異世界ノンソリチュード

@reki1007

第1話 異世界転移キターっ!

甘酸っぱい片思い 勉強に打ち込む 部活に奮闘する


これらが一般的な学生のする事だという


僕はそんな経験したことがないので、一般的な学生ではない


日々ゲームに没頭し、勉強はしない


僕は普段人に求められないが、ゲームの世界では求められる、そんな感覚に溺れた






海鵬 ケイト


ゲーム好きの高校生、と言えばいいように聞こえる


俺は日々の学園生活を自分をゲームという薬に漬けて耐えて過ごしていた




ある日の休日に新しいゲームが発売されたのでコンビニへ、プリカを買いにいった




「はぁー、つら」




空は雲で薄暗く、俺を押し潰そうとする


その薄暗い空間を、コンビニの明かりが照らして、不快なコントラストを織り成した


蛾が明かりに集まっている




コンビニの中に入り、生ぬるい暖房の暖かみを感じる


その店内の光は俺にとって眩しい


店員に一万円札とプリカを渡して店を出た。なるべく早めに店を出たかったので、俺はやることを済ませて最速RTAのようにコンビニから逃げた




空は黒い雲から雨を垂らす




「げっ、雨かよ…」




雨に服が濡れて体が冷えて寒い


信号の前で車の通りがなくなるまで待った。車の通りが無くなり道路を歩く


脳が疲れないように、聴覚を遮断していたのが原因で、横から来るトラックに、8メートルほど近づいてから気づいた




ケイト「うわっ!やば!」




普段運動をしてなかったのが体に響きわたり、うまくトラックを避けれずに横からこれ以上ない力が加わる


骨が軋み、激痛が走った




ケイト「うぎあぁぁあああああああああ!」




辺りに人は居なかった


腕がねじきれて、手の感覚がまるでない


ケイト「はぁ…これが俺の…」


しばらくすると瞼が閉じ、気を失った








?「おめでとうござ~います!あなた様は第13異世界転生プロジェクト〔ユグドラシル〕に当選しました~!」


ケイト「俺…ここは…てかお前だれ…」




目を醒ますと青空に白い雲がかかっていて、心地よい風景だ


どこからか、少女のような声が聞こえる




?「ここは神の部屋?っていうのかなー?あらゆる生物を生み出す機械みたいな物だよ!」


ケイト「お前は誰だよ!」


?「僕はこの世界の神“リューカ”、26代目だよ!」


ケイト「ちょっと俺からは見えないからこっちに来てくれよ!」


?「え~、は~い」




目の前にいきなり美少女が現れた


澄んだ黄色の瞳と透き通った空色の髪はまるで天使、いや神のようだ




?「気は済んだ?じゃあ異世界転生、満喫してきてねー!」


ケイト「ちょっと待て!まだ聞きたい事が!」




俺が立っている床が落ちた


俺の体は宙に浮かぶ




ケイト「うわぁぁぁああああああああぁぁああ!」


?「いってらっしゃーい!」










ケイト「はあっ!俺死ぬっ!」




俺はがばっと上半身を起こした


辺りを見渡すといかにも「ファンタジー」な世界だった


甲冑を着た騎士、鍔が広い帽子をかぶった魔術師


なんだこれ




?「おいーっ!死ぬなー!」




向こうの方から大声を張って何者かが駆けてくる


そいつは騎士のような見た目をしていた


だが重厚な鎧の下にはフリフリのスカートが着いている




?「大丈夫!君!」




冷静に見るとそいつは女で、紫色の長い髪は風に吹かれた


俺の両肩をがしっと掴んで、女らしからぬ力で俺の体を揺らす




ケイト「いてぇ!死んでないから!」


?「ふぅ、よかったよ」


ケイト「誰だよ…肩が折れる…いてっ」


?「あ、ごめん」


ケイト「てかここどこだよ…落ちたと思ったらなんで…」


?「一応ギルドで看護してあげるよ!」


ケイト「なんで…まさか本当の異世界転生…」


?「何言ってるの、頭強く打った?」




はしゃいでその騎士風の女は俺の手を滅茶苦茶な力で握り引っ張る


その時自分の腕が治っている事に気が付いた




異世界転生とか言っても流石に笑えないし、最悪だ




そんな風に思っていると、その女が所属していると言っていたギルドに着いた


ギルドの中には受付らしき物や、酒場、加治屋のような設備がある、やはりここはRPGの世界観




女が木の扉を押して開ける




?「ねぇさぁ、この少年の手当てのために看護室開けてくれない?」


?「はいっ!了解しました!」




びしっと敬礼をしたのは金髪の俺と同じくらいの少女だった


