Lv.7 ラグランジュポイント
『これはひどい』
勇者達が"神々の時計塔"の最上層に到達した直後の様子を見て、大臣がぼやいた。
『時計の神がスライディングする勇者達に仰天して卒倒するのは予想していたが、まさか話しかけずに宝箱を開けて塔から飛び降りるとは……』
『
大臣が言うには『時計の神と会話せずとも先に進める』との事だが、さすがにそういう問題ではないと思う。
『む、勇者共は次の村に到着した様子ですな』
塔の上から川の対岸に飛び降りた勇者達は真っ直ぐに陸路を駆け抜けて、田園風景のどかな小さな村にやって来ていた。
『それにしても、時計の神に話す手間すら惜しむ連中が、どうしてこんな田舎村に……』
至極当然な疑問を口にしている私の目には、街に入るや否やノンストップで道具屋に飛び込む勇者達の姿が映っている。
「やあ、いらっしゃい。ここは道具屋だよ! 何かご用かい?」
売り物
――――――――
薬草 8G
毒消し草 20G
聖水 40G
毒針 5000G
『う゛っ!』
メニュー表の一番下に書かれた武器の名を見て、背中に嫌な汗が流れた。
私の脳裏には、凄く痛そうな鋭利なトゲの先端から変な色の液体が
毒針を握りしめて、暗殺者のように私の命を狙う魔女の不気味な笑顔は、今でも時々夢に見てしまうのだ……。
『奴め、またしても背後から私を狙うつもりか』
『いえ、玉座の間は空間転移禁止エリアに設定しましたので、魔王様が背後から毒針で襲撃される恐れはありませぬ』
『そうか……』
最悪の事態は避けられそうではあるが、そうなると勇者が何故このような微妙な品揃えの店に立ち寄ったのかという疑問は残る。
というか、この道具屋、こんな品揃えでどうやって生計を……???
「店主、これを買いたい」
疑問が頭の中を駆けめぐる中、勇者が突然店主に背中を向けながらメニュー表の『――――――――』を指差した。
つまり、メニュー表の薬草の上のヨコ棒だ。
『うぅむ、前々から奴は頭がおかしいとは思っていたが、ここまでとはなぁ。……ん? どうした大臣?』
『ま、まさか……指標アドレス負数指定だと!?』
はい、いつもの頂きましたー。
どうせ大臣の言っている事は分からないので、話半分に映像を眺めていると……店主が店の奥から、やたら装飾の付いた剣を持ってきた。
「じゃあ 精霊王の剣 でいいかい? 4ゴールドだよ」
……4ゴールド?
『なあ大臣。あの妙に豪華そうな剣が薬草の半額か?』
『構造体1Eバイト目の値が04 00だったんでしょうなぁ』
『意味わかんない』
呆れ顔でぼやく私を見て、大臣は困惑した表情で口を開いた。
『最上段の道具を指差しつつ、その指を上にスライドしながら素早く注文をかけると、まれに店主が激レア装備をおかしな価格で売る場合があるのです』
『はぁ?』
いやはや、あの微妙な品揃えに加えて、この意味不明な隠しメニューとは。
他人事ながら店主の家計が心配である。
『………』
『むっ。どうしたライラよ?』
さっきから無言のまま薄笑いを浮かべるライラ姫が気になり、思わず声をかけた。
『ふふふ……。精霊王の剣って、エルフ王国が人間族との同盟の
『ぐはー』
なんてこったい。
『あはは、そうですか、クソ田舎の村のクソみたいな店で4ゴールドですか。ははは……
『わーーーーっ! ライラが闇のオーラに飲み込まれていくぞ!?』
『ライラ殿、お気を確かに――……!!』
その日、魔王城は
< 本日の魔王城修繕報告書 >
1.魔王城内に聖属性モンスターを複数配置し、精霊王の剣に対策。
2.殺意の波動に目覚めたライラ姫の暴走によって破壊された城壁を修繕。
3.臨床心理士を雇用し、無料相談窓口を開設。
(追伸)
城内に『闇堕ちライラ姫ファンクラブ』が発足したらしいのですが、いかがいたしましょう?
『そんな事、私に聞かれても……』
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