【書籍化記念SS】異世界転生して生産スキルのカンスト目指します
渡琉兎/DRAGON NOVELS
鍛冶のあれこれ
意識を取り戻した僕は、ガーレッドとともに暇な時間を過ごしていた。
というのも、怪我も魔力も医者のエルニカ先生が太鼓判を押すほどに全快しているというのだが、今まで見たことも聞いたこともない勢いで回復した為に経過観察を余儀なくされているのだ。
結果、元気そのものなのだが病院から出られないという苦行を味わっている。
「あー、暇だなー」
「ピーギャー」
ガーレッドも僕の膝の上で横になるくらいしかやることがないようで、早々と昼寝を決め込もうとしている。故に、ガーレッドと遊ぶこともできない。
……まあ、ほぼ一日中遊んでいたのでガーレッドも珍しく僕と遊ぶのに飽きているのだと思う。
一人でできる暇つぶしを考えてみて、せっかくだからと自分が作ってみたい武具について考えてみることにした。
まずはやっぱり剣である。
この世界の名剣と呼ばれる存在を見たことがないのでなんともいえないが、僕が思い描く剣がこの世界で受け入れられるかどうかの心配もある。
「……まあ、そこは考えても仕方がないか」
受け入れられるかどうかはあまり関係ないだろう。職人を目指すのであれば、自分が生み出した作品を認めさせてこそ一流になれるはず。ならば、受け入れられなかったとしても、受け入れさせればいいだけの話だ。
「最終的な到着点としては、やっぱり魔剣を作ってみたいよな。
……うん、とりあえず呼びやすい魔剣にしておこう。
僕が目指すものは魔法が飛び出す剣を作ること。炎弾やかまいたちが飛び出て相手を攻撃できるような剣を目指すのだ。
「そうなると、魔導スキルの習得は必要だよな。生産系スキルは全部習得するつもりだけど、魔導スキルも鍛冶や錬成同様に習得は必須だね」
しかし、魔導スキルに関しての知識が全くない僕なので習得に向けては一旦棚上げだ。
「魔剣の効果について考えてみようかな」
全属性持ちなのでどの属性を入れることも可能なはず。火属性の炎弾や風属性のかまいたち、水属性であれば水爆弾もあるだろう。
土属性や木属性はどうだろうか。魔剣を地面に突き刺したら落とし穴が作れたり、木々の成長を操作することができる、とかだろうか。
でも、それだと直接攻撃にはならないのでもっと別の攻撃手段を土と木に関しては考えなければならないだろう。
光や闇はどうだろうか。どちらかというと味方への合図や目眩ましなどに使用する二属性なので、こちらも直接的な攻撃手段をすぐには思いつかない。
「とりあえずは火、風、水の三属性かな」
その中でも一番威力を高めることができるのは、やはり火属性だろう。燃えるし、爆発だって引き起こせるし。それに見た目も赤色の剣って格好良さそうだし。
それにガーレッドも火属性の魔剣だったら喜びそうだもんね。
「どんな見た目にしようかなー」
なんか、少しずつ気分が乗ってきたぞ。
両刃のロングソード、刃渡り一〇〇センチ程で幅を七センチくらい、スラリと細く長い形状にしようか。
色合いは刃の部分を濃い朱、二センチ程内側からは薄い朱で染め上げるが、中央には炎を模した刻印を施そう。
鍔の色は真紅、中央に朱の宝玉をはめ込み見た目を豪華にしながらも、鍔自体のデザインはシンプルに横長の円柱、両端に膨らみを作って捻り小さな火をイメージする。
柄の色は漆黒、滑りにくくする為に小さなでこぼこを作り、柄頭には銀色を用いて朱と黒の中にアクセントを持たせよう。
鞘の色は濃紺、深い海の底で魔剣を封じているイメージである。本来は深海は黒なのだが、柄の色とかぶってしまうのでそこは僕のさじ加減である。
「……うん、なんだか、相当いい感じになったんじゃないかな?」
魔剣としてではなく、一度普通のロングソードとして打ってみたくなってきたよ。
そうなれば、防具についても考えなければならない。
「ユウキが装備していたライトアーマーなら簡単だろうな。覆う部分も少ないし、何となくイメージしやすいもんね」
実際に見たことがある、というのが一番大きいだろう。ユウキが装備していたそのままに作ればいいんだからね。
後は装飾を施したり、魔剣と同様に属性を付与できれば最高である。
「ゲームでは勝手に作られてたからなぁ、自分で打つとなるとやっぱり知識が必要だよ」
イメージの齟齬があると出来上がりが歪になってしまう可能性が高い。
侍が着ていた甲冑などはパーツごとに分かれていたけれど、この世界の鎧も同様だろうか。
