空想恋愛

はなまる先生

第0話 空に想ふ、恋が愛しと①

物語には常に始まりがある。

始まりがなければ、それは「ものがたり」と成し得ないからだ。

必然、終わりもまた物語に不可欠な要素と言えよう。


寝起きの僕は、いつも、「それ」を考える。

始まりを意識し、終わりに想いを馳せる。

僕の物語は、産まれた時から始まっているのだろう。

しかし、当然ながら自分の産声など、齢17ともなれば忘却の彼方だ。

では、自分の物語、つまり僕という物語の始まりはいつからなのだろうと、意識するのだ。

その時、僕は「あの時」が始まりと迷わず想う。

しかして、であるならば。

「あの時」から続く物語は、既に終焉を迎えているとも想う。

とどのつまり、僕の物語は若くしてエンディングを迎えているのだろう。


僕は静かな自室で目を閉じ、終わりに想いを馳せた。

暖かな日差しが窓から差し込み暖かい光を肌が感じる。

年季を思わせる自宅の木々が優しい香りを鼻腔に伝える。

小鳥の囀りが眠気から覚醒へと僕を導く。

そして、目を開き、終わりへの想いを確かめた。


ベッドから立ち上がり、寝間着を脱ぐと、シワが寄った学生服に袖を通す。

ケータイでSNSアプリから通知があることを確認するも、今は後回しとポケットにしまう。

カバンを掴み、鏡で今朝もひどい顔をしてる自分を眺め、姿を整える。

誰もいない我が家の食卓に置きっ放しの菓子パンを1つ、鞄に入れる。

そして、いつもの日課を全てこなした僕は、玄関に向かう。

靴を履き、ドアノブに右手を添え、自宅へ振り向く。


「行ってきます」


朝日差す扉を抜け、鍵を閉め、最後に忘れ物がないか確認する。

晩春の和やかな空気を吸い込み、


「よし、いくか」





空は突き抜けるような快晴で。

今日も空が青く、遠い。

見上げ、想うには、あまりに遠く。

ただ、馳せる。




僕は今日へと踏み出す。

エンディングを迎えた、終わりの先の今日へと。

高槻大地、17歳。

高校最後の夏が、訪れようとしていた。


この日が終わりの先に続いた、第2の始まりの日とも知らずに。





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