カクヨム

奥野鷹弘

第1話 ささやく風

 換気のためだけに開けた窓だったのに、開けたすぐそばから散歩に行きたくなるような風を僕に伝えた。そんな窓に八つ当たりではない八つ当たりで勢いに身を任せ戸締りをし、家という箱から飛び出した。

 思い返せば、そんな毎日の繰り返しで僕を慕える人はあまりいない。

 あの人はどうしているだろうか。その人はまだあの性格なのか。いつかの人は、同じ過ちを繰り返しているのか。背伸びをすることが生きがいだった人は、等身大になったんだろうか…。そんな事を巡らせながら、空を観たり土を蹴ったり、雨上がりの水溜りに濡れてみたり、風を切ったりして、よく座りに行く緑地のベンチへと向かった。


 こどもの声が近所迷惑という話に耳栓をしながら、そこら辺の町内でたむろっているご年配さんの陰口の方がよっぽど迷惑だと咳ばらいをしている、この頃。


 そういえば少年はどうしているのだろう・・。

 そうだ、ちょうど目の前で語り合う青年ぐらいの年頃だった。僕と出逢ったときは、今のように制服を着たりバスを待ったりしていなかったが、あの年頃の青年のように文字を使った形で自分を表現をしようとしていた。


 周りから見れば少年はすこし変わっていた。

 だから、みんなとよく馴染めなく、またそれがどうしてだとか自分でもよく理解できなく、心を閉ざしてしまっていた。今だからこうやって話が出来るが、当時はどうすれば少年の〈ココロを拓く事ができるか。〉で一生懸命だった。そして、僕のやり方が間違っていても少年には未来を描いてほしかった。


 すこしばかり遠回りしてやって来たこの緑地。まだ半乾きの木製のベンチに座り、少年の名前と共に過去を思い出すことにした―。



 ≪奥野 鷹弘(おくのたかひろ)≫



 少年の生き様は、いや、彼の人生は・・まるでタカのように一直線で、あちこち飛び回って目を光らせている。この世界を切り裂くように、鋭い言葉で人の心を鷲掴み、何が正しくて何が間違いなのかを両極端に考えさせられるような人物である。でもそんな彼は実はもろく、傷付きやすく、身近にある幸せをふさわしくないと歩いている人物でもある。

 そんな彼は、昔、文章すら書けなかった。文字すら読み取るのがやっとで、黒板に書かれた文字を書く映すのに一文字でさえ時間がかかった。彼からのこぼれ話だから本当かどうかわからない。が、ある時に覗いてみたノートを見て、彼の辛さを隙間みた気はしてる。

 話が逸れるかもしれないが、彼は、楽しいと絵で表現するだけでも、人物とその物があり、その中にはじめて『○○は、楽しい。』という吹き出しが付いて、”楽しい”という表現をする彼だった。

 僕も、もっと勉強をするべきだとは思う。しかし、それはあまりにも悲しい出来事ではないのか・・。



 だから僕はある時に、彼の作文をとおして向き合ってみたいと決めたのだった―――。

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