第34話 幸岐
夢を見た。
旦那さまと縁側に座って、談笑している夢。私は今よりはるかに年老いているのに、旦那さまの姿は変わらない。
胸が締め付けられる。
こんな未来嫌だ。このまま行けば、私は旦那さまに置いて行かれる。そんなの嫌だ。一緒に時を過ごしたい。ずっと、ずっと一緒に。
場面が変わる。布団に横たえられた女の顔には白い布が掛けられていて、横には喪服を着た旦那さまが座っている。
嫌だ、いやだ、いやだ!
旦那さまが立ち上がる。死んだ私を置いて、部屋を出る。
ぱたんと、軽い音を立てて襖が閉められた。亡骸になった自分と二人きり。
「…いやだ…」
死にたくない。置いて行かないで。零れる言葉を拾ってくれるひとはいない。ただ、死んだ自分の横に立って、泣きじゃくる。
旦那さま、だんなさま。
「おいて、いかないで」
☆ ★ ☆
幸岐は重い瞼を上げた。視界が霞む。その中に、ひょこりと斎が覗き込んできた。
「大丈夫か?」
「…だんなさま」
突然ぽろぽろと泣きだした幸岐に目を剥いて、斎は身を乗り出す。青い頬を伝う涙を拭ってやると、その手首を緩く握られた。
「だんなさま」
「ああ。ここにいる」
「…、…お仕事は、どうなさったのですか」
「休んだ。お前の方が大切だ」
だから、と、斎は安心させるように笑う。
「今日は休め。家のことは俺がやるから」
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