第16話 そのダンボールに、輝きはあるのか
「岩瀬麻七さまはこちらへ」
「わかったの!」
カヤが岩瀬麻七にそう言うと、岩瀬麻七は返事と共にAR画面内で描画されたガイドに従い移動する。
残った北内桃奈子と茶遠一は岩瀬麻七とは別行動をする事を告げられ、不安の色を隠せない茶遠一に北内桃奈子がやや真剣に言った。
「大丈夫だよ。茶遠ちゃん……私の後ろに居れば大怪我だけは、させないから」
そして北内桃奈子と茶遠一が進む内に……デバイスからカヤの音声が響く。
「傭兵機体が1体接近しています。茶遠一さま、お下がりください」
「おいおい、どうなってんだよ! 大音量で叫んでる大将2人を除けば、何の音もしないじゃねぇか! 逃げ惑う群衆、混乱する交通車両……そんな光景を想像して来たってのに……こんなに大層で高い建物だらけだってのにド田舎なのか、ここは!」
躯陽に乗った傭兵がそう言い終える頃には、北内桃奈子と茶遠一の前まで足の裏を車輪モードで移動して来たけど……更に発言し終えるまで気付かなかったね。
「まぁ皆仲良く建物の中にいるだろうがよ……ならこの武器適当に当てるだけで被害は出せる……だがその前にもう少し民間人を探し……いるじゃねぇか!」
そしてその機体には左腕部分に如何にもガトリングしそうな武装が付いてます……各穴の直径は全て40ミリ程度の弾丸が通れる大きさ……傭兵が発言した。
「嬢ちゃんたちにゃあ悪いが、俺は銃で人を撃つのが一番戦場にいるって感じがするんだよ……」
そして各銃口が正六角形を描くように配置された、その機関銃を北内桃奈子と茶遠一の方に向けて来て……
ここでカヤが発言するけど、それを遮る形で北内桃奈子が叫んだ。
「跳ねか――」
「バウンスシールド!」
ガトリング砲が回転し始める頃には、もう北内桃奈子の風魔法は展開されてて……北内桃奈子が両手を突き出して展開した、その気流の壁は様々な方向が入り乱れてはいるけど……前方に寄ってはいるので気流に絡め取られた40ミリの弾丸は銃口初速を上回る速度で様々な方向で再発射……
秒速10発を迫る弾が向かって来てるので丁度いい方向に跳ね返った1発がガトリング武装してない方の腕部分半ばの関節部分を貫き、更に肩と脚部を貫く弾にも1本ずつ恵まれ……
壮年気味の傭兵は慌ててガトリングの発射をやめ、マイク越しにこう叫んだ。
「参った! もう撃たねぇから勘弁してくれ!」
「ではハッチを開き、そのまま動かず待機して下さい」
カヤがそう言うと特に何事も無く、その傭兵に麻酔針を刺し、拘束対象に……このバウンスシールドは魔法実技での迎撃テストの際の射撃対策に向いてるんだけど……
真横より後ろには飛ばないとはいえ何処に跳ね返るか判らない上に以前これで射撃担当の試験官に跳ね返した射撃で集中砲火するような事態になってダンボールバッジを貰った事があります。
さて、カヤが発言する。
「いい働きです。北内桃奈子さま」
「でも跳ね返った銃弾で周りの建物が……」
「あの武装が意図的に特定の建物を狙っていれば建物の倒壊などの多大な被害に至った事でしょう……貴方はそれを未然に防いだのです。私の指示を受け行動したのですから一切の罪に問われないと、我らがオウカ様が保証致します」
やがてカヤに誘導されながら移動する北内桃奈子とそれを追う茶遠一……そんな
中、魔法を使った北内桃奈子が心の中で呟いてます。
――風魔法……使えるけど全然制御出来なくて、それで皆にいっぱい迷惑かけて失敗してばっかりで……。
やがて広場に辿り着き、躯陽が2体……こんな会話もしてるね。
「おい、そろそろやろうぜ。やっぱりあのデカイ建物をガトリングで下の部分崩してへし折るのがいいって」
「俺は建物をパンチで次々と殴って行くのがいいと思うけどなー」
「いやいや、1.5インチ越えの弾丸ぷっ放しまくるんだぜ? 絶対気分爽快になる事、間違いねぇって」
