第20話 笙花
「…逃がした」
「はは、足が速いなァ」
笙花はビルだった瓦礫の上に降り立つと、からりと笑う母親を睨みつける。その母親は、絶妙なバランスで瓦礫の上に置かれた椅子に腰かけていた。
「つうか、アンタがビルごとぶっ壊すから、どさくさで逃げられちゃうんでしょ。もっとなんかなかったの? 結界張ってから壊すとかさ」
「ああ、それは思いつかなかった」
長い足を組んで微笑む彼女に笙花は更に顔を歪めた。
「話の続きをしよう。仕事な。これ」
ひらりとどこからか取り出した資料を振る。笙花はそれを奪い取って一通り中身を確認したあと、その資料を投げ返した。
「もういらない。仕事終わったらまた報告する」
「ふむ。では報酬もその時でいいな?」
「うん。偽物とか持ってきたら、もう二度と仕事は受けない」
「ふふ、わかってるよ。お前は自慢の娘だから、いなくなられると困る。私が責任を持って、報酬を持って来よう」
ゆるりと笑った笙花の母親は、そのままふっと姿を消した。
瓦礫の上に取り残された笙花は暫くそこに立ちすくんでいた。目を細めて魔力の残滓を見る。感じたことのある魔力。
「…あー、バレちゃったかなあ…」
斎と狛には内密に進めなければいけない。幸岐の悲願を叶えるためには、斎には絶対に知られてはいけなかった。
しかし、この魔力がどちらのものなのか、薄すぎてわからない。斎にバレていたら、この計画は完全に御陀仏だが、狛ならばまだ希望がある。
笙花は薄くなっていく残滓を追いかけて、瓦礫の山を飛び降りた。
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