+theショートショートっぽいショートショート+
坂無さかな
山羊は打楽器ではない
数ヶ月前、とある集落に世間知らずの男が引っ越してきた。勿論既に周りから嫌われている。仮にAと名付けよう。
ある日集落で行われる祭の出し物で観客参加型の即席セッションが開かれると聞きつけ、己の才能を住民に知らしめ仲良くなろうと一頭の立派な雄山羊と山羊殴り棒を持ち乗り込んだ。
軽快なギターのガッティングと重く響くベースラインを下地に、空高く響く笛の音、アタイズムを刺激する三味線囃子に馬頭琴、そして山羊を山羊殴り棒で殴打する音と山羊の苦悶めいた鳴き声が混ざり合う。
すぐさまセッションは中止されAは役員達に詰め寄られた。
「Aさん、山羊は楽器ではありません」
「叩いて音が鳴れば打楽器ではないのかい?」
「違います、動物は禁止です」
「おかしなことを言う……三味線には猫の皮、馬頭琴には馬の毛が使われているではないか」
「それらは死体の一部です、貴方の山羊はナマモノ完品でしょう、ナマモノは禁止です」
「しかし私の山羊も既に死んでるぞ」
「まだ微かではありますが息が有ります、違反です」
「違反禁止と同じ事ばかり言いおって、お前たちはロボットか!そもそもおかしいぞ、生物禁止と言っても我々は人間だ!生きている!この祭は集落の人間が誰も参加することができないではないか!早くこの矛盾を解決してくれたまえ!」
Aは論破したと言わんばかりに鼻の穴を膨らませ、役員たちを怒鳴りつけた。
「……なるほど確かに、私たちが間違えていましたね。はい、申し訳ございませんでした、最初にニンゲンの参加を認めてしまった我々のミスです、何せこの集落にニンゲンが越して来たのは初めてなものでして、いやはや申し訳ない。それでは問題の解決と致しましょう。おい、連れて行け。早くその劣等なニンゲンに我々と同じ手術を施してやるんだ。あまりに醜悪で見るに堪えん、ストレスで腰が錆つきそうだ」
〜皆と同じ機械の身体を手に入れたAはようやく集落に馴染めましたとさ、めでたしめでたし〜
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