形状だけでも考えておくことは可能だが、その考え自体が間違えていた場合にイメージを変更することが大変かもしれない。
「……鎧はやめておこうかな」
全く無知な状態ほど怖いものはない。鎧に関しては知識を得てから考えることにした。
「それなら、盾はどうだろう」
盾の能力だけはすでに考えている――
物理防御も突き詰めるつもりだけど、やはり一番の見せ所は魔法反射である。
そういった能力があるのか、魔導スキルで付与できるのかは定かではないけれど、能力を考えるだけなら問題ないだろう。
形状は丸形、メインの色は青を基調として白と黒のラインを入れよう。
中央には蒼の宝玉をはめ込み、魔法反射が発動する時に輝きを放つんだ。……うん、想像しただけでも格好良い気がする。
朱の魔剣、蒼の魔盾。……なんか、考えただけでゾクゾクしてきたよ。
そうなると、鎧の色は黄色かな? いや、黄色の鎧は見たことないな。というか目立ちすぎる。それならシンプルに銀か、それとも漆黒にしようかな。
色合いのバランスも難しいものだね。実際に目の前で身につける人がいると考えれば、あまりに派手な色合いは控えたほうがいいかと考えてしまう。
……やはり鎧は僕にとってネックになる部分らしい。
「何なら、鎧は本当にライトアーマーみたいな動きやすいもので考えてしまってもいいかも」
剣や盾に比べて面積も広い鎧である。重量感あふれるヘヴィーアーマーよりも、軽装感漂うライトアーマーのほうが個人的には好きなわけだし。
「それなら、アクセサリーで補助を付けたらどうだろう」
ゲームでもアクセサリー枠は存在するし、その効果で能力を底上げすることができたのだから、似たような効果を生み出すこともできるんじゃないだろうか。
「力の指輪とか、速さの腕輪とか? 腕輪は邪魔になりそうだから、ペンダントとかイヤリング? でも、女性専用になっちゃいそうだな」
そう考えると男女兼用で作れそうなのは、やはり指輪や腕輪になるだろうか。
男が指輪をアクセサリーとしてつけるのは、ゲームの世界だと気にならなかったけど、実際に身につけるとなれば気になってしまう。
そうなると自ずと腕輪になっちゃうよね。ゴテゴテの腕輪でなければそれほど邪魔にはならないだろうと考えて形状をイメージする。
太さは一センチくらいで軽い素材が好ましい。
付与効果は速度向上がいいかな。蝶のように舞、蜂のように刺す。そんな冒険者がいたら見惚れちゃうかもね。
細く作れたら両腕に付けても問題はないかもしれないな。
もう一方の腕には腕力か、耐久力か、魔力向上とかもできるのだろうか。
「……何なら、腕輪だけじゃなくて足輪も付けるか?」
妄想が妄想を呼び自分でもよく分からなくなってきた時だ――
「――ピギャ!」
「うわあっ!」
先程まで膝の上でウトウトしていたガーレッドが、僕の体に体当りしてきた。
受け止める準備なんて当然できていなかったので、そのまま後ろに倒れてしまう。大きいベッドだったので頭を打つことはなかったけど、驚いてしまい心臓がバクバク音を立ててるよ。
「ど、どうしたのさ、ガーレッド」
「ピギャ! ピギャギャー!」
「暇だから構えって?」
「ピギャー!」
声も荒々しくなっているので、相当暇なようだ。……寝そうだったくせに。
「そうだなぁ……せっかくだから、ガーレッドが装備できそうなものを考えてみようか!」
「ピ、ピキャキャ?」
「あっ、でもガーレッドは成獣になるから体も大きくなるんだよね。うーん、それだと難しいかな?」
「ピ、ピキャ?」
再び思考の海に潜ろうとした僕だったけど、そこでもガーレッドが邪魔をしてきた。
「ピキャ! ピキャキャン!」
「あぁ、ごめんごめん」
ガーレッドの脇の下に手を差し込んで僕の顔よりも上に持ち上げる。
「ピキャキャン! ピッキャキャー!」
ドラゴンという個体で空も飛べるからなのか、遊びの中でも高い高いが一番好きなように感じる。
そうやって遊んでいると、ドアがノックされた。
「どうぞー」
僕の返事を待ってドアが開くと、外からゾラさんが入ってきた。
「なんじゃ、今日は元気そうじゃのう」
ゾラさんはほぼ毎日といっていいくらいにお見舞いに来てくれている。最近はあまりに暇すぎて顔を合わせてもガーレッドと一緒にダラダラしていたので、今の姿は珍しいのかもしれない。
「最終的にどんな武具を作ろうかって考えてました!」
「……もっと子供のように振る舞ってもいいのだぞ?」