――でも制御しなくていい、存分に力を振るっていい……その条件なら――。
「速攻して下さい。先の言動からデルタを撤回する事は無いので魔法の行使結果による生死は不問とします」
頭部に装着したデバイスから響くカヤの指示は一応届いたみたいだけど北内桃奈子の心の呟きはまだ続いてました。
――私の魔法でも、戦える。
そして北内桃奈子は2体の躯陽の傍まで走り込むと直ぐ様、口を開き叫んだ。
「ランダム……タービュランス!」
発言の途中から既に魔法は発動してて、隣り合ってたとはいえ2体の躯陽を巻き込む規模で風を発生させ……それが1桁のメートルでは、まるで収まらない高さまである。
トルネードとでも名付けたい光景だけどランダムタービュランスの威力はバラツキが多く、スイカやカボチャに向けて発生させたら無傷で終わったりズタズタに砕けたり、何か微妙な損傷だったり……そんな感じ。
それでもこうして全力で魔力を注げば各気流の圧力の平均値は上がり……今や金属製の中型機体同士はランダムに発生する強力な気流の壁の内側にいる状態。
互いに衝突するだけでもダメージが見込める上に気流自体の風圧で所々が凹んだり関節部がもげたり搭乗者の三半規管に至っては大混乱……
カヤの指示により魔法が解除された頃には、2つの機体は結構な高さにいて……
落下時の衝撃でダメ押しされ、どちらの機体も爆発目前になったので、中の傭兵2名は共にハッチを開け脱出……そこを例の蜂メカが麻酔針。
爆発に巻き込まれ死亡してもよし、そのまま重症のまま拘束されてもよし……どちらでも構わない感じかな。
2つの機体の爆発の兆候が出て来た頃、カヤが北内桃奈子に言う。
「爆発が来ます。防御して下さい」
次の瞬間、結構大きめの爆発があったけど、北内桃奈子はバウンスシールドを展開し特に被害無し……こんな調子で北内桃奈子自身は不殺を貫き、時折オウカが殺しに行く感じで進んで行き茶遠一も無傷のまま……
そういえばその何処かで茶遠一がこんな事を呟いてたね。
「偽物、かぁ……」
北内桃奈子のもう1つの魔法も紹介しておこう……バウンスシールドを小規模にして、そこに自らが飛び乗って跳ね上がるランダムバウンスというのもあって真横同然に弾かれる事があるのも同じだけど、これじゃなくて……
紹介するのはストレートタグという魔法。
出力にバラツキはあるけど対象を気流で包み込むや気流を指定した方向に動かす……それを瞬間的に行う事で対象を思った方向に飛ばす事自体は確実に出来る
魔法。
だから北内桃奈子はこの魔法を日常的に使えば制御出来るようになるのではとリオナ経由で学園長に相談して学園内の魔法の使用を一日だけ許可して貰った、その日の事……
グラスを取ろうとすれば手にした時には気流発生時に入ったヒビのトドメを刺す形で割れて、気分転換にバレー部の様子を眺めてたらボールが飛んで来たのでネット目掛けて返すやそのネットだけでなく後方のネットまで突き破るし……
自室で枕に対して連続発動してたら視界の外に行って再発動が遅れるや枕は壁に突き刺さって壁に若干の亀裂を与えたりと散々……
翌日学園長が駆け寄って来て、ダンボールバッジが授与されました。
洗谷筒美が気流の出力の強弱が自在なのに対し……北内桃奈子は発動するまでどんな出力になるか判らない上に、大抵強力なので制御するにはそれと同等の力で相殺しようと強く制御すると……今度は弱めに出て、裏目となる恐れも……
北内桃奈子が使える全ての魔法に射撃性能が無いから魔法実技試験の成績も伸びない……迎撃テストも長時間続ければ試験官に被害が出るので、防御魔法に優れた試験官を付き添わせる必要があるし……
彫刻テストはこういう制御出来ない魔法の点数が伸びないように作られた試験……ブロックを破壊するのではなく任意の形に変形させる必要があるから得点は出せないね……
