moon

猛厳 界

moon


この世の中にはまで明かされていないものがある。 そう、例えば月。月の裏側まだ一般の人には明かされていない謎がある。 月の裏には基地がある、宇宙人がいる、などのようにね。 僕は昔から月に興味がある一市民だ。ただ、興味があるといても根拠が乏し いネットや 、胡散臭い都市伝説を語る男のテレビ番組を見て時には感嘆し、 時には少しばかり怖くなったりするただの市民であるので月に実際に行ける なんてことは到底無理なんじゃ無いかと思っていた。しかし、遂に人口が 100億人を突破し、増えすぎた人口の食料を賄えなくなってしまったことか ら各国はこぞって宇宙のテラフォーミング計画を始めた。その中で各国が目 につけたのは、火星と月。火星には大昔に水が流れていたことが分かった事 から、昔から研究の対象になっていた。しかし実用段階には程遠くまずは月 で試してみようという事で月を人間が住める環境にした。その方法は簡単で あり、月の表面に大きなガラスでもって囲んでしまいそこに酸素を取り込ん だり特殊な装置(僕でもわからない。多分機密情報なのだろう)重力を発生 させた。月から地球をつなぐ手立てとしては定期的に出発されるシャトルに 乗るしか無い。その運賃はまあそれなりにするわけで僕は辛うじて名前を挙 げれば皆んなが知ってるような会社の課長を務めているのでコツコツ貯めて 定年退職する頃には月で暮らすだけのお金は貯まっていた。その時には研究 もかなり進んでシャトルも安い値段で乗れたけれども。 そう言えば月の裏側はどうなっているんだろう。 昔読んだオカルトをまとめた本では月の裏側には基地があり大昔初めて人間 が月に行った時にそれを発見したそうだ。確かに今でも月の裏側はアメリカ 宇宙軍が駐留しており立ち入り禁止らしい。

これは面白くなってきた。

今日はやっと定年退社の日。若かりし頃は課長だったのに今は部長とは出世 したものだな。異性との交流を絶ったのが功を成したか。僕はあまり異性に 興味がない(かと言って同性にあるわけでもないが)ので余計な恋愛などせ ずにこの歳まで来た。恥ずかしいが僕は童貞である。女性の味、とやらを知 らない。 母さん、父さんごめんなさい。タドコロフの家系はここで潰えます。 なんてことを考えてたら部下の一人が花束を渡してきた。


「部長、25年間お疲れ様でした。そして50歳のお誕生おめでとうございま す。」

忘れてた。今日は誕生日じゃないか。

「ありがとう。」

そんな空返事をして僕は会社を出た。

また暴動が起きてる。

高齢化が進むにつれ定年退職は50歳に引き下げ、60歳以上の老人はみな施設 に放り込まれた。若者達からは無駄金喰らい、老害、などと聞くに耐えない 罵声を常日頃施設の外から帯びさせられ、我慢の限界を迎えた老人たちが施 設から抜け出して暴動を起こす。こんなの日常茶飯事だ。中には老人たちが 結成したレジスタンスもあるそうだけれど軍に太刀打ちできるものじゃない。 こんなに客観的に話してる僕でさえ後10年しか猶予はないが、たとえ安く なってとは言え月に住まいを持つ者は特権階級なので免除される。月に住む 人間なんざ老人ばかりだ。 自宅に着き身支度を軽く済ませるとタクシーを呼んで空港へ向かう。大きい 荷物はあらかた預けているのでこの身1つとシャトルの中で使う者を簡単に 持つだけでいい。空港に着きシャトルのS席(昔で言うところのファースト

クラスかな)へ向かう。大体3日の旅。気楽に行こうじゃないか。眠気が 襲ってきた。おやすみ。

夢を見た。荒れた大地に一人たたずむ僕。ここはどこだ。地球か?いや違う。 開発前の月だ。憧れていた月の表面に立てたと思うと・・・興奮した。誰か いる。女だ。それも裸の。どうしてこうも眩しいのだろうか。初めて見る女 の裸体だからだろうか。女が喋った。

「あなたは誰?」

「僕はジョニー・タドコロフだ。」

「何しに来たの?」 「僕はここ、月面に移住してきた。これからはここで死ぬまで暮らすつもり だよ。」 くそっ、なんでこんなに年端もいかぬような少女に説明しなきゃならんのだ。 それにしても不思議なものだ。自然と話したくなてしまう。初めて見る女の 裸体だからか。それとも・・・

