第1話 満月の夜の少女

満月の夜。

もう何も感じなくなった。

こちらに迫ってくる人間をただ斬るだけ。その動作を繰り返しすぎて、ただの作業にも思えてきた。

全ての人間を殺し、静まり返った廊下を早足で歩く。

突き当たりにある、大きな扉の前で足を止める。

ここは帝国マザムの城の最上階。

世界最高クラスの軍事力を誇るこの国も、たった1人の子供によって一晩で滅ぼされた。

重たい扉をぐっと力を込めて押しあける。

扉を開けた瞬間、この国の国王が大剣を振り下ろす。

体を半歩左に動かし、大剣を避け、国王の首に剣を振り下ろす。

切れ味の良いこの魔剣もさすがに何百人もの人を斬れば切れ味も落ち、本来ならスパンと首が落ちるのだがそうはいかず、ザクっと心地よい音をたて骨に突き刺さる感触が腕に伝わる。

首の7割ほどくい込んだその剣は国王の命を完全に断ち、国王は力無く崩れる。

倒れ込む国王を見つめてから広い部屋を見渡す。

国王が住んでいる部屋だけあって、かなり広く、ソファやベットもかなり高価そうだ。

暗くてよく見えない中、ベットの上に2人の女性の影を見つける。1人は恐らくこの国の女王、もう1人はこの日にの一人娘だろう。

無言でベットまで近づき、女王の首をはねようと剣を振り、振り下ろそうとした瞬間、思考が止まった。

晴天の空のような、美しい青色をした髪は、月明かりに照らされ、毛先が光っていた。白く美しい肌と、髪と同色の目。整った目鼻立ち。 そして、何故か浮かべられている笑み。

なぜ笑っている?

一瞬そんな思考を抱くが、首を振って、余計な思考を振り払う。

そして、女王の首をはねる直前、女王が微かに何かを発した。

言葉の内容は分からなかったが、とても満足したかのように、まさに花のような笑顔を浮かべ何かを言った。

倒れ込んだ腕の中で、こちらに睨む少女と目が合った。

少女は叫ぶ。

「お前を必ず殺してやる!何年先になっても、必ず見つけ出して殺す!」



なぜ、少女を殺さなかったのかは分からない。だが、胸に残るモヤモヤに違和感を抱きながら俺は城を後にした。


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