第14話 インフレとは経済用語ですが、この場合――
「わたくし。貴方に興味がありますの……」
すっかり塔子に近付いた天盃酒寿花はそう言いながら塔子の片腕を持ち上げ、その手の至る所を両手でやや力を入れながら丹念に触り……その調子で腕から頬へと何かを確かめるかのように塔子を触り続け……
頬の感触を確かめる様は頬をつねる行為にも見えるので、緊張した顔を続けていた北内桃奈子が呟く。
「塔子ちゃん……」
肌の弾力でも確かめるかのように動く天盃酒寿花の手はやがて塔子の首周りを両手で触り首を絞めるような構図になるも、そのまま手は下り……
それまで顔色ひとつ変えず塔子の体を触って来た天盃酒寿花だけど、今触った箇所が何であるか気付いた時は既に、片方の手はその部位を横から掴み、他方の手はその部位を押し沈んでいた……既述の通り、塔子の胸は大抵の女性の手なら収まらないくらいはあります……
次の瞬間、天盃酒寿花は顔をやや赤らめ、咄嗟に両手を離しながら、少しだけ動揺した様子で発言する。
「や、柔らかいんですわね……」
この流れでそう言うと解釈が一意に定まるも同然な事に気付き、天盃酒寿花は更に顔を紅潮させ、動揺の度合が身振り手振りとなって現れながら更に言う。
「そ、総合的な意味で……ですわ!」
それでも女性の肢体を丹念に触った後の感想が柔らかい、という意味からは免れず戦々恐々としていた一同の緊張が緩んだのか少なからず発言を始めた。
「んー……?」
「どういう事……?」
「えーと?」
「凄い人の考える事は……解らないの」
北内桃奈子、茶遠一、西郡灯花、岩瀬麻七がそう呟き……ヘンタイ? などと言葉が浮かんだ水川悠は必死気味な表情で両手で口を押えてます……
そんな中、塔子は天盃酒寿花の言動の真意を掴めたので、特に表情を変える事も無く単純に呟く。
「あー……」
最初の緊張状態とはまた違う微妙な空気に包まれる店内……そんな状況を突き破るかのように店の奥まで入り込んでた洗谷筒美が叫ぶ。
「あ! 新作出てる……くっだっさーい!」
「いつもありがとう。頼まれてた天盃さんの服も出来てるから持って……シトラありがとう……もう手元にあった」
「すっずっちゃーん! 支払い私でいいー?」
「構いませんわ筒美。しかし一体どのような衣服を……」
鮎鮫秋名が慣れた口調でそう言うと再び洗谷筒美が叫び、天盃酒寿花の発言の後半はやや不安そう……洗谷筒美も今年18歳だけど誕生日は天盃酒寿花より先なので、年上だったりします……
さて、鮎鮫秋名が洗谷筒美に話し掛けます。
「さっきテーブル出したし……何か飲んでく?」
「じゃあ、レモンジュースと……シンデレラー!」
「同じ分量で3種類混ぜるだけだから、お手軽だよねー……この店だとコップになるから……カクテルグラス持って来る?」
「大丈夫ー! ストローも要らないー!」
鮎鮫秋名と洗谷筒美の会話が続き、近場の店に注文したドリンクが転送装置でガラスコップごと来るわけだけど……その間、天盃酒寿花は塔子にこんな発言。
「貴方が学園に戻りましたら、わたくしからプレゼントを添えたメッセージが送られますわ……承認して頂けると、ありがたいですの」
シンデレラはオレンジ、レモン、パイナップルのジュース3種を同じ分量でシェイクすれば出来るノンアルコールカクテル……注文した店はシェイクした完成品を転送装置に入れる感じです。
洗谷筒美はグラスの中のシンデレラをある程度飲むとレモンジュースを足して酸味を加え……程なく洗谷筒美が発言する。
「シトラちゃん。これ飲んでる間、何度か魔法使っていーい?」
「洗谷筒美さまならば問題ありませんね……オウカ様から、その範囲という条件で、許可が下りました」
「じゃ、早速……」
シトラの後に洗谷筒美は呟く中、西郡灯花と北内桃奈子が血相を変えて発言。
「えっ!?」
「魔法……まさか!」
北内桃奈子が慌てて洗谷筒美の所まで駆け付けると、そこにはグラスの中で独りでに混ざり合う、シンデレラとレモンジュースの姿が……鮎鮫秋名は言う。
「マドラーくらいならあるのに……」
「こうやって眺めるの結構好きー!」
魔法は水中でも発生させる事が出来るので風を操る魔法なら可能ではあるけど……力加減を間違えればグラスは割れ、破片が飛ぶ……