「あなたはこれから月の民と出会う・・・」


「なんだ?月の民とは」

「それじゃあね・・・」

「おいっ!待ってくれ!」

・・・・・・さま・・・お客様

む・・・ 「良かった。何度呼びかけても反応なさらないので心配しました。投機は間 も無く月面空港基地、アベンエズラ空港に到着します。着陸に備えまして、 皆さまのお手荷物は、離陸の時と同じように上の棚など、しっかり固定され る場所にお入れください。」 なんだ、夢か。それにしてもやけに現実味のある夢だったな。月の民とか言っ てたな。兎にも角にも月に月に着いた。ここで余生を過ごすのは楽しみでな らない。 僕は月にある不動産屋へと足を運んだ。静かの海周辺に一戸建てを買ったの だ。海といってもただのクレーターであるのに何んとなく静かという言葉が 入ってたのでそこにした。何と浅はかな考えであろうか。不動産屋に案内し てもらって家に着いた。なるほど、小洒落たいい家だ。これを設計した者の 腕は見事なものだ。いいセンスだ。なんて自己満足に浸っていた。自覚しな いうちに浮かれてるのだろう。この胸の高鳴り、高揚感。堪らない。明日に でも月の裏側に行ってみよう。いくら月の大きさが地球の1/4だといえかな り遠い。となれば車内泊も想定して寝袋を持って行こう。弁当も作って・・・ 取り敢えず今日は疲れた。寝よう。明日が楽しみだ・・・

眠れない

いかん、シャトルの中で寝すぎたか。このジョニー、一生の不覚! 取り敢えず喉が渇いた。月で生産されているムーンコーラを飲んでみよう。 うん、おいしいこれ。ムーンコーラなんていうふざけた名前している割には 旨いじゃないか。月独自ブランドもなかなかやる。 ふと外に人の気配を感じた。外を見ても静かの海、クレーターしか見えない。 いや、待て何かがおかしい。

ふっ


僕は気づいてしまった。女性の陥没乳首であることを、そして自分が寝ぼけ ていることを。馬鹿馬鹿しい。寝直そうとした時、またあの声が聞こえた。 そう。シャトルの中で見た夢に出てきた少女の声だ。しかしこれは夢ではな い。

来たのね

あぁ来たさ。このために何年も必死で働いたのだから。 「あなた月の裏側に行くつもり?そこへ行っては駄目」 「なぜだ。月の裏側は僕が幼い頃からずっとずっと行きたかったんだ。月の 民だかなんだか知らないが止めないでくれ。明日は早いのでな。さらばだ。」

そう叫んで布団に戻ろうとした時、クレーター、いや陥没乳首が動いた。 ほぅ、なかなか美しい身体だ。

いやそこじゃない。 目の前にそびえ立つ巨大な少女ー月の民といったほうが良いだろうかーはま さしく夢の中で見た少女と同じで会った。なぜ急に立ったのか分からない。 そこから動きはないので仕方なく僕は寝ることにした。なぜか胸に引っかか るものがあった。

翌朝、女はいなくなっていた。やはり昨日の出来事はも夢だったのか。少し は気になる(自分が歩く都市伝説なのではと少し思った)がそんなことはど うでもいい。過去の怪奇現象よりも目先の旅行だ。大量の携行食料とムーン コーラを鞄に詰め車のトランクにぶち込んだ。これで準備完了だ。月の裏側 には何があるか、確かめに行こう。

1日経った。まだたどり着かない。 2日経った。まだたどり着かない。

3日目でようやく予定の場所についたがそこは巨大な壁であった。まるでメ キシコの国境の壁のようだ。予想はしてたが結構悲しい。なんとか覗けない だろうか。壁の周りを駄目でもともと、走ってみた。 ふふふ、僕はツイている。 壁の上に通ずる梯子を見つけた。行ける。これで覗ける。 さて、待望の月の裏側とのご対面ーーーー

なんだ、これは。

特殊装備を着込んだアメリカ宇宙軍の兵士。無機質に立ち並ぶ機械群。あれ

は発電機だろうか。奥の方におかしな形をした建物が見える。おそらくあれ


が月の研究施設なのだろう。よし、行くか。アメリカ兵にバレないようにこっ そりと阿部の内側に侵入した。もうこうなっちゃ只の一月に興味がある者と いう説明じゃ済まされなさそうだ。何がそこまで僕を突き動かすのかは僕自 身にもあまりよくわかっていない。ただ胸の中にあの少女が言った台詞かつっ かえて離れない。