少女と少しだけ目があった


ドン引きしたような目で見られるのは流石に心が苦しい




その看護室とやらに俺は担ぎ込まれると、騎士風女はベッドに俺を押し倒す


その女は俺の下半身に馬乗りになって、圧がかかる




ケイト「えっとー、これは…」


?「あー、鎧重っ」




その重そうな鎧を軽々と床に投げ捨てた


やべぇなこいつ、吉田○保里か




ケイト「どういうプレイで…」


?「プレイってなに?それより手当て手当て」


ケイト「うおっ!」




ベッドの枕元に置かれている箱から、何か緑色の瓶を取り出した


そして瓶のひし形の蓋を開ける




?「これ苦いけど、あーんして?」


ケイト「ちょっとまって!なんだって!?」


?「ほらあーん」




美女にあーんされるという夢にまで見た展開だったが、俺はあまり嬉しくなかった




ケイト「んぐぅっ!」




無理やり口に瓶を突っ込まれて、口内に悶えるぐらいの苦味が広がる




ケイト「うがぁぁぁぁぁああああ!苦っ!」


?「あっ、そんな苦い?」


ケイト「これは笑い事じゃ…ゴホッ」


?「でも治ったでしょ?」


ケイト「俺の精神が傷つけられ…ゴホッ」


?「まあ安静にしてればポーションの効果が効くよ」




俺が横たわっているベッドの端にその女は座った




ケイト「お前は…誰だよ…さっきから…ゴホッ、話もろくに聞かな…ゴホッ」


?「私?私は聖樹騎士団の幹部よ!」


ケイト「そうじゃなくて名前を聞いてるんだよ!」


?「名前は自分から名乗る物でしょ!」


ケイト「そういう所は何故…、俺はケイト」




俺が異世界転生した、なんて言えないだろう




気付くと俺は何故かこの世界を難なく受け入れていた


普通ならもっと慌てふためき、絶望する場面だろうが、俺はリアルでも絶望してた為、こっちのが希望があった




?「私はローゼ!、てかなんであそこで寝てたの?」


ケイト「なんか…寝たくなっちゃってな」


ローゼ「ふーん、職業は何?」


ケイト「えーっと…忘れた」


ローゼ「忘れた!?何で!?」


ケイト「わっ、わからない…」


ローゼ「しょうがないなぁ…ショップとかスキルとかも?」


ケイト「そうだ…」




ローゼ「んー、じゃあ!私が色々教えて…いや思い出させてあげよう!」


ケイト「騎士の仕事は?」


ローゼ「大丈夫大丈夫、2日3日は大丈夫だから」


ケイト「ちなみに、それ以上かかりそうな場合は?」


ローゼ「まぁなんとかすれば大丈夫っしょ!ほら!行こ?」


ケイト「うわぁぁ!袖ひっぱるな!」




ローゼは扉を開け、俺をむりやりベッドから引きずり下ろして扉から出す




ケイト「いってぇ!マジで引っ張るなよ!」


ローゼ「男なのに弱いなぁ」


ケイト「古すぎる根性論だ!」


ローゼ「ほら、ここがギルドのショップ」




要するにここはこの世界でいう店らしい




ケイト「これ…何て書いてあるんだ?」




棒にぶら下がった木製の看板には、蛇や魚を模したような形の文字が記されている




ローゼ「え!?文字の読み書きも忘れたの!?」


ケイト「…そうっぽいな…」


ローゼ「はぁ…しょうがないから私でいいなら教えてあげるよ」


ケイト「…本当にさっきからお世話になってばっかだな…ごめん」




俺は浅く頭を下げた




ローゼ「気にしないでよ、私が好きでやってるから」


ケイト「でもな…それなり…」


ローゼ「ほら!お腹へったでしょ、これ!」




俺が言いかけるとローゼはいかにも固そうなパンを俺に手渡した




ケイト「これは…」


ローゼ「パンだけど?ほら食べて」


ケイト「ああ、……まぁパンだな」




でも俺らが、普段食べているパンより味は落ちる




ローゼ「パンは知ってるんだ」


ケイト「まぁな」


ローゼ「…なんか偉そうだなぁ」


ケイト「すまんな」


ローゼ「それもまた偉そうだよ!」


ケイト「…ん?なんだこれ」




俺の目に落ちていた本が色濃くうつる




ケイト「ん?どれどれ…」




パンを口に咥えたまま、本をしゃがんで拾う




ローゼ「なに?その本」


ケイト「なんか落ちてた」




その分厚い本をパラパラと捲る




ケイト「これ読めるか?」


ローゼ「えーっと、〔この世界に13人の使徒が降臨した、使徒らは別世界から転生し、その世界の言葉で海、地、空、風、光、太陽、月、霧、雪、雨、時、慧という名前を持っていると同時にその名前と同じ力を駆使する〕ってなんかの伝説?」




