龍舞う地の爆撃機乗り

粟生真泥

離陸

 遠くまで澄みきった空の色。果て無く続くこの空を飛ぶ愛機は、機嫌よく発動機を唸らせ、飛び出す時を今か今かと待ちわびているようだ。こんな日には、縛られることなく、思うがままこの空を舞うことができればと操縦席でヴァイスは思いを馳せる。

 もっとも、乗っている飛行機は曲芸機などではなく、翼に二門の十三ミリ機銃を備え、腹部の爆弾槽に1トンの爆弾を抱えた「グラム」と呼ばれる急降下爆撃機だった。優雅な遊覧飛行は望むべくもなく、目的地で待つのは人智を超えた人類の敵。

「おい、ヴァイス。私の可愛い妹を傷つけたらわかってるだろうね」

 無線機から聞こえてきた声に、ヴァイスは声の主のほうを見上げる。急降下爆撃隊を護るように展開する戦闘機隊、その先頭を務める隊長機。

「了解です、リディア少佐殿。敵の指一本触れさせませんよ」

「返事が適当ね、戻ったら再教育かな」

「横暴なっ……!」

 一連のやり取りに、無線がドッと沸く。戦闘前と思えない空気諸々にヴァイスが息をついていると、伝声管から声が響いてきた。

「リーダー……隊長が申し訳ありません」

「いや、ニーナのせいではないんだが……」

 グラムの後部銃座に座るニーナは元々リディアの戦闘機隊に所属しており、妹分として相当可愛がられていたようである。だから、とある事情からニーナがヴァイスの後部銃座に転属する話が出たときには大変な騒ぎとなった。一連の騒ぎで少なからず被害を受けたヴァイスとしては、曖昧な口調にならざるを得ない。

「まあ、無事に帰って少しでもお説教を減らすしかないな。今日もよろしく頼む」

 はい、と意気込む声とともに後部機銃を握りしめる気配が伝わってくる。こういうところが可愛がられていたのだろうか、と考えていたところで再びリディアから通信が入る。先ほどまでとは違う、部隊を率いる凛とした声が響く。

「各員に告ぐ! 先発の部隊は予定通り目的地に到着、制空権の確保に移っている。我々もこのまま調子で進めば定刻に目的地に到達予定だ」

 リディアはそこで一息つく。その顔に少しだけ悪い笑みを浮かべつつ、周囲の部隊を見渡す。これからはじめるのは、伝説創りだ。

「さて、諸君。龍退治の時間だ」

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