魔電脳都市

河過沙和

第1話 依頼

 人が自らの思考を直接反映できるようになった未来。

 頭部以外の義体化、脳に機械を介して接続することでネット出来るようになったが手紙や小包などといった物理的手段は失われることはなかった。

 特に重要な情報、物品は人の手を介して届けられる。だがその役を果たしたのは先端技術を手に入れられない下級市民達であり中身の閲覧が困難であること、体が上級市民達に比べ頑強であることを理由にその職に就くものが多かった。


「こいつが今回のブツかい?」

「そうだこいつを栄五埠頭第三倉庫まで届けてほしい」

 スラム街の込み合った人気の路地の裏、運び屋の少年とフードを目深にかぶった表情の見えない男が話していた。

 男の手には厳重に封を施された箱があり、少年に渡すところであった。少年は箱を手に取る前に契約と運送先を確認していた。

「分かった、契約は成立だ。届けよう」

「ありがたい。確実に届けてくれよ、そのための前金だ」

「任せてくれよ。韋駄天のエーとは僕の事だ」

 荷物と前金、サインを貰って走り出す。目指すはスラム街を越え、郊外の外人街の先海外交易に主に使われる港湾地区。その倉庫街。

 普段色々なものが出入りする倉庫で多少異物が混じっていても誰も気づくことはないことから違法、脱法な物の取引隠し場所として使われることが多くむしろ港湾管理組合が手引きをしている節すらある。そういったことも多いためエーは疑念も抱かずに荷を届けることにした。


「おい、そこの坊主!」

 声を掛けられたのはスラム街を抜け、外人街に差し掛かった頃だろうか。いかにも私はそういった組織の構成員です、と言わんばかりの風体をしたスキンヘッド、筋骨隆々の男に呼び止められた。

「なんだ!僕は急いでるんだ!」 

「まぁ待て、荷物を渡せ。そうすれば痛い目を見ずに済むぜ」

 エーも運び屋だ。運ぶ上で巻き込まれる多少の荒事には慣れている。今回も適当にあしらって逃げるつもりだった。だから行動に移す機会をうかがっていた。そこに完全な想定外であったといってもいい、突然腹に重々しい一撃を食らった、恐らく本気で殺すために放たれた一撃。おおよそ常人には耐えきらない威力があった。

「ぐはっ」

「すまねぇな、新しい義体にまだ慣れてねえんだ。手加減できなかった」

 地区を区切る壁に衝突し気を失いかけたが何とか気を保つ。万が一のために着けていた対衝撃用のチョッキがなければ骨どころか肉体そのものを持っていかれていただろう。調子を確認するためだろうか腕を回す相手のスキをついて駆けだす、脇を抜けて外人街の中へ。入ってしまえば警察組織が少なくとも一時的な保護くらいはしてくれるだろう。

「ああ、くそ逃しちまった。ボスになんていわれるか…仕方ねぇ帰るか」

 ボスがどうしてあんな下級市民の餓鬼を気にするのかは知らないが逃げちまったもんは足の遅い俺には追いかけようがない。それに街に入るまでが俺の仕事だ、それ以上する理由もない。なんだか面白そうな予感もするしな。


 外人街に入る、ここは俺のような社会の外にいるものでも存在できる、そんな気がするところだ。色鮮やかな看板と電飾、露店に並ぶ多種多様な料理と装飾品。人種も部族も関係なく行きかう街道。そういったものがここを他の町と一線を画す存在たらしめていた。僕は幼いころからスラム街で過ごしていたこともあって、町といえば父親に連れられて来た外人街のことであるのだ、

 そんな憧れの町を慎重に目だないように歩んでいく、元々往来が多い道ださっきの男が追いかけてきても見失いやすいだろうし隠れやすい。それに荷物を抱えた人も多く紛れやすいのだ。いや一つだけ懸念があるこの荷物に対する厳重な封だ。人が見れば重要な物であり価値があると思うだろう、思った時点で盗ろうとする盗人は容易に現れるだろう。注意すべきだ。

「なぁそこの坊主」

「なに?僕は忙しいんだけど」

 特にこうやって話しかけてくる奴は大体盗賊団の一味か何かで気を引くために話しかけてくる。気を抜いてはいけない。

「いやさ、そう警戒しなすんな。面白い気が見えたのでな、すこし易をたててやろうと思ってな」

 違ったようだ、なにせあんなに気を抜いてことを起こそうとするものはいるもんじゃない。

「よし、いいだろう受けよう。それでどんな塩梅だ」

「うむ、それでこそじゃ。さて、今の荷それがお主をよからぬ企みに巻き込み一つの出会いをもたらすとでた、北の方には気を付けよとも」

 北…港の方じゃないか!今更止めれはしないが注意はしておこう。依頼主を裏切るわけにはいかない。

「決意は固いようじゃな…ほれこいつをもってけ。お守りだ」

 そういって占い師のじーさんは手に収まるほど小さな剣を寄越した。表面に雷電子攻と彫ってある。

「こいつは何だいじーさん?」

 消えていた、音もなく風もなく何も残さず。塵が風の前に跡形も無く吹き飛ぶがごとく消えていた。

「なんだってんだ」

 とにかく、港に何かあると思い気を引き締めて進もう。ここを抜ければもうすぐだ。

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