アレからは逃げられない
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「先月の事故からおかしなことが起きすぎている。
坑道で幽霊を見たとかそんな昔からよくある話どころじゃない。
もっと奇妙なことだ」
「何がおかしいんだ?
あれ以降事故も起きてないだろ」
「音だ。
本当におかしくなった。
何かおぞましい化け物の断末魔のような、
いや、赤ん坊の泣き声にも思える。
とにかく、なんというかこの場所には不自然な音がするようになったんだ。
いやってほどにまとわりついてくる。
何日か前に休暇をもらってそのまま逃げちまったやつがいただろ。
そいつも同じことを感じてたみたいだ」
「あんた確か、事故の時も近くにいたんだろ。
あんな事故のあとなんだ、
気が滅入ってもおかしくないし、
恥じることじゃない。
それにただでさえ、機械の音が煩くて、いかにも耳によくない仕事だ。
職業病かもな」
「ああ、言われてみたらそうかもしれない。
でも同じことを、あいつにも言ったんだ。
そしたらあいつ、寒気がするほどの真顔でこういったんだ。
〝あなたも直にわかる、アレからは逃げられない〟ってな。
そのときはなんのことだかさっぱりわからなかった。
事故で何人も死んで、
おまけに外じゃ戦争がいまでも続いてるところもあるんだから。
死ってもんについて年甲斐もなく深く考えちまったんだなこいつは、くらいに思ってた。
でも、いまならなんとなくだが、理解できる。
確かにアレからは逃げられない」
「アレってなんだ?」
「光が見える」
「どうした?
大丈夫か、何か飲むならとってくるぞ。
――おい、何してる正気か!」
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