1 魔王子の仇討ち

 魔気が満ち、恐ろしい魔物が住み、常に薄暗く不気味なこの世界、魔界。

 帝都の中央に佇む巨大な魔城の王座に足を広げくつろぎながら座っている、齢119でありながら現魔界のトップ、王子ルキフェルア・サータ・ユニドラコン(以後『ルキ』と省略)は、大臣ラトスの長い話に退屈していた。


「なんと気の抜けたお返事……。いいですかルキフェルア様。ついにあの憎き勇者の生まれ変わりである人間が住む村を特定出来たのです!しかも、本人は自分が勇者だとまだ気付いていない様子……。今度こそ勇者を討ち滅ぼし、人間界を我々魔物の手に」

「お前はいつも前置きが長いんだよ。さっさとそれを言えばいいのにべらべらべらべらと……。要するに、父上の仇討ちのチャンスってことだろ?」

「うぬぅ……だいぶざっくりしてますが……まぁ、そういうことです」


 100年前、ルキがまだ19歳の時。ルキの父、魔王ユニドラコンは勇者一行によって殺された。

 ちなみに、魔界と人間界の時間感覚は同じではなく、ルキは119歳と言っても見た目は若い男の姿である。それは魔界の時間感覚での数値であり、人間界の時間感覚に換算すると約19歳程度。人間界の6年が、魔界での1年なのだ。


「んじゃ、侵攻は今夜だな。兵を集めておけ。俺も行くからそんなに数はいらねぇ」

「ルキフェルア様も?」

「当然。相手は父上の仇だろ?俺の手で殺らなきゃ気が済まねぇ。そのためにハードな戦闘の稽古を続けてきたんだからな」

「畏まりました。では、準備が整い次第声を掛けますので、それまでルキフェルア様は自室でお待ちください」


 ラトスが一礼し王座の間から出ると、後に続くようにルキも退室し、言われた通り自室へと向かった。




 *****




 動きやすく防御性の高い服に着替え、愛用の剣の手入れをし。そして最後にドレッサーを見ながら身だしなみを整える。これから戦という時にそんなことをする必要ないとはルキも分かっている。が、これでも王子として育った身。いつ如何なる時でも外見には気を遣うようにと教わって生きてきた。いわば癖である。

 ルキは鏡に映る一人の青年を見る。魔物である象徴の紫っぽい肌。漆黒の髪に、肌より明るい紫色の目。そして、魔物にとって誰もが憧れるような強さを感じさせられる大きな角と鋭い牙。その凛々しい姿こそ、まさしく自分__魔王子ルキフェルア。


 コンコンと鳴り響くノックに返事をする。


「ルキフェルア様。準備が整いました。いつでも出発出来ます」


 ルキはニタリと笑んだ。

 さぁ勇者よ、今こそ復讐の時だ

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