知らない男


なんて冷たいヒトなんだろう

ネクタイをしめたまま隣で眠っている男を眺めてそう思った

一週間ほど前からずっとこの調子

以前はあれほど愛してると言ってくれたのに

そんな陰鬱とした気持ちに追い打ちをかけるかの様に、酷く不快に玄関チャイムが鳴った

昔からチャイムは好きじゃない

わたしと外とを隔てる壁に針を刺された様な気になってしまうから

だからチャイムは嫌

でも無視するのはもっと嫌

愛の反対は憎悪ではなく無関心、そうマザーテレサが言っていたもの

わたしは全てを愛したい

だってそうでしょう?

たとえばすごく嫌いな人がいたとして、でもその人を愛してしまえば欠点も魅力に思えてくるわ

それってすごく素敵なことだと思わない?

あぁ耳障りね、何度もチャイムを鳴らさないでよ、今出るわ

扉を開けると青い服のおじさまがいらっしゃいました、青は好き、まるでお母様の目の様だもの

「こんにちは、突然ですがこの男性を知っていますか?」

突き出された写真には、隣で眠っていたあのヒトが写っていた

あのヒトったら酷いのよ、奥さんと子供までいるのを隠していたの

だからお仕置きの為にネクタイで首を絞めてやったわ

それっきり布団で寝っぱなし

怠け者は嫌い

男は外で働くものでしょう?それなのにずっと部屋で寝っぱなし

お風呂にも入りやしない

だからもうあんな男、もう、もう……

「知りません」

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