法倉螺湾という男
1-2-1 法倉螺湾という男
とある寂れた街に、ひときわ侘しい商店街があった。人の往来も欠けて久しく、降りたシャッターばかりが目立つ、地方によく見られる、極普通の商店街。だが、この何処にでもある様な何の変哲のない地が、“尋常ならざる怪物”の棲家兼狩場と化している事実を知る者は少ない。
唯でさえ少ない往来の先端、人の波が途切れかける商店街の端の端。そこには、薄汚い小さな低層ビルが
『不仲屋』
という如何わしい看板が、
しかし、そんな妥当とも言える大勢の予想に反して、不仲屋は二年、三年とのらくらやり過ごし、最近では事業も軌道に乗り始めていた。
偏に、店主の手腕による産物だった。
――知っていた。
不仲屋の店主は知っていた。
〝胡散臭い雰囲気にこそ縋ってしまう、追い詰められた人間の愚かな心理〟を。
今日もひとり、店主の流した噂を聞き付けた哀れな
その者、年端も行かぬ少女の風貌を全身に
「あ、あの……すみません……」
毒婦のか
店主の不在に浮足立つ彼女は、震える眼球を廻転させて内装を舐め回し始める。というのも、彼女はこの不仲屋に踏み入った瞬間から刺さる様な視線を全身に感じていたのだ。その元を探ってみれば、何という事はない、壁に突き刺さる無数の
全て、店主による演出の一環であった。この部屋の中から一般的な属性の物体を挙げれば、それは正面に設置された高級そうな木製の黒い机だけという徹底ぶりである。
あまりの異様な光景に「撤退」の二文字が毒婦の頭を
そこに背を丸め、顎の前で手を組み合わせて待ち構えていた者こそ――
「不仲屋店主……
春の陽気の下、胡散臭い布切れに身体の輪郭をすっかり覆い隠した男は、詐欺師の笑みを浮かべた。
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