第22話 斎と幸岐
「…」
斎は胸中の違和感に首を傾げる。
何の連絡もなしに、笙花がやってきた。しかし、彼女を監視していたはずの狛は一緒ではなかった。
何か、嫌な予感がする。
「旦那さま?」
縁側で腕を生みながら考えこんでいると、背後から声が掛かった。振り返ると、幸岐がお茶の乗った盆を持って立っている。
「いかがいたしましたか? 何かお悩みのようでしたけれど…」
「ああ、いや…」
きょとんと首を傾げる幸岐を見て、斎は言葉を詰まらせる。
「…笙花と」
何を企んでいるんだ。お前の考える幸せとはなんだ。それが永遠になるとは。
聞きたいことは山ほどある。けれど、聞けなかった。
「笙花さんと…?」
「…いや。なんでもない。笙はどうした。何を強請られたんだ?」
「ああ、ええと…、…金平の作り方を、教えてほしいと」
「金平? ああ、あいつ牛蒡好きだもんな」
頷く幸岐の顔は、微かに引きつっている。
ああ、嘘か。斎はすとんと落ちてきた答えに、苦しくなった。
「…笙はもう帰ったか?」
「はい。金平の作り方を聞いたら、すぐに」
「そうか」
盆を挟んで隣に幸岐が座る。急須からお茶が注がれる音を聞きながら、斎は歯噛みした。
女同士にしかわからない話もある、そう自分を納得させていた。しかし、何かを企んでいるなら話は別だ。
どうして自分には言わないのか。斎は、幸岐の為ならどんな願いだろうと叶えてやる甲斐性持っているつもりだった。
「…旦那さま、お疲れですか…?」
控えめに覗き込まれた幸岐の顔を見て、斎は下手に笑う。歪んでいる気しかしないと心中でため息を吐きながら、月に半分隠されてしまった月を見上げる。
盆一つ分の現実距離。それが、どうしてかあまりに広く感じてしまって、幸岐が遠くにいるように感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます