第6話『最初の案内人』
聖妖様の事についての説明を一通りしてもらった私は、これから生活して行く上での疑問がいくつかあった。
今まで人間だった私は、突然現れた妖の事を全く知らない。
だから普段、どんな生活をしているのか。妖はご飯食べるのか、お風呂に入るのか。
それがとても気にはなっていた。
「あの……そもそも私、妖の事、全然知らないんですけど」
「そうですね。 病気にはなりませんが、基本的にヒトとほぼ同じでございます」
「じゃあ、ご飯も食べるし、お風呂も入るって事?」
「えぇ、私は水風呂しか入れませんが」
またふふっと微笑む雫さん。
……でしょうね。雪女が熱々のお風呂に入るイメージなんてないもの。
でも、ご飯があったり、お風呂にも入れるのなら良いかな。元々、お風呂にゆっくり入るのは好きだし。
「あ、じゃあもしかして大河様は妖狐だから、いなり寿司が好物とか?」
「!!……俺ぁ、別に……好きじゃねぇよ」
「えー、何言ってんの。 大好きじゃん!!」
「大河。 いい加減、聖妖様への言葉遣いを直せ」
何となく私の知っている範囲での妖の情報を言ってみれば多少肩を揺らすも、初対面したときの口調で話し、私から目線を反らしてそっぽを向く大河様。
やはり、初めて話したときのあの様子は私の勘違いではなかったらしい。私、何か気に障るような事しちゃったのかな。
でも、秋真さんの言葉を聞いて今までの聖妖様への態度も同じなのかとも思える。
「申し訳ありません。 陽菜様、大河は昔からこのような感じでして」
「いえ、私が気に障るような事してないのなら別に気にしませんから」
感情が顔に出ていたのか、大河様の態度の事で雫さんが謝罪してくる。
しかし、私が原因ではないのなら、そこまで気にしないしな。……というか、やっぱりいなり寿司好きなんだ。いなり寿司あげれば、少しは私に対しての態度変えてくれたりするのかな。
「あの、陽菜様」
「ん? 何ですか?」
「大河には"様"は不要でございますよ」
「え? ……あ、はい」
雫さんに言われ、気がついた。
私、使用人や楽さんにつられて"大河様"って言っていたらしい。
そっか、別に畏まった言い方しなくても良いんだよね。……なら大河さん?
「それに、我らに敬語も不要でございます」
「そうですよ! 陽菜様」
「わ、……わかった」
微笑む雫さんとニコニコ笑顔の琥珀さんにそう言われるも、なんだか違和感がある。一応、妖では先輩のようなものなんだから。
でも、だからと言って「敬語が良いから」とか言っても却下されそうなので黙っておく。
と、彼ら四人と話をしていれば、回廊の方からパタパタと足音が聞こえてきて。
「聖妖様、失礼致します」
「はい」
襖の奥から聞こえてきたのは、楽くんのような少年の声。
私が返事をすれば、襖が開かれ、その先には正座をしている長い黒髪を緩く一つに結び、黒い着物を着た少年がいた。
その少年は私の方を向いてお辞儀をしてくるも、私は彼の顔が気になってしまった。
彼はとても楽くんに似ていたのである。
一瞬、楽くんとは双子なのかと思ったが、彼はススッと畳の上を足音を立てないよう歩き、秋真さんの元へと向かう。
「どうした、
「秋真様、トラブルが起きましたので至急お戻りください」
「……わかった、すぐ行く。 陽菜様、申し訳ありませんが失礼します」
「わかった」
墨くんという少年の言葉で、表情が一気に険しくなった秋真さんは、私に一言言ってから立ち上がり、一礼し部屋を後にする。
そんな彼に着いていくように、少年も私に一礼した後、部屋を出ていったのだが、今の私の頭の中は先ほどの少年の事。……やっぱり、楽くんと双子なんだろうか。
「雫さん、さっきの子って」
「あぁ、彼は黒坊主で、秋真の使いです」
「因みに、俺の使いは赤坊主で"
「赤坊主ってのもいるんですか?」
「後、私のところは青坊主で"
「確か、楽くんは白坊主だよね」
私の言葉に「あぁ」と返事をしてくる大河さんは、今まで正座をしていたのに、急に足を崩して胡座を組んでいて、そんな彼はまた、雫さんや琥珀さんに言葉遣いや態度を注意されうんざりした表情を浮かべている。
じゃあ、ここには白、黒、赤、青坊主って妖がいるんだ。○坊主だから顔や容姿が似ているんだろうか。そもそも楽くんと墨くんしかまだ会ったことないけど。
「因みに楽達は、四人の長の使いですが、同時に聖妖様のお世話係りでもあるので、何か困ったことありましたら彼らにお申しつけください」
「そうなんだ。 わかった」
そうか。そういえば、楽くんが私の家に来た時、そんな事言っていたっけ。
でも、今までお世話係りだなんて、そんな人は周りにいなかったせいか、雫さんに「お申しつけください」って言われても言えないよ。
「では、一通りの説明は終わりました。来たばかりでお疲れだと思いますので、少しお休みください。
私も一度自分の国へと戻りますので、私に何かご用がありましたら、今日の担当は楽なので、声をお掛けください」
「うん、わかった」
どうやら先に話しておかなければいけない事は話終えたらしい。雫さんも忙しいのか、その場からスッと立ち上がり、一礼してから、部屋を出ていってしまった。
雫さんがいなくなり、部屋には私と大河さんに琥珀さん、そして楽くんの四人が残っている。
「陽菜様。 来たばかりでお疲れかもしれませんが、もし宜しければ
笑顔で私に申し出てきた琥珀さん。
彼や雫さんの言うように、別に疲れている訳じゃないし、これから住む場所だから案内してくれるならありがたい。
それに"南の国"と聞くと、勝手に南国のイメージが出てくるのは私だけだろうか。暖かいのかな、なんてつい考えてしまう。
だからという訳ではないが、言ってみたい気持ちが強かった。
「じゃあ、お願い──」
「お前は後にしろ琥珀。 先に
琥珀さんに案内をお願いしようとすれば、何故か私の言葉をかき消すように喋り出す大河さん。
さっきまで面倒そうな態度をしていたのに、私を案内してくれるのか。もしかして、案内は楽くんに丸投げしてしまうとか。
「えー。お前さっきまでめんどくさそうにしてたのに、なんだよ! 楽に丸投げする気か?」
心の中で思ったことを、殆ど全て言ってくれた琥珀さんに、ちょっとだけ驚くも、やっぱりそう思うようね。と琥珀さんに共感してしまった。
しかし大河さんは、眉間にシワを寄せて不満そうな琥珀さんの事を気にすることもなく立ち上がり、部屋の襖に手をかける。
そして私に目をむけて「行くぞ」とだけ言い、部屋を出ていってしまった。
「琥珀さん、また今度案内して!」
「わかりました! 陽菜様」
断りを入れる私に琥珀さんは笑顔で返してくれる。そんな彼を部屋に残したまま私は、楽くんと一緒に大河さんを追いかけるように部屋を後にした。
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