子供のようにって、どういうことだろう。僕にとっては鍛冶について考えることは最高に楽しいことなので問題はないのだが。
「……して、どんな武具を考えたんじゃ?」
……ふっふっふっ、なんだかんだ言っておきながら、ゾラさんも武具関連の話は聞きたいってことですね。
そこで、僕は魔剣や魔盾、アクセサリーについての説明を始めた。
「――……小僧、本当に突拍子もないことを考えるのう」
「そうですか? 魔剣とか魔盾とかならありそうじゃないですか」
「あるにはあるが……それと、その魔剣というのは
あっ、そういう呼び名なんですね。
「それだと思います! なんだ、やっぱりあるんじゃないですか!」
ウキウキ気分でそう言うと、ゾラさんは溜息をついた。
「鍛冶スキル、錬成スキル、魔導スキル。そのどれもまだ持っていないだろう」
「だから、最終的に作りたいものなんですってば! 今すぐに作ろうなんて考えてませんよ」
「今できることを考える方が良いのではないか?」
「目標を持つことは大事なんです! そもそも、全部一人でできるようになる、それも一つの大きな目標なんですからね!」
「うーむ、言われてみればそうじゃのう」
ゾラさんみたいに錬成から鍛冶まで全てを一人でできる人は少ないって聞いたけど、そこを目指すこともまた大きな目標だ。ソニンさんは五人いるかいないかって言っていたけど……そのうちの二人はゾラさんとソニンさんだから恐ろしいよね。
「……あれ?」
「ピキュ?」
「どうしたんじゃ?」
そこまで考えて、僕はちょっとした疑問に行き着いた。
「鍛冶も錬成もスキルを持ってなくても一応はできますよね?」
「そうじゃのう」
「だったら、全部を一人でやることって意外と難しくないんじゃないんですか?」
固有スキルを習得する為に鍛冶や錬成を行うのだから、スキルを持っていなくてもやろうと思えばやれるのだ。
カズチが鍛冶の勉強もしているように、どちらかを極めようと思えば自ずともう一方の知識も深まるはずだから、基礎スキルの種類によっては本人のやる気次第で両方のスキルを習得することもできそうなんだけどな。
「それは、あくまでも一定水準の作品に限られるからじゃ」
「一定水準?」
「儂やソニンが錬成と鍛冶をやれば、一級品や超一級品、つまり高水準で作成することができる。どちらでもじゃ」
「あー、なるほど、そういうことですか」
ゾラさんがあえて高水準と言い換えて説明していくれたことで気づくことができた。
確かに一人で錬成と鍛冶を行う人はいるだろう。だが、それは普通の錬成に始まり、普通の鍛冶で終わる。売上は全て一人に入るのだろうが、何処にでもありふれている一定水準の作品に人気が出るかと言われれば、出ないだろう。
「儂らくらい高水準で錬成と鍛冶をできる者が少ないということじゃな」
「やっぱり、二人とも凄いんですねー」
「ピッキャキャー!」
「おうおう、ガーレッドも褒めてくれているのか? 可愛いもんじゃのう」
ゾラさんがガーレッドの頭を撫でてていると、空いているドアがノックされる。
視線を向けると、そこには医者のエルニカ先生が苦笑しながら立っていた。
「何をやっているのかと思えば、ゾラさん」
「おぉ、そうじゃった! すまんすまん」
慌てて立ち上がったゾラさんを見て僕は首を傾げてしまう。
「小僧、喜べ――退院じゃぞ」
「えっ! 本当ですか、やった!」
入院していたとは思えないほど大げさな動きでベッドから立ち上がると、鞄にガーレッドを入れようとしたところで、ゾラさんから声が掛けられた。
「ガーレッドの顔を出していてもいいぞ」
「……いいんですか?」
ケルベロス事件の当事者であるガーレッドを隠さなくてもいいのかと思ったのだ。
不安が顔に出ていたのか、ゾラさんは僕の不安を払拭するかのように満面の笑顔で答えた。
「小僧らを救出した時にガーレッドも大勢から見られておるからのう。それなら、小僧がガーレッドの主なのだと見せていた方が良いのじゃ」
事件の後だからか心配になってしまうけれど、ゾラさんが言うからにはそうなのだと信じて鞄からガーレッドの顔だけを出してあげる。
「ピキャキャンキャン!」
相当嬉しかったのか、鞄の中で腕をパタパタ動かしているのが分かった。
僕とゾラさん、エルニカ先生も笑みを浮かべる。
エルニカ先生からは、何か異常があればすぐに来院するようにと注意を受けて、病院を後にした。
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