河の声がそれを遮りました。
急に女性が早口になった上に発言が進むにつれ明らかに加速して行き……聞き取りながら情報を整理してた恵森清河だけど、遂に頭の中で処理し切れるか不安になって思わず音を上げた感じだね。
恵森清河の頭の回転率は人並みで、順を追って内容を理解して行くタイプだから、こんな風に畳み掛けられると対処し切れなくなりがちです……喋り方がどんどん速くなる事に多少の恐怖も覚えてたみたいだけど……
発言を中断させられた事で白衣の女性の表情が最初に戻り、再び幼くてぼんやりした遅い口調でこう呟いたよ。
「続き……聞く?」
「そ、それより……トウコが作られた目的を聞きたいわ」
「その最終目的が、この子たち……具体的な性能はさっき見たよね? 全力で魔法を撃ってくれて、ありがとう……」
「ここにいる子たち全員が……あの威力の魔法を撃てるって事?」
「簡易クローンだけど……みんな同じ魔法が使えるよ」
「トウコも簡易クローンなの?」
すると白衣の女性はまたも早口で喋り出し……恵森清河と会話します。
「塔子ちゃんは時間を掛けて造ったクローンだから、この子たちと違って数年で死んじゃうとかは無いよー。この子たちは任務の時間だけ稼働してればそれでいい。生き残っても潰してまた造り直せばいいから寿命を長くする必要、ホント無い」
「潰す、造り直す……まるでモノ扱いね」
「転送装置の復元性能は知ってるよね? 転送先をその場にして転送中に再構成出来る機能を利用すれば、壊れた物を壊れる前の状態で再構築出来る。それは壊れたマグカップでも壊れた人体でも同じ事……言ってしまえば皆、モノだよ」
「……何が言いたいのかしら」
「倫理とか人権とかそんなの……モノと人体が一緒に扱える事実を否定する事にはならない。人類が存在する前から存在した世界の法則を人類が否定出来るって発想こそ乱暴だと思うなー」
例えば万有引力の存在が明らかになったのは17世紀だけど……じゃあ、この世にある万有引力を無視する法律を人間が定めたとして遵守出来るのか……人類が特定の法則を規制するような法律を定めたところで、その法則そのものが無くなるわけではない……そんな話を白衣の女性はしてる感じだけど……
周囲の警戒を怠って無かった恵森清河がこんな発言をします。
「貴方の事は大方判ったわ……ところで何だか慌ただしいわね」
この広場には例の少女たちがたくさんいて、それぞれが何かしらの玩具で遊んでるけど……急に何かを察したかのようにそれらを手放し、次々と何処かへ行く流れがグループ単位で発生してて……恵森清河が白衣の女性と会話を始める前と今とでは格納庫内の人数は大分減ってるね。
白衣の女性が早口のまま喋るけど、やっぱり話す速度が上がって来てるね……
「外の状況わかってるよね出撃だよ。どんな風に発表しようか悩んでる時期にまさかの大規模テロで図らずもぴーあーるちゃんす。相手の出方次第では大規模な戦闘になるから賑やかになるね。この機体に残ってれば安全だけど塔子ちゃんが捕まった場所の突入部隊に加わりたいならこの書類内容に同意する必要あるよ」
「トウコが……捕まった!?」
恵森清河の発言間際に書類が表示され、中身を要約すると恵森清河が突入部隊に加わる事で生じる責任は恵森清河自身が負うような内容……恵森清河が書類に目を通し始めると白衣の女性はぼんやりモードになって恵森清河に問い掛けます。
「地上に降りたいなら……今くらいだけど……どうする?」
それは危険を冒さずに、ここで地上に返して貰って、塔子が無事奪還されて戻って来るまで大人しく安全な場所で待っている事もまだ出来るよって提案だけど……本当にすぐさま恵森清河の口が動き始めたから、そこには何の躊躇いも無かったんだね。
「アタシは麻雀部部長で塔子は部員だけど……そうじゃなくてもアタシは塔子ともう少し、気楽な関係になりたい……」
そう答えながら書類内容を読み終えた恵森清河の目の前には、内容に同意する事を示すボタンがあり……恵森清河は口調が少し穏やかになって、こう続けます。
「そんなトウコが大変な状況だと知った今……放っておけない。じっと何て、して居られない。だから――」
その発言の直後、同意ボタンは押され、恵森清河は普段の力強い口調を更に強固なものにして、こう言い放ちました。
「連れて行って、アタシを……トウコの所に!」
恵森清河はその後、近場にあった転送装置で構築された小型潜水艇に乗って今いる部屋まで辿り着いた感じだけど……麻雀の続きに戻る前に、さっきのクイズ……
塔子に至るまでに開発され実験体に名付けられた名前を順番に読み上げると
所々事故ってるのもあるけど、漢字の並びを見れば十二星座から名付けたって事が見えて来る……魚奈の次には21世紀も近い頃に登場した、へびつかい座案から取った
そんなクイズの答えとなる意味を含む星座ネーミングはこれで限界になったので他の占いから途中参加させる感じで