そこであのリューカとかいうのが言っていた事を思い出す




〈第13異世界転生プロジェクト〔ユグドラシル〕〉




あいつの言っていた事が正しいとすると、俺のような異世界人がこの世界に13人居ることになる


この13の使徒がなんとかかんとかってのは要するに、俺たち異世界人には特殊な力があるってことだろう


だが俺からしたらそんな力なんて無いように思えるが




ケイト「慧…慧人けいとってことか…」


ローゼ「ん?なに?」


ケイト「いや!何でもねぇ…」




慧という漢字は賢い、という意味を持つらしい


ということは俺はただ“賢い”というだけの何も力を持たない凡人、ということだ




ケイト「(なんだよそれっ!他の俺と同じの異世界人は海とか太陽の力を操れるってことじゃねぇか!)」


ローゼ「ん?〈慧 名前:ケイト〉って…」


ケイト「どどど…どうしたんだよ?…へへ…」




慌ててローゼから本を奪う




ローゼ「まあケイトみたいのがそんな特殊な力持ってるわけないよね~」


ケイト「そそっ、そうだよ…」




バレたらなにか厄介そうで、ローゼには知られたくなかった




ローゼ「あれ…?なんか起きる感じがする…」


ケイト「何が起きるんだ?」


ローゼ「分からない、でもなんか嫌なことが…」


中位騎士「ローゼ様!東門に正体不明の敵影が!」




ローゼは急に目付きが鋭くなり、陽気な雰囲気から一変した




ローゼ「わかった、直ぐに行く」


ケイト「おい待て!俺も連れてけよ!」


ローゼ「君は待っててくれよ、私は殺さなきゃいけないから」


ケイト「…ああ」








ローゼは懐から紙のような物を取り出し、何かを唱えると紙が鎧一式に変わる


鎧を着ながらゆっくりと外へ歩く


ローゼは完全に外へ出ると物凄い速さで走った




ケイト「なんなんだよマジで…」




俺も少しローゼが心配になり後を追った


建物の中からは見えなかったが、外に出て何が起きているのか一瞬で理解できた


超巨大な化け物が蠢いている


街は燃え盛り、奥の辺りはもうさら地と化していた


その化け物はまるで泥のような見た目で、目が無数についている


ローゼは宙高く飛んでいて、ゲームに出てくるの大剣みたいな剣を振りかざす


ローゼの声は軽く0.5キロほど離れていたがはっきりと聞き取れた




ローゼ「剣技[剣の舞]!」




剣を踊るように振り回し、ローゼは刃の残像を纏った。


だが怪物はなにも無かったかのように耐えて、ローゼを触手で叩いた




怪物「グゴァァァァァァ…」




ローゼは地面に叩きつけられ、口から赤い物が飛び散った




ローゼ「かはっ!」


ケイト「おい!ローゼ!大丈夫か!」




俺はローゼのところに寄ったが、ローゼが声を上げて俺に向かって言った




ローゼ「くるなっ!バルト!」




バルトとは誰か、そう思っていると頭の真上に怪物の触手が来ていた




ケイト「おい…マジかよ…俺死ぬのか」




俺は目を瞑って、下を向いた


怖かったから、怯えたから




?「いや死なないよ」




俺の目の前にいきなり男が現れたかと思ったら、触手は切断されて俺の横にぐたっと放り投げられていた


