エピローグ
3-4-1 エピローグ その1
「俺は生き残った……生き残ったんだ……!」
荘厳な鐘の音が響き渡る合流地点にて待機していた他の魔術師の目も憚らず、[
少し遅れて、鐘の音を聞きつけた魔術師たちが次々と[転移]してくる。その一団の中には、[
彼等は互いに健闘を称え合い、生存の喜びを分かち合った。これで出世もできよう。
戦いの余韻さめやらぬ彼等の元へ、一人の幼子が大物然とした面持ちと態度で歩み寄る。
『よぉやった、よぉやった』
『あっ――[
『
ある者が耳ざとく
恐縮しきった態度も無理はない。彼女こそ、現代魔術聯盟の設立メンバーにして尚も『七賢人』の末席に君臨し続けている、謂わば「生ける伝説」である。魔術の腕前に関しては今はさておき、こと肉體時間の操作に関しては、現代魔術聯盟の長である『真なるアーシプ』に次いで秀でているとまで評されている。
つまり、
ある者は私欲の為、またある者は国の為、家族の為、個人神の為……動機は様々あれども、皆一様に現代魔術聯盟で身を立てようと目論む野心家であり、そしてだからこそ、彼等はこの戦いに参加している。させられているのだ。
そんな事情を抱える彼等にとって、
『治療用に
そう言うと、
先程の喧騒が一転、辺りは厳粛な静寂に包まれる。そんな中、もっとも先に帰還していた
『
『ん……[
外から見ても明らかな疲労困憊にも関わらず、
『隊長の的確な指示があったお陰ですよ』
『ふ……隊長は止めてくれ。ただ、
治療により幾らか余裕の出てきた
『それに、こんな事も今回ばかりにするつもりなんだ。出世を目指すにしても性急過ぎた。もう懲りたよ。これからは着実に研究でもして能力を認めてもらうさ』
『……そう、ですね』
治療が大方終わる頃、辺りを見回した
『
『……
「え……?」
煮え切らない態度、浮かない顔、沈痛な雰囲気。
そのどれかという訳でも、その全てという訳でもなく、漠然とした印象から
『彼女は死んだ』
『……そ……そう、ですか……』
その後、
一方その頃、
自分の治療用と偽ってくすねてきた
『――見えた』
網膜にナイフ視点の映像が投影された。薄暗い景色の中に微かな光が見える。恐らく服の中に入れられているのだろうと当たりをつけ、少しばかり視点位置を操作してみると、戦闘でほつれた軍服の隙間から外の様子が伺えた。
『あの二人は……一緒に居た奴等だな、生きていたのか』
厨川半心軒の正面に立つ傷だらけの部下は生きていた。思わぬ吉報に、
「た、たい、たた、た……」
「み、三岳……?」
「たい……ちょう……!」
部下の片方、若い男が急に苦しみ始めた。
『ど、どうしたんだ? 何が……』
三岳と呼ばれた男が歪み、膨張し、中心に亀裂が走る。その内側から左右に割るようにして伸びる血に濡れた白い手。
この時、その全容が明らかになる前から、
『レヴィ! まさか、復活するのか……!? 巫山戯るな、そんな事があって良いはずがないだろう……!』
皮肉な事だ。厨川半心軒の名は知らぬというのに、その厨川半心軒が『レヴィ、レヴィ』と頻りに連呼するものだから、そちらの方だけすっかり覚えてしまっていた。
このままでは
堪えようのない焦燥に突き動かされ、
「フフッ……此方ヲ覗キ見テイル不届キ者ガ居ルヨウダ」
直後、厨川半心軒の身体から明らかに致死量の血飛沫が吹き出し、笑うレヴィがチラリと映り込んだのを最後に、ナイフからの映像はプツリと途切れた。恐らく、體としての役割を果たせぬほどにナイフが破壊されたのだ。見ずとも、聞かずとも、理解できる。そのナイフを懐に抱える厨川半心軒がどうなってしまったのか。
『あ、ああ……!』
妙な、気分だった。
ほんの少し前までは敵同士だった筈なのに、どういう訳だか、強敵レヴィを倒す為にぎこちなくも共闘した所為で、得体の知れぬ情が生まれてしまった。あれは、あの言い知れぬ『連帯感』は、今も
そして、不思議と直感した。
『妙な因縁を抱えてもうたようやなぁ。[
『
気づけば、
何時から? 負傷者の治療はどうしたのか、終わったのか?
『奴等――近衛旅団には一人の化物がおります。レヴィという[
『ほう、[
『可能性はあります。それに加えて、
聞いた
『《異能》と【武装励起】の研究が進んできててな。とある遺伝因子をちょこっと組み替える事で、ウチらも忌術師のようにそれらを会得できるかもしれないんや。……どや、今回は意外にも結構苦戦したやろ? 奴等に対抗する力を得る為にその実験に志願してみいひんか?』
『謹んで、承ります』
『名前、ちゃんと覚えとくからな、[
『ありがとうございます』
厳かに礼を言う
『これで、計画通り……なんやろか? ウチには分からんわぁ……』
集団から離れた所でポツリと漏らした苦笑交じりの達観した独り言は、発した
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