第8話 守りたい

 扉の向こうは、夢の世界ではなくて地獄だった。


 まともな建物は1つもなかった。視界に入る全てが、見るも無残に破壊されている。その中に、あきらかに血だらけの死体。


 思考が麻痺する。


 最大の驚きは、今まで見たこともない巨大な生物が、どしんどしんと闊歩していることだった。その生物は、3メートリの高さがあり、長い尻尾を左右にぶんぶん振って、瓦礫の山をさらに築く。


 辺りに響く破壊の音と悲鳴。そして、小さな叫び。


 その中に、自分が聞いた助けを求める声。


 「た・す・・・け・・て・・・」


 我に返り、必死に声の主を探す。


 ようやく見つけたのは、同じ年位の女の子と、遥かに幼い男の子。姉弟なのだろうか? 女の子が男の子を庇う様に瓦礫の下敷きになっていた。


 「神力」を使い、慎重に瓦礫を浮かしてどける。ようやく全体が見えた女の子は、背中から大量の血が流れ出ていた。


 直ぐに血を止め怪我を塞いだが、女の子は気絶したままだった。男の子の方は、怪我もなく呼吸も落ち着いていることから、多分気絶しているだけだろうと思ったが、一応治療の「神力」を掛けておいた。


 後は、どうするかだけど、兎に角安全な所に逃げる必要がある。



 検索すると、人が逃げて行く方向が分かった。迷うこと無く二人を抱えると、その中に混じって動くことにした。



 逃げて行く先には、剣や槍等を持って武装している人が沢山いた。その内の数人が、避難所に案内をしてくれるらしく、みんな彼らの指示に従っている。


 そうして着いた避難所は、着の身着のままのぼろぼろの姿の者が大勢いた。当然けが人も数えきれない位溢れている。



 ぼくは、取り敢えず二人を介護所の様な所に寝かせると、周りの大人にまかせる。


 そして、ここに来た時の道を駆け戻ると、あの巨大な生物を見つけた。その周りには、武装した人たちの死体。


 いや…。生きている者がいる。だが立っている者は居なかった。


 「神力」を使えば、あっという間に怪我などは治せるけれど、それは、むやみやたらに使っていい力ではない。ぼくは、あいつを誘導して、生きている人がこれ以上死んでしまわないようにする。


 そして、これまでの訓練で学んだこと全てで、全力で倒す。


 結果は、瞬殺とまではいかないが、苦も無く倒すことが出来た。


 その後は、当然ばれない様に隠匿で彼女の所に戻る。幸いにも、まだ気が付いていないようだった。

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