第37話 笙花

「あ~どうすっかなあ~」


幸岐と約束した日まで二日を切った。早急に純血の妖から血を貰ってこなければ、対価を貰えない。つまり、不老不死の薬を入手できない。


幸岐はすでに準備を始めている。これで「もらえませんでした」では格好がつかない。

笙花はもう、腹を括っていた。どう考えても、薬なんかに頼るより天命を全うさせた方がいいのは明らかだ。でも、幸岐の力強い言葉を聞いて、折れた。

自分だって、置いていかれる悲しさは知っている。だから、最後まで協力すると決めた。


「そういや、隣の山の鬼が純血だったっけな。…行くか」


外を見ると、いつの間にか雨が降っていた。

飛んで行こうと思っていたけれど、と少し憂鬱になりながら玄関で靴を履く。傘を持って玄関の扉を開けると、何かに引っかかった。


「…ん?」


荒い息遣いが聞こえる。半分開いた扉から顔を覗かせると、倒れている幸岐が目に入った。


「みゆちゃん⁉」


びしょ濡れで倒れている幸岐を抱き起こす。浅い呼吸に目を剥きながら、笙花は慌てて部屋に戻った。

着ていた服を脱がせて、タオルで水分を取る。時々瞼が震えるが、目覚める気配はない。裏起毛の服を着せ、ドライヤーで髪を乾かす。


「…う」


ドライヤーの音に気づいたのか、幸岐が微かに覚醒した。


「大丈夫? みゆちゃん」

「しょう、か、さん…」

「寒くない? どうしたの、こんな大雨の中傘もささずに…」

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