【番外編】狼男のバレンタイン 2
狛は人間の会社で働いている。勿論、狼男という素性は隠して。しかし、隠していても食べられないものは食べられないのだ。特にチョコレートと葱は、人間の姿になっても苦手。
毎年バレンタインデーは、課の女性陣がまとめてチョコを配ってくれる。スーパーに売っているちょっと高めの大袋のチョコレート菓子だ。しかし狛はチョコレートが食べられないので、いつも申し訳ないと思いながら幸岐に横流ししていた。女性陣にもそう断ってある。「有難いが、チョコは食べられないので親戚にあげる」と。まとめて用意されているので、一人の都合で中身を変更させるのはどうしても申し訳なかった。
それが今年。例年通り、女性陣からという名目で小袋に分けられたブラウニーが渡された。狛が親戚に横流しするのは周知の事実で、最近は「これ、親戚の方に!」と言われて渡される。幸岐はああ見えて甘い物が好きなので、嬉しく頂いている。しかし、違ったのは終業して帰る支度をしていた時。
狛が気になっている隣の席の同僚が、薄桃色の包装が成された箱を差し出してきたのだ。
それも、「チョコレートが食べられないとのことでしたので、ラスクにしました」の台詞付き。
「え、これ、俺には別で用意してくれたってことでしょ…? しかも女性陣からはブラウニー貰ってるから、あの子個人からってことでしょ? え、なに……すき……」
卓袱台に突っ伏す狛の語彙力は、言葉を重ねる毎になくなっていく。幸岐は横流しされた既製品のブラウニーを齧りながら、斎は幸岐のクッキーを齧りながら、語彙力のない話を聞いている。
「これどうしたらいい…? 食べられない…勿体なくて食べられない、あ、祀る……?」
「馬鹿か。食わなきゃ腐るぞ」
「そうですね。どうやら手作りのようですので、早く食べた方が…」
バッと狛が起き上がった。
「え、なに…? 手作り? これ?」
手作りという言葉に慌てる狛に、幸岐は頷いて首を傾げた。
「笙花さんと買い出しに行った時に、同じ包装紙が売られていましたから…多分手作りなのではないかと」
狛は再び倒れた。斎は冷たい目でそれを眺める。
「開けてみたらいいじゃねえか」
「開けたら出てっちゃう……」
「何がだよ。菓子に足が生えるわけがないだろうが」
早くしろと叩かれた狛は、渋々包装紙に手をかける。破かないように丁寧にテープを剥がし、箱を開けた。
「……手作りだぁぁぁああああ!?」
「お前今日本当にうるさいな」
中身は幸岐の言った通り、手作りのラスクだった。表面には刻まれた苺が乗っている。
「どうしよう、本格的に食べられない」
「苺が乗っているので、早めに食べた方がいいかと……」
「幸岐もこう言ってる。早く食え」
「そんなああああああ」
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