ーーこれから月の民と出会う・・・

本当によく分からない。けれどなんだか興奮してきた。

アメリカ兵の不真面目な性格が幸いとして無事研究施設内に忍び込むことが 出来た。途中で危うくなったのは言わないでおこう。 施設の中は閑散としていた。奥の方に進んでいくとそこはまるでニホンの座 敷(いかにもアメリカのヤンキーが好みそうな感じだ。)を思い出させるよ うな空間であり、大きな人が一人入れそうな容器が1つ、鎮座していた。中 には思わず顔を背け絵しまうようなグロテスクな生き物が入っていた。ウサ ギのような頭に大きな目。体毛は濃く四足歩行から二足歩行へ移り変わる過 程のなり損ないのような感じであった。 これが月の民・・・気持ちが悪い。 しかしあの少女はなんだったのだろうか。少なくとも僕には普通の少女に見 えた。

施設を出て月の裏側を散策していると国連ビル大のビル、巨大なタワー、さ

まざまな色を放つ照明灯があった。またクレーターには、大小多数のドーム

状構造物があり、クレーター同士をつなぐ恐ろしく長いアーチも視えたがそ

れは明らかに人間の作った物ではないとわかった。驚愕してしまうのは、暗

いクレーターの底に作業中のヒトを視たことだった。それは作業をする真っ

裸の男たちだった。やはり彼らは先程施設で見た者と同じ姿形をしており、

彼らは忙しそうに崖を掘削していた。

まさか・・・

僕はとんでもないことにもしかしたら気がついてしまったのかもしれない。

わぁぁぁぁ!


遠くで怒声のようなものが聞こえ立て続けに銃声が聞こえ、そして止んだ。 あの間抜けなアメリカ軍が何と交戦したのだろうか。遠くに大勢の人影が見 える。彼らは皆古汚い民族に身を包んだ晩年の老戦士たちだった。地球では 若者達に虐げられ、結成されたエルダリーレジスタンス。通称老人解放軍で ある。見たところ彼らは地球にいるレジスタンスとは違い精鋭揃いのようだ。 親玉と見られる顔に深いシワが刻まれており右目は眼帯の老人が僕の方に向 かってきた。 我々とともに立ちがらないか。今地球上では人民の心は腐敗しておりこのま までは人類は滅んでしまう。そこで我々がこの月を支配し我々だけの桃源郷 を築き上げるのだ!さぁ始めよう。昔ながらのAKを手に持つだけでいい。

そうか、そういうことか。 僕を呼びつけた謎の少女、あれはまさしく月の民である。ではなぜ人の姿を していたのか。それは僕や他の月に移住してきたものに対して警戒心を与え ないためではないのか。最初に夢の中で出てくるのが先程見た真の月の民の 姿であるのならば夢の中でも腰を抜かしていただろう。そして到着した家で の出来事。あれは否が応でも月の裏側に興味を抱かせることが目的ではない のか。つまり彼ら月の民は人間の手によって支配され、都市開発を無理強い されてきた。基本的には一般人は月に行ったことがないわけだからアメリカ 軍など各国の開発陣は昔から謎のベールに包まれている月の裏に移拠点を構 えることが効率が良かったのだろう。これはまさしく大スキャンダルだ。そ こで彼ら月の民も黙っちゃいない。そこで地球で差別されている老人に目を つけた。僕はまだ60歳では無いので呼ばれる筋合いなどないのだが普通の人 よりも老けてるため年相応と見なされたのだ。全く、失礼な話だ。確かに月 に移住してくる者の多くは老人である。 何億年前から文明のある月の民のことだから地球にいるレジスタンスを月に 向かわせることは容易であっただろう。地球人から利用されている月の民と 地球人に虐げられている老人達の利害が一致したのだ。その媒介となったの が・・・つまり僕ってこと。昔にもいろいろ試してみたんだろうがとどのつ まりみんなお爺ちゃん。到底真相にたどり着けなかったんだろう。

そんな訳で僕は老人解放軍の連中と月面で暴れまくった。銃火器を使ったこ

とも人を殺めたことも無かったがそんな事はどうでも良い。ハイになってい

た。


僕達が散々暴れまわった結果月面を占拠することに成功。世界中にこの未曾 有の大スキャンダルを公開した。これによって地球は未だかつてない大混乱 に陥っただろう。長年住み慣れた土地が荒れると考えると少し心が痛んだが さして気には止めななかった。

僕達は月の民と共存してく道を選択した。それはまだ先の見えぬ暗い道であっ ても必ず未来へたどりつけると信じて。

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