第17話 狛と斎
「十中八九、幸岐ちゃんがよくないことを企んでいるのは間違いないね」
自室で待っていた斎に報告した狛は、そのまま彼の前に座る。
「…幸せが、永遠に…」
斎は再確認するようにつぶやき、ぎっと歯を噛んだ。
一度帰った狛が再びこの家に舞い戻ってきたのは、幸岐が返ってくる一刻ほど前。帰り道で、山道の入り口に住み着いてる木霊に妙なことを聞いたのだ。
『天狗の嫁御とお前らの幼馴染が変な話をしていた』と。
気になって詳しく聞くと、彼女たちは会うたびに薬がどうのとか、偽物がなんとかという話をしていたらしい。それは今日だけではなく、かなり前からということだった。
狛は斎をまじまじと眺めて、徐に口を開いた。
「…なあ、斎。体調におかしいところとか、ないよな…?」
「馬鹿。薬がどうのとか話してんのは前からなんだろ。既に盛られてんならとっくになんかしらの症状が出てる。そもそも、幸岐は俺に毒なんか盛らねえよ」
それに、笙花が幸岐に体に害のあるものを与えるはずがない。
きっぱり言い切った斎に、狛は首を傾げる。
「じゃあ、なんのための薬だ? 幸せが永遠になる薬ってなんだ?」
「…わからんが、〝幸岐が考える幸せ〟を〝永遠〟にする薬だろ」
「だからそれってなんだ?」
「知るか! …狛、お前笙を見張れ。俺は幸岐のこと見とくから」
その言葉に、狛は不満げな声を上げた。
「勘弁してよ…この間笙に送ってってもらったの同僚に見られちゃって勘違いされてんだから…これ以上一緒にいるとこ見られたら、笙が俺の番で確定されちゃう…」
「その辺は俺が後で何とかしてやるからやれ! 笙と組んでるなら、俺一人で止めるのは無理だ。あいつは知識が広い」
「いやまあそうだけど…。…じゃあ本当にどうにかしてくれよ? はーもう手のかかる幼馴染だなあ…」
ぐでんと机に伸びる狛の頭を叩いた斎。ぱたぱたと廊下から足を都が聞こえて、二人は肩を跳ねさせた。
「旦那さま、夕食の準備が…、…い、いかがいたしましたか…?」
戸を引いて顔を覗かせた幸岐は、縁側へ続く障子の前で息を上がらせる斎を見て首を傾げる。
斎は呼吸を落ちつけながら幸岐に歩み寄り、自室の戸を閉めた。
「いや、なんでもない。ちょっと…そう、仕事の手紙を飛ばしたんだ。集中してたから驚いただけだ」
「そうだったんですか? ごめんなさい、お仕事の邪魔してしまって…」
「大丈夫だ。もう終わった。さ、居間に行こう。腹減った」
「今日は鶏大根と青菜の和え物ですよ。お味噌汁はかきたまにしました」
「ああ、うまそうだな」
和やかに居間へ向かう二人。
一方その頃、庭では。
隠蔽の為、縁側から突き落とされた狛が、ひっくり返ったまま半眼でその会話を聞いていた。そして、あとで必ず自分の恋路も手伝わせようと決心した。
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