要するにタロットカードの塔を見せるだけで答え合わせになるクイズだったわけです……絵にはローマ数字まで書いてあるしね……
それじゃ場面を金色の扉から現れた白衣の女性に対して塔子が何やら叫んでた辺りに戻すかな……今は白衣の女性が扉の中へ戻り、開いたまま待機してた金色の扉が閉じるや全体が次々と金色の粒子になって行く感じのエフェクトで扉が急速に消え失せたから、もう白衣の女性が帰った後だけどね。
白衣の女性がいた間、塔子は『博士』としか呼んでなくて、とても大きな声を上げてたよ……そんな塔子の様子を見てた周囲がここへ来て反応し始めます。
「塔子……麻雀続けられそうか?」
「随分と取り乱したわね……」
「えーと、先程の光景は生中継されました……ど、どうぞ麻雀を続けて下さい」
博士が去って尚、緊張が解け切れてない様子のミーアがそう発言し……激しい興奮状態にあった塔子は気持ちを何とか落ち着かせようと呼吸を整え始めてて……やがてこう呟きます。
「……大丈夫」
それを見たミーアは麻雀卓の停止状態を解除……程なく前局の対局中に積まれてた牌たちが姿を現します。
結局、白衣の女性は恵森清河に名乗ってなくて、さっきも改めて取り上げるほどの発言とかして無いし、ロットナー卿に至っては既視感と格闘した末、誰だか思い出せないという様子だね……まだ配牌を決める6面ダイス2組が回ってる状況だから言ってしまうかな……
塔子が博士とも呼んだ突然早口になる白衣の女性の名前は、
『エトワ博士』の通り名で知られる彼女はネザーソード社が擁する科学者の中でも追随を許さない才能に溢れ……世界五指の科学者の枠を設ければエトワ博士は文句なしで上位に入ります。
エトワ博士はネザーソード社と専属契約してるけど、それだけでネザーソード社が圧倒的トップ企業である理由になり兼ね無いね……
東4局7本場が始まる頃には塔子の気持ちも何とか落ち着いてて……何巡か経過するとロットナー卿がカンチャンの4ソウをチーしながら、こう言います。
「いい加減、連荘を終わらせたいな……今アガれば積み棒だけで2100点入るのも魅力的だが……」
更に巡目が進んだ7巡目。恵森清河が次に切る牌を持ち上げるや……不意に呟く。
「じゃあ……」
やがて切ったのは生牌の東……鳴かれる可能性は十分にあったけど……誰も鳴かない中、恵森清河がこう言いながら牌を横に曲げます。
「アタシが……終わらせるわ」
1000点棒が場に出され、恵森清河が立直します。捨牌は以下の通りで鳴かれた牌は無く、ツモ切り牌も無いよ……ドラは白。
筒1、筒2、萬4、萬6、萬8、南、東で立直。
「こんなの配牌の不要牌全部追い出しただけだぁー!」
「リャンカンはイーシャンテンの時は特に頼りになるんだが……それを全部追い出したのか……」
その後は黙々と打牌が続き……何やら恵森清河がロットナー卿の方を向くや、呟きます。
「ねぇ……えーと……」
「クラウディート・アーベル・フォン・ロットナーだが……ロットナー卿と呼ぶのも結構長いよな」
「もう、卿ちゃんでよくない?」
「そこは名前じゃ無いんだがなぁ……」
「じゃあ、キョウ……貴方のおかげで初心を思い出す事が出来たわ……目の前の壁を滅ぼしたいのならば……」
そこで恵森清河はカンと発声し……その牌が暗カンとして晒されると同時に続けて呟きます。
「それを壊せるだけの力で……ぶっ叩けばいい――」
「ちょっ! その牌……」
「立直後にドラの白を暗カンか……」
面前が維持されるとはいえ暗カンは手牌を晒す事になるから、既に満貫が確定してるならツモ切りも選択肢……今回のルールだとカンしてもカンドラは増えないから、猶更……でもその牌がドラなら切るのはリスクがあり、受け入れれば一翻増える……だからドラが暗カン出来る時は大抵した方がいい。
カンで引いて来た嶺上牌がツモ切られてから4巡後、塔子が言います。
「うーん……立直白ドラ4で跳満が確定してる」
「赤牌が無いから下手に満貫手が出来て突っ張らずには済むが……」
そして次の巡目で恵森清河はツモと発声し、以下の手牌が明らかになります。
索2334488北北北……暗カン白。ツモ索2。
「立直した段階で場に3ソウが2枚、4ソウと8ソウが1枚見えてるな……
「立直ツモ混一色一盃口白ドラ4……十一翻」
40符四翻から満貫で、六翻で跳満、八翻で倍満、十翻だと……倍満のままなんだよね……次の三倍満になるには十一翻以上が条件で、二翻刻みだったのが急に三翻先になる事で三倍満の出し辛さを高めてる。
十三翻以降と言えば数え役満だけど、このルールって実はローカル……今回のルールでは採用されてないので十三翻以上になっても三倍満のままだよ。
さて今回の手牌は四暗刻イーシャンテンでもあるから、この変化を見て立直しない選択肢もあったね……
索3344888北北北白白白。恵森清河は西家。
