第10話 私が消えた日

(きいちゃん語り)



「きぃ、そのタマゴはどうするだ?」

呼び止められて、ドキッとした。

私は、鶏小屋の横にある自転車を置いてある小屋の隅っこにある、私が入れそうなくらいの大きさの木箱の中にタマゴを隠していた。

 それは死んだ古い曾お祖母ちゃんが着るものを入れていた衣装箱で、それが今は古くなった細かな農機具を入れてあるのだった。

みーこちゃんみたいに机の引き出しに入れようかと思ったけれど、私の机も自分のものみたいに勝手に使うお兄ちゃんに見つかるかもしれないと思い、開けているところなど滅多に見ない木箱に隠すことにしたのだった。

 木箱の中の農機具の隙間には、タマゴが転がらないように5つ置いてあった。

 みーこちゃんがやっとタマゴを5つ隠せたということで、いよいよヘビにタマゴをあげることになり、私は、学校へ持って行く手提げに、最近のお気に入り、『こわいおはなし』の本と、お母さんが作っておいてくれたおやつのドーナツを2個袋に入れて、木箱のところに行き、それを開けて一つずつそっと入れているところだった。

家のタマゴは殻もしっかりしているので、簡単に割れたりしないだろうと思い、手提げに全部入れて持っても大丈夫かなと思ったのだった。

残り1個というところで、お兄ちゃんに見つかった。

小屋に入るとき、周りに誰もいないことをちゃんと確認したのに・・・

「タマゴうんでたからとってきた」

「なんでそこに入れただ?」

「タマゴを入れるカゴがないからおいといた」

「ふ~ん、じゃあ台所においてくれば」

「うん」

私は家に入り、土間を通って台所に行くと、そのまま裏口に出てドアを開け、兄がいないか確認して通りに出た。

私の家は通りから横道に入り、そこからさらに引っ込んだところに玄関はあるのだけれど、裏口のドアは通りに面しているのだった。

 私は通りを向こう側に渡って、前の家のわき道から堤防に出て、そこからみーこちゃんの家のほうに向かって進んだ。

「よお、きぃちゃん」

後ろからそう呼び止められ振り向くと、おじさんが堤防を歩いてくるところだった。

「こんにちは」

「こんにちは。今日も石投げやるか?」

「ううん、今日はこれからみーこちゃんとあそぶやくそくがあるの」

「そうか、そりゃ残念だな。おじさん、今から河原にいくから帰りに時間があったら石投げにおいで」

「うん、わかった。ばいばーい」

おじさんは堤防から河原へ降りる階段を下りて行った。

 私はそこからみーこちゃんの家を通り過ぎ、しばらく行くと表通りに出られる道があるので、そこから通りに出て道路を渡り、またわき道に入って、みーこちゃんと待ち合わせている、いつもゴザを敷いて遊んでいるみーこちゃんちの田んぼに向かった。

田んぼは田植えをするまで、好きなだけ遊びに使えるので、お天気のいい日はそこに行くことが多かった。

 今日はヘビにタマゴをやることにしたけれど、その前に、みーこちゃんとドーナツを食べながら、「こわいおはなし」の中に見つけた、鬼姫と呼ばれる大蛇を見せてあげようと思っていた。

ヘビにタマゴをやるのはそのあとでいい。

楽しみは後にした方が、より楽しみが大きくなるんだから。

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