さらにいたはずの怪物は跡形もなく消滅しているのを確認する




?「大丈夫かい?ローゼさん」


ローゼ「ああ…すまないな、カイト」




その男はカイトというらしい




ケイト「あ…ああ…」




俺の足はガタガタ震えていて、今にもぶっ倒れそうな感じだ


多少なりとも異世界転生できれば楽しいと思っていた、だが全く楽しくなかった、こんな恐怖と争いに溢れた世界




?「君も大丈夫?一応名前を聞いておこう」


ケイト「俺は…ケイト…です」




自然に丁寧語が出てしまう




?「ケイト…そうか、もう夜は遅い、宿代渡しておこうか」




その男は俺に薄い布で作られた小さい袋を投げた




ローゼ「いや…こいつは私が所有している奴隷だ」


?「ローゼって奴隷なんて欲しがるタイプじゃないよね?まぁいい、そういう事なら君に任せておこう」




表に出さずとも凄く信頼していたローゼに奴隷と言われたので少し気分が悪くなったが、冷静に考えてその気分は直ぐに戻った




?「ああ、君ちょっと話があるんだが…」


ケイト「何ですか…?」




その男は俺より少し高いぐらいの身長だったが、物凄い威圧を感じた




?「お前…」




男は俺の肩をガシッと掴んで、耳元でローゼに聞こえないように小声を使って喋る




?「俺と同じ異世界人、いや日本人だろ」


ケイト「バレ…た?」


?「明日必ずギルドに来て俺を呼び出せ、必ずだからな」


ローゼ「何を話していた?」


?「彼の怪我を確認した、それだけだ」


ローゼ「ほう、おいケイト!行くぞ」


ケイト「はいっ!」




俺はびくびくしてしまいローゼにすら敬語を使う


しばらく夜道を歩くとローゼが俺に話しかける




ローゼ「ごめんね、なんか戦闘になるとあんな感じになっちゃうんだよね」


ケイト「そ…そうなんで…そうなんだな」


ローゼ「ごめんね、なんかあんなのに巻き込んじゃって」


ケイト「気にするなよ!俺はお前に助けられてるし」


ローゼ「ありがとう、すこし元気が出たよ…バルト」


ケイト「バルト?」


ローゼ「ああケイトだよね、間違えちゃった」




ローゼは下を向いていた、その様子は普段の話を聞かない活発な時とは全く違った


ローゼはさっきもバルトと言っていた、何かあるのだろうか


こんどそれとなく聞いてみよう、そう思った




ケイト「ローゼってさ…なんで俺を助けてくれるんだ?」


ローゼ「…成り行き、かな」


ケイト「というかローゼ、文字の読み書きを教えてくれるって言ってたよな、本当に教えてくれるのか?」


ローゼ「ある程度は教えてあげるけど、私は魔法院とか竜学院みたいな所行ってないから詳しくは無理だと思う」


ケイト「でも教えてくれるだけでありがたいよ」


ローゼ「…さっきの生意気はどこいったの?」


ケイト「多分、さっきの化け物に吸収されちまったよ」


ローゼ「フフっ」








俺はようやく、かなりヤバイ事に巻き込まれてしまったのだと分かった


モンスターだとか魔法だとかマジありえねぇ


でも俺は、ローゼの笑顔を見てなぜかついていきたいと思った


守りたいと思った




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る