第32話 斎
運命の日、二日前。
斎は相変わらず仕事が忙しいようで朝から晩まで働き詰めになっている。食事を共にすることはまったくなくなった。断食を継続している幸岐からすればよかったのだが、寂しいことには変わりなく。
今日もひとり、冷たい布団に横たわる。起き上がっているだけで疲労感が溜まるようになってしまった。
でも、あと二日で彼女は生まれ変われる。斎と同じ時を歩めるようになる。
「大丈夫、だいじょうぶ、まだ…」
重い頭、動かない四肢。それでも彼女は幸福そうに、布団に顔を埋めた。
☆ ★ ☆
『斎…お前正気か?』
「ああ」
もう日が昇りかけている頃に帰宅した斎は、電話口で頷いた。狛の息を呑む音が聞こえる。
「交渉はほぼ終わってる。あとは笙のほうをどうにかするだけだ。情報は」
『…言いたくないけど、確実に黒だよ』
斎はため息を吐いた。息が白い。
「引き続き頼む」
『うん、それはもちろんやるけど…。…なあ、幸岐ちゃんの様子は?』
一瞬、呼吸が止まった。顔を歪めながら、斎は言葉を絞り出す。
「…最近は寝てるところしか見てないが、…ひどく、やつれてるように見えるよ」
毎日、帰ってくる時間には彼女はもう寝ている。寝ている彼女を眺めながら寝落ちて、彼女が起きる前にまた家を出る。そんな生活。起きている彼女は暫く見ていないし、彼女のご飯も食べていない。
『時間作ってやれよ』
「…わかってるよ」
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