そういえば例の声明がニュースで流れる時間です。
「俺の……おっと。はじめまして世界中の皆様……わたしの名前は――」
このロットナー卿の映像は先に紹介した通りだけど……今回の侵攻はヴェノスでは無く、ラバロンの制圧が目的だったね……
そしてもうこの頃には他のリーダー格が率いる躯陽の部隊が学園まで進軍し、戦闘活動を開始済み……さて、ここで。
ミーアを紹介した時と違って今度は実際に例のチャンネルに別のキャスターが登場しニュースを読み上げるんだけど……このキャスターは凶悪な事件の詳細を事細かく伝える時にしか登場しなくて、このキャスターが出て来た時は数名規模では収まらない規模の死傷者が出たと考えていい……
国際広報三人娘の一員である、このキャスターの姿だけど……
人間部分の肌は強い赤味を放つ濃い褐色で、背中を覆う長さの髪がストレートに伸びてるようで所々跳ねててそんな髪はエメラルドを淡くした寒色系で瞳の色はシアンを程よく淡くした色合い……
上半身は下半身の生物の頭部の途中から生えてる感じで、その生物は蜘蛛……つまりこのキャスター……ジオラはアラクネです。
蜘蛛部分は若干プラチナのような光沢を所々で放つ見事な純白で、お尻部分の大きな模様や体の所々の色は金色……蜘蛛はその外見から初見で嫌いになる人が多いからこの時代でもジオラの姿を許容出来ない層は多い……
昆虫から脚の生えた胸部を取り、残った頭部から脚が8本生えて来た姿だって言えば、その異様さも際立つかな。
ジオラの胸は
ジオラがどんなニュースを読み上げる位置付かは前述の通りだけど……ジオラの声は可愛さはあるものの身の毛がよだつような雰囲気を纏わせた高めの声……
つまりホラーボイスなので子供はほぼ確実に泣き出す。
それで子供を痛ましいニュースから遠ざけるという当初の狙いも一応あるんだけど……
そんなジオラが今、読み上げたニュースの内容は――
「ロドの同時多発人質立て籠もり事件の続報です。学校、病院、孤児院……その各犯人が設置した爆弾は時限性だったようで先程一斉に大規模爆発……各施設を半壊以上に追い込み、人質だった生徒、教員、患者、医療従事者、孤児、ボランティア……その全ての生存は絶望的で救援に向かう道にもテロリストが占拠しており……このまま全員が死亡した場合、死者はのべ700名前後となります」
このニュースを見た時のロットナー卿は、こう発言してました。
「……時限性だって知らずに購入したとか……無いよな?」
つまりロドの件と今回の件に関連性は無く、ロットナー卿の読みは正しくて、問題の爆弾は設置した途端にカウントダウンが始まるタイプで、そうとは知らずにロドのテロ首謀者がほぼ同時に爆弾を設置させたからこのような結果となりました……威力が高いのに安く買えたのはそういうわけです……
ロドがどういう国かを知る一例としてはかなり大規模な被害だね。
ロドは第二のイーリス、ルーシーが復興を目指して受け持ってるけど……インフラや各種設備が破壊され続けたらイーリスの強みがまるで生かせなかったりします。
ロットナー卿側で雇われたのはロドにいた傭兵しかいない感じ……
ラバロンの様子を見に行ってもいいけど、その前に単身別行動する事になった岩瀬麻七を追ってみようか……
北内桃奈子の魔法自体は殺傷能力に優れてて人間相手なら壁に何度も打ち付けてるだけで血みどろの肉塊に出来る……周囲に被害が及ぶリスクはあるものの、今回のように真価を発揮する状況もある。
それに対して岩瀬麻七の魔法は対象にダメージを与える事が全く出来ず、魔法実技試験で高得点を出す手立てが全く見当たらない……
そんな魔法しか持たない岩瀬麻七は今、カヤから指示を受けてるので……回想紛いの事をしたら、その様子を見に行くよ。
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