第1話『妖』
カーテンから射し込む日差しで目が覚めた私はゆっくりと瞼を開ける。一番に目に飛び込んできたのは、いつもの私の部屋の天井。そして外からは、いつもの車が通る音や電車の音、それに学生の楽しそうな声。
まだ半分寝ている頭のまま、体を起こせば私はいつも通りベッドで寝ていた。
それを確認した瞬間、夜中の出来事を思い出す。
「私、胸が苦しくなって倒れたはずなのに……、何でベッドに?」
確かに、死んでしまうかもしれないと思うほどの苦しみを味わった。だから本当に死んでしまうのかもしれないと思ったのに。
何度も何度も、夜中の事を考えても全くわからない。それに誰かいたような気がしたんだけど。
──不法侵入?
その言葉が頭を過った瞬間、背筋がゾクリとする。
まさかあの人が、私に何かしたとかかもしれない。しかし、昨夜は玄関もベランダも鍵をかけてあったはずだ。
そんな事を考えている時。
ピンポーン──…。
家のチャイムがなった。
「ッ!!」
今はまだ、朝の7時だ。それに誰かと通勤するという約束もしていないし、配達業者がこの時間に来るなんてあり得ない。大家だって、流石にこの時間に今まで来たこともないのに。
扉の向こうに居る人物が誰なのか、検討つかない私は、恐怖心を抱きながらも恐る恐るベッドから降りて、玄関へと向かう。
そしてゆっくりと覗き窓から外を見てみる。
「え、……」
そこには何故か網代笠を被り、白い生地の如法衣姿の男の子が立っていた。
今の時代、こんな服装をしていれば完全に目立つし、何より違和感満載だ。それに私はこんな子と知り合いなどではない。だから彼がなぜ私の家の呼び鈴を鳴らしたのか、今、目の前にいるのか謎でしかなかった。
「あ、あの……」
色んな疑問がある私は、正直相手が少年であろうと今、扉を開けるのは怖かった。だから扉越しに声をかけたのだ。
「あの、
「え、な、何で私の名前……。 貴方は一体」
私の部屋の前にいるのか、そう聞きたかっただけなのに。声をかけた瞬間、私の名前を、しかもフルネームで呼ばれ、また背筋がゾクリとして、恐怖心は増してきて、バクバクとうるさいくらい心臓が動いている。
──何で私の名前知ってるの。
今は、扉一枚挟んだ向こう側にいる少年が怖かった。
「申し遅れました。僕は
「は? お世話係?」
楽という少年の言葉で、頭の中は更に混乱していく。私のお世話係ってどういう意味だ。意味がわからない。
「あの、時間がないので開けてもらってよろしいでしょうか?」
「え、何で! 嫌よ!」
「何故ですか?」
恰も当たり前のように言ってくる彼に私は、唖然とするしかなくて。なぜ見ず知らずの少年を部屋に入れなければ行けないのか。
まずそこから話してくれないとわからない。
そんな事を考えていれば、私の考えを読んだかのように、彼は「今回も警戒されちゃった」と呟いたかと思えば、私に向かってまた話始める。
「陽菜様。貴女様はここ最近、青髪の女性の夢をご覧になりましたよね?」
「!!?」
その言葉を聞いた瞬間、肩が震え、心臓が跳び跳ねた。何でこの少年がその事を知っているのか。あれは私の夢の中の事。だから他人が知るはず無い。
そう思っていたのに、また少年の言葉で私は驚きの声をあげてしまう。
「僕、そのお方の関係者です」
「え!? う、嘘でしょ!?」
「嘘ではないです。 前の
「せ、聖妖様……」
少年の口から出た単語も聞き覚えある。それは狐耳をつけた男性が言っていた言葉だ。
夢で見た事を次々と話し出す彼に対して、驚きと困惑で私の頭の中はぐちゃぐちゃだ。これは信用し、部屋にいれて夢の事を聞いた方がいいのか、それとも追い返した方がいいのか。
今の私にはそれすら判断が出来ない状況になっていた。
「しかし、貴女様が見た夢の通り、聖妖様はお亡くなりになりました。 そして次の聖妖様に選ばれたのが貴女様なのです」
「……え、ちょっと待って」
夢の中で確かにあの青髪の聖妖様とかいう人は"次の者を……"って言っていた。それって、私の事だったのか。
「早く貴女様に我らの世界に来ていただかないと、困ることになるのです。お願いします」
「我らの世界って……え、なんなの」
これだけ話していれば、少しだけ信用して良いのかもしれないと思い始めた私は、寒空の中、少年に外に居させるのも申し訳ないと思い、仕方なく部屋へと招き入れた。
のだが、寝巻き姿だと気がついたのは彼をいれた後だった。
慌てて、ユニットバスで着替えようと彼に「着替えてくる」と言えば、これを来てください。と綺麗に畳まれた白と赤い衣服を手渡される。また訳がわからず、でも急いでユニットバスへと入り、着替えてみる。
「あの……、楽、さん?」
「あ、着替え終えましたか?」
「!!」
着替えた。着替えたのは良い。が、渡された服は明らかに巫女服だった。なぜ私がこの服を着なければいけないのか。
だが、それよりも、何よりも笠を外して容姿がハッキリと見えた彼に対して素直に"可愛い"と思ってしまった自分がいる。白髪の髪は長く、緩く一つに結んでいて、目はクリッとし、端整な顔立ちをしていたのだ。これは大人になったら美男子になるよ。
と、まぁ、とりあえず彼の容姿については、自分の中に留めておく事にして、今は服の事に関して問いただしたかった。
「なぜ巫女服」
「聖妖様はその服と決まっているのです」
「……そう」
そもそも私が聖妖様とかいうのになったこと自体よくわかっていないが、もう彼の言うがままで良い。
そう思うも彼の服装をよく見てみれば、やはり今時、外を歩いていれば必ず浮きそうな服装だ。
──人目を気にしないような子なんだろうか?
「ねぇ、そんな服装してるけど、よく人目気にならないね」
「え?」
「だって、今時夏祭りとかイベントでもないときに着物で歩いている子いないよ」
私の言葉を聞いた瞬間、彼はポカンとした顔を浮かべている。私は何か間違えるようなことを言ってしまったのだろうか。思い返すも心当たりはない。
と、その直後、彼は「あぁ」と何かに気がついたのか、笑顔で口を開いた。
「僕、白坊主って
「え、……」
「あと貴女様も昨日までヒトでしたが、真夜中に死ぬほど苦しみましたよね? あれがきっかけで聖妖様の力が完全に目覚めたので今は妖と同じで、妖が見えるヒト以外には見えませんよ」
「え、……」
彼のその言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。
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