そんなリスクを恐れずにグラスを揺らす事も無くグラス内に発生させた対流を制御する様は北内桃奈子にとっては有り得ない光景で……食い入るように見てしまってた為、洗谷筒美が北内桃奈子に話し掛ける。
「あ、もなこちゃん……もなちゃん? も飲むー?」
するとシンデレラが入った方のグラスが独りでに浮き上がってレモンジュースの方のグラスの傍まで移動すると、そのグラスの中に注ぎ込もうとするかのように自身を傾け始め……そこで洗谷筒美が発言する。
「あ、これだとレモンジュースが調節用じゃなくなっちゃう」
すると浮いてたグラスの傾きは垂直に戻り元の位置へ移動するとテーブルに着地。
北内桃奈子の体は固まり、目が丸くなる中……鮎鮫秋名が言った。
「発生させた気流をどう動かせば対象の物体が望んだ結果に動くか……仕組みはそんな感じだって言ってたけど……感覚で覚えれば済む話とは思えないなぁ」
一度に複数の風の向きと力加減を個別に操ったりすれば何とかなりそうだけど……相当な習熟が要求される事になるね。
この後、北内桃奈子は洗谷筒美と並んでドリンクを回し飲みする事になったよ……その間、塔子の方はというと……
「貴方はネザーソード所属でしたわね……となると我が一族の経営する会社から見て優良な顧客候補……塔子さまとお呼びした方がいいかしら?」
「さま、かぁ……」
「話が弾みませんわね……やはりもっと落ち着いた場所の方が……そうですわね……今度一緒にお食事でもいかがでしょうか?」
天盃酒寿花と塔子は店の入口で立ち往生してて今のは会話の一部を拾ったもの……塔子は天盃酒寿花の話を聞いてはいるけど……目の前にある暴力的な2つの膨らみの存在感に気を取られてるね。
これ以上はそうは無いってくらい大きいし、その量感が放つオーラ的なものだけでも圧倒され兼ねない迫力を放ってます……
さて少し時間が進み時刻は14時……一同は今度こそ店を出ようと店の入口に集合したんだけど……そこには天盃酒寿花と洗谷筒美もいて、天盃酒寿花が発言する。
「ここで会いましたのも何かの縁ですわ。ここからはわたくし天盃酒寿花も共に行動いたしま――」
それはまだ、天盃酒寿花の発言の最中だった……突如、地震でも起きたかのように地面が揺れ出し、店の中にいた誰もが地震だと言わなかったのは、その直前に聞こえた衝突音のせいだね……
明らかに重量のある何かが落下した音で、その考えは正しくて、実際に降って来たのは大きな金属球で、それが展開すると中から非ネットワーク型内部制御式人型有人機体が現れ……
色は赤の印象を損なわないカラーリング……人型と言っても頭部を無くし胴体内部に操縦席がある感じで、トラック頭部に手足を生やしたようなサイズと言っとけばいいかな。
この後、こんな感じの機体が同じ要領で次々と落下して来るんだけど……赤い機体はこれしか無い事からリーダー格の機体だと推定出来そう……そんな機体の傍に他の機体が拡声器を運んで来ると、赤い機体が音声を発し始めました。
この兵器は操縦者が必要……つまり中には人が乗ってるんだけど、その男性が拡声器を介し、威勢のいい声で叫び出す。
「ヴェノス市民のみーなーさーん! こぉーんにぃーちわぁー!」
この後、続く演説を紹介する前に、ちょっと時間が先行するけど、この事態に関するニュース映像を見てみよう……
ニュー・クリアからの復興の過程で、国際情勢に関するニュースを担う情報機関が当時の国連によって作られ……
国際的な公的機関という位置付けで、24時間稼働のニュースサイトがネット上に創設され……臨時ニュースの際にはメインキャスターが現れ、その内容を読み上げるんだけど……
早速、画面……三次元描画で見てるなら空間に……水中を泳ぐような効果音と旋回するモーションと共に人魚が出現。
その人魚は小麦色を少し強めた程度の褐色肌で下半身である魚部分は黒に近い青紫の鱗で覆われ尾ヒレ部分は淡いピンク色……
人間の胴体部分を越える長い髪型は野性的なウェーブを描いた紫色で、瞳はサファイアのように鮮やかな青……全体的な雰囲気はまだ若年の女性キャスターという感じだけど……胸の大きさが天盃酒寿花クラスじゃ済まされないんだよね。
何しろこのメインキャスター……メリムの胸は顔2つ分は入るとしか思えないサイズで、あわやヘソが隠れそうな膨らみっぷりは一度目の当たりにしないと想像出来ないかも……