ロンだと立直混一色三暗刻対々和白ドラ3で十二翻でツモだと役満……白を暗カンしたり裏ドラがあれば出ても役満の点数になる余地はあったけど今回は裏ドラも数え役満も無い恵森清河が慣れ親しんだルール……そして四暗刻聴牌の要牌の残りは立直直前の恵森清河から見て3ソウが0枚、4ソウが1枚、8ソウが1枚……
仮に聴牌出来ても、もうアガリ牌が残ってない可能性まである四暗刻よりも今ある一盃口の両面待ちで立直した感じだね……その結果三倍満ツモだから最適解も同然。
子の三倍満ツモは子から6000点、親から1万2000点……しかも7本場だから全員から更に700点……だから次の南1局0本場の点棒状況は東家のロットナー卿が1万9600点、南家の恵森清河が4万4200点、塔子が1万9100点、九蓮覇が3万7100点となるね。
親が流れたので東4局を務めたフィールドが切り替わるけど……基本的に雲の上の場所だったから頭上には澄み渡った青い空が広がってたわけです。
そんな空が明け方から深夜の色へと逆行するかのように急激に暗くなって行き……やがて周囲が闇に包まれ最早何も見えない中、空一面に広がる数多の星々の輝きだけは鮮明なままで……その光も儚く消え去るや、それと同じ間隔で周囲が明るくなって次のフィールドが出現……その景色を見て最初に反応したのは塔子でした。
「あれ、海に戻った」
「ここからは
「もう新しいフィールドは出ないという事ね……」
「対局中のインタビューはもう行いませんので存分に続けて下さいませ……もしメリムの姿を見かけても泳ぎ回りたくて現れただけでしょうから、お気になさらず……ジオラはこういう時……んー、来ないかなぁ」
最後にミーアがそう言ったけど……広報三人娘の中でもジオラは輪の中にはちゃんと入ってるものの何処となく浮いた存在だから最後は判断し兼ねた様子でした。
ちなみにこの部屋は高さは無いけど広さは結構あるから気ままに動き回りたい時は結構打って付けだったりします。
さてそろそろラスから浮上したい塔子の様子を配牌から眺めるとしようか……せっかくだから心の中の呟きも拾って行こう……塔子の配牌はこうだね。
萬12337筒448索2268東。ツモ萬1。ドラは西。
「最初のツモで対子が4組……とりあえず7ワン切って様子見」
塔子が7ワンを切った前後に恵森清河と九蓮覇が白を切ったけど次の巡目で塔子は3枚目となる白をツモったので安全牌にする事なくツモ切る……そして3巡目の手牌と塔子の心の中の呟き。
萬11233筒448索2268東。ツモ索4。
「ソウズにリャンカンが出来たけど……苦しいなー……8ピン切ってまだ様子見」
4巡目は6ピンをツモ切って……5巡目の手牌はこちら。
萬11233筒44索22468東。ツモ中。
「ここは思い切って中切り……誰か鳴くかなー」
この中が鳴かれると他家の手が進むけど、それでこの手牌でアガる事を諦めるかの判断材料にはなる……結果は誰も反応せず……鳴くのを見逃されて無ければ現在誰も中を対子で持ってない事が判明しました……1枚持たれてた中が重なる可能性もこの先あるけど……
さて、引き続き塔子の6巡目の手牌。
萬11233筒44索22468東。ツモ中。
「あ、七対子イーシャンテン逃した……もっかいツモ切るかぁ」
2枚目の中が捨てられたのを見て、親であるロットナー卿も中を切ります……親は序盤に役牌を鳴いて安く和了しても連荘出来るし、和了すれば積み棒も増えて行くから安くてもアガり続けたっていい……
それを警戒して東は切らなかった塔子だけど、南場の東は親以外にはオタ風になるので親が使ってもダブ東にはなりません。
そんな東が1枚捨てられても無反応だった直後の7巡目の塔子の手牌。
萬11233筒44索22468東。ツモ索5。
「とりあえず東は切っちゃうかな……」
塔子が2枚目の東を切ったのを見て、東を切る親のロットナー卿……さて8巡目。
萬11233筒44索224568。ツモ索8。
「七対子イーシャンテンになったし配牌から重ならない2ワン切っちゃうかぁ」
ロットナー卿も2ワンを切ってたけど……9巡目の塔子の手牌。
萬1133筒44索2245688。ツモ筒5。
「まー……ここは配牌から重ならない6ソウ切るか……七対子になって立直してロンしても3200点かぁ……ツモれば6400点になるけど」
そして塔子が6ソウを切って九蓮覇が打牌した次の瞬間、ここまでの沈黙を破り、ロットナー卿が発言します。
「親と言えば、立直だよな」
そう言いながらロットナー卿が北を切って立直……捨牌は以下の通りで、鳴かれた牌は無し……ドラは西だったね。
筒7、索3、索5、筒4、萬8、筒5、中、東、萬2、北で立直。
ツモ切った牌……4巡目筒4、5巡目萬8、6巡目筒5、9巡目萬2。
この状況を受け、恵森清河が塔子に話し掛けると……ロットナー卿も交えて会話が始まりました。
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