第2話
私を助けてくれた青髪の人は犯人と一緒に、回転灯がついた車へと乗り込み、二台の車は走り出す。
その際、私は泣きすぎてぼんやりした頭のまま、通りすぎる町並みを眺める。
しかし、町並みを見ても今までと同じ光景だ。
なら、知らない町に移動させられてしまっただけなんだろうか。
そう思うも、先ほどの男の言葉が引っ掛かる。
"特能課"
この車を見る限りでは特能課というのは、警察だろう。警察にそんな課なんて聞いたことがない。
なら、別の世界に来てしまったのか。
<楽シイ楽シイ世界へ行ッテオイデ>
黒コートの男の言葉も思い出す。
あいつは確かにそう言った。
「少しは落ち着いたかしら?」
「……はい」
隣に座る茶髪ポニーテールの小松崎さんは、優しく私に声をかけてくれる。
彼女と話すだけでもだいぶ落ち着いてくる。それは同性だからなのか、それとも喋り方が優しいからなのか分からないが。
「じゃあ、名前聞いていいかな?」
「……
「結城さん、怖かったわよね。 それにあの男は動きを封じる異能力所持者だったから」
「異能力……」
彼女の言葉で私は反応する。
やはりこの人も"異能力"と言った。私がずっと暮らしていた所には、そんなものはなかった。……私が知らないだけだったのかな。
それも考えたが、あり得ないがする。ならば、と私は小松崎さんに尋ねた。
「あの、……異能力って、なんですか?」
その言葉を言った瞬間、彼女や運転手の刑事さんらしき人は、「え!!」と声をあげたのだ。
***
≪特殊異能犯罪対策課≫と書かれた部屋へと、小松崎さんに連れて行かれた私。
部屋へ入れば、中心には少し変わったデザインのテーブルと椅子があって、その近くには刑事ドラマでよく見る大きいホワイトボードがあり、周囲の壁に沿ってデスクが幾つか並んでいた。
キレイに片付いているデスクがあったり、散らかっていたり、小物が置いてあったり、パソコン以外置いてなかったり。
そして私は中央にあるテーブルの椅子に座らされ、小松崎さんに「書ける範囲でいいから」と言われ、目の前には用紙とペンが置かれる。
それは、被害届の用紙だった。
書かないわけにもいかず、私はペンを持ち、項目にそって書いていく。名前、生年月日、年齢、性別。住所等の欄もあるが、もし、仮にここが今までいた世界でないのなら、この住所を書いたところで偽り扱いにされないだろうか。
そんな不安を抱えながら被害届にペンを走らせるも、周囲が気になりチラッと見てみれば、私が来る前からいた三人は小松崎さんと一緒に来た私をジロジロと見つめてきて、めちゃくちゃ居心地悪い。
いや、警察に来ている時点で居心地はよくないんだけど。
そしてデスクに座っていた、黒髪かきあげオールバックの男は立ち上がり、ゆっくりと私の後ろにいる小松崎さんへと歩み寄っていく。
「……
「今、強姦未遂で
助けてくれた人であろう蒼さんの事が気になり、用紙から目線をあげて小松崎さんに目を向ければ、彼女は入り口近くにある小窓を指差していた。
私の位置から見てもその窓の先は部屋のように見え、その小窓の下は一段高くなっている。……もしかして、あの窓から取り調べ室が見える感じになっているんだろうか。
そんな事を考えていれば、デスクに座っていた眼鏡の黒髪短髪の男性がずれた眼鏡を直しながらも、私の事なんて気にする様子もなく、小窓へと向かい、隣の部屋の様子を眺め始める。
「で、この子は?」
「被害者よ。 一応未遂だったから許可得て来てもらったのよ」
スマホを片手にデスクの椅子に座る金髪の男性に言われ、小松崎さんが説明してくれた。
「そうか。 あんた、わざわざここまで悪かったな。……あぁ、俺は
「ど、どうも」
私の説明をされた一之瀬さんから謝罪を受けた私はまた用紙に目を向ける。
確かに強姦未遂の件で来たのだが、私はそれよりももっと気になることがあった。
それは"異能力自体"の事。車の中で異能力の事を聞いたときの反応も気になるけど。特能課の人に聞けば、この世界の事や、黒コートの男の事が何かわかるような気がしたのだ。
「課長、彼女は強姦未遂の被害者ですが、それ以外にもちょっと」
「ん? 何だ?」
「それは蒼が来てから、話します」
「あぁ、わかった」
小松崎さんの言葉で、私はまた彼女に目を向けてしまう。
それ以外に何なんだろう。警察に目をつけられるような事をしてしまっただろうか。被害届の用紙にまた目を向けて、住所欄を見る。
もしかして原因は住所とか? やっぱりここは異世界でこんな住所は存在しない。貴女何者!?とかなっちゃうんだろうか。
そして不安を抱えたまま、被害届を書き終え、数分後。
私を助けてくれた蒼さんが取り調べを終えたらしく、部屋へと入ってきた。
「終わった?」
「あぁ」
蒼さんはため息をつきながら、自分のデスクであろう場所に何かノートのような物を乱暴に置きながら、小松崎さんに返事をする。
この時、蒼さんの隣にあるデスクの椅子に座っていた金髪の男性が立ち上がった事で彼らの身長差を知ってしまった。
……小さい。
こんなことは絶対に言えないのだが、蒼さんを見て素直にそう思ってしまったのだ。
いや、しかし失礼だよね。身長の事は気にしないにしよう。
「じゃあ、彼女の話するわね」
身長のことを気にしないようにするため、蒼さんから目を逸らしたとき、小松崎さんが話を切り出した。
この後一体何を言われるのか、少しだけ怖くて、体を強張らせた。
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