第21話 鹿児島へ
1時間ちょっとのフライトに、1時間ちょっとのバス移動で鹿屋についた。
移動や行動でバタバタするのが嫌いなので、鹿屋で一泊するつもりでホテル予約をしていたのだけれど、まだチェックインをするには早いので、中央駅でスーツケースを預けて、まゆちゃんの住所に向かうことにした。
正直なところ、初めての場所に一人で来るなんて、自分でも驚きだし、こういうのは苦手だ。
交通手段も、一応は調べてきたので無事にたどり着けるとは思うけれど、悩みそうならお金はかかるけどタクシーで行ってしまおうと考えてもいたが、なんのことはない、駅周辺でわかりやすい案内が出ていたので、難なくバスに乗ることができた。
その頃から、緊張が大きくなっていくのを感じていた。
手の平の汗のかき方が半端ないほどで、拭っても拭っても、じわりじわりと汗が出てくるのを肌で感じていた。
しばらく乗っていると、○○という地名が流れてきた。
私は乗降ボタンを押すと、バスが止まるのを待った。
市街地から住宅街になり、家もまばらな自然豊かな緑が広がり始めたところで私は降り立った。
第一印象としては、私が住んでいるところに少し似ているような気がした。
家もまばらだけれど、一定間隔でまだいくつか建ち、一つ違うとすれば、大きな山が遠い。
いや、遠いんじゃなく、自分がいるここが、丘のようになっている、小高い山ともいうのかもしれない。
そんなところに降り立ってまず思ったのが、なんとなく潮の香りがするようだということだ。
私は事前に調べた通り、バス停と電柱の住所を確認しながら、まゆちゃんの家の住所を探した。
そこからバスの進行方向とは反対側に歩き始めて、一番最初の家の住所を見て、「これなら案外すぐにまゆちゃんの家がみつかるかもしれないな」と、考えていた。
私が来た道がT字になるような場所にくると、その反対側の家の住所が目に入り、そうか、この道を入って行くんだなと辺りをつけ、細い路地に入って行くと、その家はあった。
「岡村」そう、ここだ。間違いない。
なんとなく、きぃちゃんの家が思い浮かんだ。
路地に入ったところにあり、そこから家の玄関まで庭が広く、同じ敷地に離れが建っている。
どちらも、だいぶ古くなってきていたのがひと目でわかるほどだけれど、母屋はかなり大きな建物だ。
私は玄関でチャイムを鳴らすと、かなり年齢のいったおばあさんが出てきた。亡くなった私の祖母と、そう年齢は違わないのではないか・・・
「こんにちは。私は小学生の頃に真由子さんと同級生でした朝永美希子と申しますが、真由子さんは御在宅でしょうか?」
「はいはい、真由子ですか?同級生さん?真由子は東京だけんね、知らんかい?」
東京!?・・・そうか、ここにいはいないんだ・・・
「私、真由子さんが愛知にいた頃の同級生なんですけど、真由子さんのお母さんはおりますか?」
「あ~あ、あんたさん、愛知の人かね。遠くから来てくんなさっただね~だけえが、真由子のお母さんも、東京だけんね。こっちきてわりと早ようににお母さんが再婚してね、真由子が中学生になる頃かね、お父さんの仕事の都合で、東京に行っただよ。お盆の頃だったらねぇ、帰ってたんだけどねぇ。さぁさ、お茶でも入れるけん、縁側は風が通って涼しいで、腰を下ろしてな」
お祖母さんが勧めてくれたので、縁側に腰を下ろさせてもらうことにした。
ここら辺も自然が豊かなので、風が気持ちいい。
時折チリンと鳴る風鈴が、夏の涼しさを運んでくれている。
「そうでしたか。まゆちゃん、東京ですか。では、健一さんやおじさんはお元気ですか?」
まゆちゃんがいないのは残念だけれど、そもそもここにはおじさんに会いに来たのだ。
それが目的なので、まゆちゃんがいなくても仕方がない。
もしかしたらまゆちゃんは結婚して、もうここにはていないかもしれないとも思っていたわけだし。
「伸一わぁ、悪い病にやられてねぇ、もうとうにのうなったよ。こっちきたときゃあ、もうあんまり塩梅もよくなくてねぇ。可哀想だったけんねぇ」
えっ・・・おじさん、もうとっくに亡くなってたんだ・・・
「ケンはぁ、こっちきてすぐに住み込みで働ける工場があって、そこで働かしてもらえることになってね~今でもそこで、ちゃぁ~んと働いてるだよ。ケンは働き者だでね~お父さんがのうなって、どうなるかと思ったけぇ、住み込みで働くとこがあるけん、こっち帰ってきったんだかもしれん。休みになると、時々顔を見せにきてくれるだよ。いつかケンが年取ったら、いつここに帰ってきてもいいように、この家はケンに残してやるだよ」
ケンちゃんもいないのか。
「じゃあ、ケンちゃん元気にしてるんですね。よかった」
「せっかく来てくれたに、だぁれもいなくて、悪かったねぇ」
「いえ、まゆちゃんが元気なことや、ケンちゃんも元気で働いてること聞かせてもらえて、よかったです」
「畑で作ったスイカもあるけん、食べて行きなさいよ」
お祖母さんはそう言って立ち上がると、家の奥に入って行き、さっきから裏庭で水音がしているのが聞こえてたが、その音が消えたと思ったら、お盆の上にスイカをたくさん切ってきて持ってきてくれた。
「ありがとうございます。じゃあ、せっかくなのでいただきます。私の家でもスイカを作ってるんですよ」
「そうかね、愛知のスイカとどう違うか、食べてみて比べてみてな」
シャリッと歯を入れると、水分をたっぷり含んだ瑞々しい甘さが口いっぱいに広がった。
「美味しい。すごく水分たっぷり含んでて、甘くて美味しいですね」
「そうかね、そりゃあよかった。いっぱい食べて行きなね」
戻る前に、まゆちゃんやケンちゃんが過ごしたこの辺りを少し歩いてみようかな。
バスは一本や二本やり過ごしたところで、まだまだ次があるので、ここで私の知らない時間のまゆちゃんやケンちゃんに会えるような気がして、景色を目に焼き付けておきたいなと思っていた。
「あんたさん、朝永さんゆうたね?真由子にまた連絡しておくで」
「あ、いえいえ、いいですよ。私もこっちに旅行にきて、急に思いついたみたいに訪ねてきちゃったので、いきなりで連絡もなしにきちゃったので、返って申し訳なかったです」
「いやぁ、わしもあんたさんにスイカ食べてもらえてよかったでね」
「美味しいスイカ、ごちそうさまでした」
あったかい気持ちになった。
こんなお祖母さんがいて、まゆちゃんもケンちゃんも、安心していられただろうと、子供の頃のまゆちゃんたちを想って、ほっこりした。
こんな静かでのんびりしたところでおじさんやまゆちゃんのお母さんは育ったのだ。
このお祖母さんに育てられたんだと思ったら、おじさんがきぃちゃんをどうにかしたなんて、そんなの私の妄想に他ならないわけだし、私の考え違いなんじゃないかと私は思い始めていた。
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