標高8000mの セイレーン

祭谷 一斗

第1話 登山妖精日記

   ☆


「山、やってるよね?」


 言わんとすることは分かっていた。

 そしてそれが、答えるべきでない事なのも。


「――あ、えっと、大学ぶりだね、ニアちゃ――新里彩さん!」


 「……ニアでいいわ。普通、そっちが先じゃないの、ミヤ」


 古宮みやこ、通称ミヤ。

 大学時代の友人との、それが4年ぶりの再開だった。


 月曜の昼下がり、繁華街外れのカフェ2階。

 普段まばらな人影は、今日に限って見当たらない。 

 1階の店員も、追加注文を聞きに来る気配はない。


   ・


 山を

 無論これは、山に登ることを指している。

 少なくとも、私達のいたサークルではそうだ。

 女子大の在学中、20人をこえた事はない。

 10の真ん中を上下する、よくある規模の所帯だった。


 ミヤとどう知り合ったのか、よく覚えていない。

 ただ当初、私たちが同じ地点に居たのは確かだ。

 そのはけれど、ひどく短いものだった。

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