第24話 狛と斎
扉の真横につけられた呼び鈴を鳴らすと、すぐに中からぱたぱたと足音がした。
「はい、どちら様で…、狛さん?」
「おはよ、幸岐ちゃん」
「おはようございます。…⁉ ぼろぼろじゃないですか! す、すぐに手当てを…っ、その前に旦那さまをお呼びしてきます! 寒いですがここでお待ちになってください!」
そう言うが早いか、狛を上がり框に座らせると走って奥に引っ込んだ。すぐに入れ替わりの形で斎がやってくる。その顔は強張っていた。
「どうした。何があった」
「あーっと」
ちらりと奥を見ると、幸岐が救急箱を持ってこちらに走ってくる。動いた視線の先がわかると、斎はそれ以上追求しなかった。
「狛さん、痛いところは」
「ええと、見た目ぼろぼろだけど、怪我はほとんど治ってるんだよね。山道の入り口の木霊たちが治してくれたっぽくて。それで、お礼は幸岐ちゃんのお菓子がいいって言うんだ…」
「はい。そのくらい、お安い御用です。あ、先日笙花さんにくっきーの作り方を聞いたので、それをお作りしますね。すぐにできるので、持って行っていただけますか?」
「うん、それはもちろん。ごめんねえ、今度街の美味しいケーキ買ってくるから」
そう言うと、幸岐の顔が輝いた。狛がほっこりと、孫を見るおじいちゃん目線で見ていると、斎に太腿を蹴られた。
「っう…」
「ど、どうしましたか? 大丈夫ですか?」
「あっいや何でもないよ! クッキーってどのくらいでできる? その間に斎と仕事の話しててもいい?」
「もちろんです! すぐに取り掛かりますね」
台所へ向かったのを確認して、斎と狛は書斎の障子を閉めた。
「…そういうことか?」
どかりと座布団の上に胡坐をかいた斎が狛を見上げる。
そういうこと、つまり、「その怪我は笙花の攻撃によるものか」ということ。
「…厳密にいえば、攻撃してきたのは笙じゃなくておばさんだ。笙、ここに来たか?」
「ああ。昨晩、何の連絡もなく」
「多分、俺の魔力を追ってきたんだと思う。山道のとこで力尽きたから」
向かいの座布団に座って、設置されていたお茶を自分で淹れる。斎にも聞いたが、難しい顔をしたまま無視をされたので、自分の分だけ用意した。
斎は渋面を作って何かを考えこんでいる。静かな部屋に、絞り出すような斎の声が発されたのは、狛のお茶が一杯飲み終わった後のこと。
「…おばさんと笙は、何の話をしていた」
「…取引してた。笙花が本家から仕事を受ける代わりに、『不老不死の薬』の受け取るっていう取引」
ひゅっと、斎の喉が鳴った。
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