服装は人魚のイメージにそぐわない貝殻2枚装備だけど、こんな形状の貝殻あるのかって言いたくなるような凝ったデザイン。
普通にスーツだったり季節などに合わせて様々なコスプレをしたりもするけど緊急ニュースの時はこのデフォルト服……マニキュアの色は瞳と同じ感じ青だけど、衣装によって変わります。
以前アダムはアリスと同等性能のソフトなら作れると言ったけど、このチャンネルの『国際広報三人娘』と呼ばれるキャスターはアダムから購入したソフトを元にカスタマイズされたもの……
それぞれサーバーがあり、国連スタッフがメンテナンス等をしてる感じです。
他の2名は現地リポーターもどきと痛ましいニュースの詳細を担当する感じだけど……それを説明するより、メリムのアナウンスを聞こうか……
「緊急速報です! ヴェノス時間14時3分、謎の集団が包囲網を強行突破し、破壊活動を開始! 現場周辺には旅行に来ていた8名のラバロン学園生徒もいます! 繰り返します……」
今は時間を先行させてるので、続報が入った時のニュース内容も見るかな……
「ヴェノスとラバロンを襲撃するテロ集団の犯行声明が来ました! 映像を出します……」
メリムがそう発言すると映像が切り替わり、そこには朱肉が赤みを帯びたような髪を肩を越すくらいまで伸ばした金色の瞳の男性が映ってて……喋り出す。
「俺の……おっと。はじめまして世界中の皆様……わたしの名前はクラウディート・アーベル・フォン・ロットナー……ロットナー卿とでもお呼び下さい……この度、我々はラバロンを制圧するに足る兵器を手に入れました。潜水艦発射弾道ミサイルを倍速で発射する魔法機構を備えたものでして、すぐにでもお出し出来るボタン1つでラバロンを壊滅させる事が出来ますが……勿論、我々が独自に突き止めたオウカ様のサーバーのあるエリアへ向けて発射する事も可能でございます。まずは我々が復活させたニュー・クリアで投入された搭乗兵器『ヘリオス』たちのご活躍をご覧下さい。では、またのちほど……」
ロットナー卿と名乗る男性の瞳は揺るがない意志が宿るかのように力強く、その何者も恐るるに足ら無いと言わんばかりの豪然なまでに不遜な表情は、今回の騒動を引き起こした首謀者として相応しいオーラを自ずと放っていた……
ニュー・クリアすなわち第三次世界大戦中、当時資源枯渇状況だった中、様々な兵器が作られ、中でも大戦の被害を拡大した5つの人型兵器がありました。
その機体は全て、陽の文字を冠し、人体から頭部を除きハッキング対策の一環で、ネットワーク機能を廃し内部制御は全て独自のプログラム言語で行われ、機体の操縦は人間の手で行った……
機体のデザインは武装を除けば共通なので
カーキ色の装甲と関節部はネイビーブルーの色味を持つ黒の2色と考えれば何とかなる……ゴツイ手の部分もこの黒だけど……全体のパーツが四角い感じで、腕と脚はマッシブな造り……
当時躯陽はコンピューターセキュリティが盤石だった国家に単身突入し、そのままサーバーを破壊し、コンピューターが管理していた医療システムのダウンにより大量の患者が一斉に死亡……
この躯陽の戦果により一部の機能を特化させた機体を製造し追加投入……そろそろ時間を塔子たちが衝突音に驚き、それを起こした機体の搭乗者が演説を始めた所に戻そうか……
赤い機体と言ったけど、黒同然のネイビーブルー部分はそのまま……それでも赤の印象を損なわないのは、武装が全て赤のカラーリングからなるものだからで……特に主力武装は大戦当時の兵器で筆頭の火力を誇ったもの……
そんな赤い機体の名前は
内容から
ニュー・クリア後、枯渇してたのが嘘のように各資源は復活し、贅沢に使えるようになったから、ヘリオスやアルテミスを量産するのも可能と言う事……
さてこの後、ヴェノスでテロが起きたというニュースが流れる事は先に紹介した通りだけど……
ラバロン学園の生徒達にも親はいて、その保護者はどこに住んでるかというと……他の国からラバロンへ入学させたケースはあるとはいえ大半はヴェノス国内にいるという考えで十分な内容。
今回の一報を聞いたラバロンの生徒たちは気が気じゃないだろうね……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます