主人公じゃない半死人の戦い方
「さて、君のおかげで僕らは大損害だ。この失った戦力を立て直すのはちょっと時間がかかる。君には責任を取ってもらわないとねぇ」
「な、なんだてめぇ! 一体何もんだ!?」
俺はリーブラの左手を死ぬ気で振り払って距離を取っていかにも「これから殺られます」といった三下のセリフを吐いてしまう。我ながら冴えないセリフのチョイスだぜ。だってめっちゃ痛いんだもんよ!? 利き手じゃないのが不幸中の幸いだが……。
「僕? 僕は知性ある魔人が一人、天秤のリーブラさ」
「知性ある……魔人?」
え、ちょっと待って。勉強の外の存在なんですけど。常識では人と精霊の魂が混じり合って知性を失った存在が魔人でしょ? それなのに、知性があるのに魔人……?
「ああ、珍しい……というより初めて会ったって顔してるね? まぁ知性ある魔人は特別性だしね。それはしょうがない」
リーブラはやれやれと肩をすくめる。
「スレイ、逃げろ!」
やばい。全然勝てるヴィジョンが浮かばない。これは逃げるしかなさそうだ。というかそもそも俺は基本逃走以外の選択肢がない。ああ、くそっ! 魔物と会わないように警戒して帰るどころか特大の敵にまんまと騙されてるじゃねーか!
リッキーの言葉で弾かれるようにして、俺はもう脱水症状とか細かいことは考えずに魔力強化を起動し、走りだ……、
「無駄だよ」
……そうとしたところでその場で転んだ。魔力強化も瞬時に掻き消える。それどころか聖霊石の防衛機構が働いてリッキーを送還してしまった。それでも聖霊石にチャージしてある魔力は影響を受けなかったのか俺自身への消臭は残っているが……。
な、何をされた!? 急に魔力がごっそり減った感覚だ。いや、何故かを考えてる暇はない。ここで倒れていたらいい的じゃねーか!
俺はよたよた立ち上がってリーブラに向き直った。魔力強化を封じられた時点で俺に逃走成功の目はなくなった。リーブラはまるで趣味の悪い見世物を見ているかのように嘲笑混じりに俺を眺めている。
「あっはっは、何されたか見当もつかないって顔してるね? 教えてほしい? どうしようかなぁ……」
獲物をいたぶる目でリーブラはそう言う。
くそ、仕方ない。精霊も魔力もないし左手も経験したことがない痛さだがやるしかない! 頭を回せ。作戦を考えろ。最善手を打ち続けて生き残りの道を見いだせ。ああ、左手が痛てぇ!
だが絶対死にたくねぇ! でかい死線を潜り抜けたところだぞ!? あとは学園に帰ればアホほどかわいいテンプレヒロインズも待ってるしネーシャの能力で左手も治る! 間に合うかは賭けだがまだ保・険・も活きてる。まだだ、まだあきらめねぇ!
「いーや? リーブラ。お前は自分からしゃべることになるさ。自分の能力の秘密を、な」
「……なんだって?」
俺は痛みで震えてガチガチ奥歯を鳴らしながらそう言った。するとリーブラは本性を現してからから初めて怪訝そうな表情になった。よしよし、思ったより敵さんも余裕無さそうじゃない。
俺は冷や汗をぬぐって、リーブラに向けて歯列をぎらつかせて笑った。
さて、ラノベ仕込みの話術がテンプレにどのくらい通用するのか検証しようじゃねーか。
命賭けでな!
☆☆☆
天秤の魔人、リーブラは内心困惑していた。いや、表情に出ていたかもしれない。
(なんだ? さっきまで余裕がなかったのに急に雰囲気が変わったぞ……まさか、何かまだ作戦があるのか? いや、奴の魔力はもうごく僅かのはず。何をされても僕の勝利は揺るがない)
先ほど、リーブラはスレイに考えるそぶりを見せたが自分の能力を教える気はなかった。期待を持たせて「やっぱりだめー」と言ってポカンとした表情になったところを殺すつもりだった。
「そんなに警戒すんなよリーブラ。きっちり騙された時点で俺は負けてたよ。いや、名演技だった。魔人だなんてカケラも気づかなかった。すげーよお前は。いや、すまん挑発するつもりはなかったんだ。ちょっと死ぬ前におしゃべりがしたくてさ」
そう言って目の前の、もう何の脅威でもないはずの男、スレイが笑う。リーブラは更に困惑した。
(なんだ? これから死ぬ人間がどうして笑っていられる? 気でも狂ったか?)
「だからさ、それに敬意を表して、俺がやった魔物の大量虐殺の方法、教えたるぜ」
「……なんだって?」
「情報が欲しかったんだろ? じゃなきゃ演技なんてしないもんな。最初の対面の時に不意打ちで俺を殺せてたもんな」
「へぇ? ちょっとは頭まわるじゃん。僕にころっと騙されてたとは思えないや」
「そんだけお前が大したやつだったってことさ。話を戻すが、俺は確かにあんたに今のところ俺にしかこの虐殺の方法ができない、とは言った」
目の前の男はリーブラと目線を一寸も逸らさず朗々と語りかける。叫ぶほど負傷しているとは思えない口ぶりだ。ケガなど今はまるで気にならないかのようである。だがリーブラは確かに男の左手を握りつぶしていた。あらぬ方向に折れ曲がった男左手と、額に浮かぶ脂汗がその証左と言えるだろう。おまけに魔力も削っている。状況は圧倒的にリーブラが有利である。
「が、方法に関しては一切口にしていないよな? これ、知りたいだろ? それを教える代わりに、お前の能力を教えてくれよ?」
「えー? これから死ぬ君にそれってメリットあるの?」
「あるさ。魔人はどうか知らないけど人間は基本的に謎は放置したくない習性があるもんなんだよ。答えがわかりそうならなるべくなら知りたいんだ。それは死ぬ間際であっても。リーブラもそういう経験ない?」
思い返してみればいたずらにいたぶって殺そうとした人間の中にリーブラの名前を問う者がいた。これから自分を殺す者の名前だけは知っておきたかったとそいつは最後に言っていた。リーブラにはそんな記憶がある。
(なら、わからない理屈でもないかな。これから死ぬ人間だし僕の能力を教えても問題ない。……それに今回の失態の弁解に「魔獣をほとんど倒されたけどその人間は倒した」という成果だけでは弱い気もするし。方法が知れるなら単純に手土産も増えるし、悪くないかな)
「……いいよ。その取引応じようじゃないか」
「ありがとう! やっぱ冴えてるなぁ、リーブラは。そう言ってくれると思ってたぜ」
(コイツ、まさか僕の立場を読み切ってこんな交渉を仕掛けてきたのか? いや、僕のセリフを精査すれば組織立って行動してるのには気づけたか。意外に頭が回るね。やっぱりここで殺しておかなきゃ)
「それじゃ、悪いけどそっちから教えてくれよ」
「あ? なんで僕からなのさ。そこまで指示できる立場じゃないでしょ。調子に乗るなよな」
「いや、そんなつもりはないんだよ。さっきも言ったけどそっちは今すぐにでも俺を殺せるわけだろ? 俺から秘密をしゃべったら『はい、用済み』って殺されても全然不思議じゃない。ダメか? そっちは別にデメリットはないはずだろ? 俺はもう逃げる手段も戦う手段もないんだから」
「それも……、そうだね」
☆☆☆
会話の主導権は握れている。いい感じだ。多分今まで人間と交渉みたいなことをしたことないんだろう。予想外にうまくハマっている。やっぱりこいつはあんまり余裕のある状態じゃない。
そりゃそうだよな? あんだけの数の魔獣を軒並み倒されて、「これはやべぇ」ってんで出張ったのがリーブラだ。再発防止のために俺の手法は知りたいだろうし。
なにより「僕らは大損害だ」とこいつは言った。この「僕ら」とは知性ある魔人・リーブラとその配下の魔物を指す言葉か? いや、それよりは共に活動する仲間の存在がいると考える方がしっくりくる。それが魔人だか、喋れる魔獣だか、はたまた人間の裏切り者かはしらんが、ほぼ確定で仲間がいる。ラノベらしいからな。
となれば俺の情報は値千金。行動指針にかかわる可能性まである情報だ。知っておきたいはず。そこに俺からの提案だ。しかも自分にほぼデメリットはない。自分の能力をさらすことになるが俺を殺せばデメリットは帳消しだ。
そこに付け入る隙がある。
俺はペロリと唇をなめて腰からニアから預かったお守りのダガーを引き抜く。剣は捨てたがこっちはしっかり持っている。『ヒロイン』が手ずから『お守り』として持たせてくれてるのだ。加護があってもおかしくない。というか捨てるわけないよなぁ!?
「ああ、勘違いしないでくれ。
当然はったりだ。ニアから借りたただのダガーだ。しかし、それをリーブラが確かめるすべはない。魔道具は魔力を通さなければ基本ただの道具に過ぎないからだ。
「……なんで君がそんなもん持ってるのさ」
「およ? それも知りたい? なら、そうだな。大事そうに抱えていたカバンの中身でも教えてもらおうか」
「それはダメだ! 王サマからそれだけは禁じられてる」
王! 元締めがいるのか。これは組織があるのは確定かな。意外な収穫に俺は内心ほくそ笑む。
「じゃあそっちも聞かないことだ。ま、どうせ俺が死んだ後にどっかの街にでも潜入して俺の名前で訪ねて歩けば『なんでこんなもん持ってるのか』って理由はわかると思うぜ」
俺は湯水のようにあふれる出まかせでリーブラをけむに巻く。「じゃあ別の情報と交換して」って言われても困るので俺は「あとで真相はわかるから魔道具の情報は無価値になるよ」と言外に言い含めておく。余計なことを口走ってボロが出るとまずいしな。
ここまでの綱渡りで背中の冷や汗がすごいことになっている。気持ち悪い。吐き気もする。あと手が超痛い。だって使い古した歯ブラシみたいになってるんだもんよ……。
だが、俺の命がけのギャンブルは続いている。一歩踏み外せば終わりな上にわたり切っても生き残るかどうかはわからないとかいう地獄だが、やるしかない。
苦痛を顔に出さぬように注意しながら、俺は残されたなけなしの魔力を振り絞ってただのダガーに魔力を一瞬だけ通した。意識が一瞬明滅した。もう何分かもしないうちに魔力欠乏症になるだろうが聖霊は行使していないので魔人化の心配もない。……完全に魔力がなくなったら死ぬらしいが、半分死んでるのと変わらないしここが命の賭けどころだ。
だが、意識だけは死ぬ気で保たなければ……! 聖霊石の魔力ももう少しだけもってくれ……。消臭効果が消えるのもまずいんだ。
「今、この魔道具はもう起動してる。対象の喉に襲い掛かるだけの魔道具だからな。魔力はちょっぴり通すだけで充分効果を発揮する。で、だ。なんでこの魔道具を使うのかというと、まぁお互い信用しきれないところがあるだろ? ここで酷い嘘を吐かれたら、ここで死ぬ俺はともかくリーブラはキツイんじゃない?」
リーブラの視線が泳ぐ。図星か? ここで演技する必要性がないから多分図星だな。口角が持ち上がりそうになるのをなんとか耐え、俺は続ける。
「というわけでこの魔道具の出番ってわけだ。ああ、注意として、俺とリーブラのどちらがこれから嘘を吐いてもこの魔道具は俺の首を切るように設定してある」
「は、はぁ?」
「いやだってリーブラは魔人だろ? 魔力も体力も十分。ならこんな魔道具が襲い掛かってきても片手で叩き落せてもなんら不思議じゃない。てかできるだろ? だから俺の首に襲い掛かる。俺なら文句なく死ぬし、そっちにデメリットはない」
「そっちが意図的に嘘を吐いたら……!」
「それこそあり得ないだろ。いまの交渉は俺が死ぬ前にリーブラの能力を知って、満足して俺が死ぬためにやってるんだぜ? 心配なら俺が情報を教えるときにそっちにこの魔道具を渡してもいい」
そこまで俺が言うと、リーブラは目を伏せて考え始めた。
多分数秒か数分程度だっただろうが、長い沈黙に感じた。魔力欠乏症に、骨折、ここまでの疲労に多分脱水症状も出始めてふらつく意識をお気に入りのアニソンやら二次三次問わずメガネ美女の脳内保存画像をフル稼働させて意識をつなぐ。いける。15分くらいは余裕だ。そう思って無理やり脳みそを無理やり騙す。
「わかった。僕から話してやるよ」
欲しかった答えを聞いて俺はにっこり笑って自分の首筋にニアのナイフをあてがった。
「ああ、信用してる」
これで手は尽くした。あとは相槌を打っていくだけでいい。
☆☆☆
「僕は天秤の能力を持っている。天秤って知ってる? モノとモノを釣り合わせる道具」
「ああ、知ってる」
「僕の右手と左手は天秤の皿。左手に乗せたモノの状態を一部、あるいはすべて右手に触れたモノに釣り合わせる能力さ」
「釣り合わせる?」
「そう。君の魔力が一気に減ったのもそのせい。左手にちーちゃんを持って君に触れてたからね。君の魔力をちーちゃんの持ってる魔力に釣り合わせた」
「ああ、なるほど。合点がいった。そっか、小鳥程度の魔力しか今なかったのか、俺。となると今回の襲撃も?」
「そう。『弱い魔物』なら入れる、つまり魔力量の少ない魔物なら入れる結界でしょ? だから僕の能力で魔力を下げてから結界を潜らせたのさ。あとは僕が能力を解除すれば失った魔力も元通りになるからね。あ、君に能力は解除してあげないよ」
「期待してないさ」
「さぁ、僕の能力は話した。嘘はなかった。そうだろう?」
「ああ。間違いない」
ピクリとも動かないニアのダガーを見てリーブラは笑う。俺も笑う。してやったりだ。
なるほどな、天秤の能力か。要するに下準備してれば誰を相手にしても俺にやったように魔力を小鳥程度にできるってことか。とんだチートキャラじゃねーか……。最初にリーブラと会った時はリーブラ自身の魔力を小鳥か何か程度の魔力にごまかしていたんだろう。
結界無意味じゃん。普通に世界の危機じゃん。やばいじゃん。
「次は君の番だ。その魔道具をよこしなよ」
「ああ、いいぜ」
俺は内心ため息をつきながらニアのダガーを渡す。本当にお守りになったな……。多分ニアには想定外の使用法だろうが。
「……本当にただのダガーにしか見えないね」
「そういう魔道具だからな。じゃあ話すぜ」
追及を避けるために俺は先んじて口火を切る。明滅する意識を両頬を張って保つ。
「古の禁術って知ってるか?」
俺は初手からふかし始めた。にっぽんふかし話だ。当然ニアのダガーは反応しない。当たり前だ。あれは魔力が一瞬通っただけのただのダガーだ。
ちなみに禁術とは危険性や残虐性、倫理観から外れる古の術式であり、使用がバレたら厳しい拷問の末に極刑という大犯罪である。
「ああ、なじみ深いよ。僕らは禁術で生まれる存在だしね」
マジかよ。鉱山でツルハシ一振り目でいきなり金脈引いた感じなんだが。こいつ俺がもう死ぬと思って重要情報ボロ出ししまくりだな。いや、平常心だ。もっと聞きたい気もするが怪しまれたら終わりだ。
「なるほど。まぁその禁術の中に魔獣の意識を意のままに操るってやつがあるのよ」
「魔人でもない人の身で?」
「魔人が魔獣を操る様子を見たやつがなんとか自分も使えるように、って編み出されたらしいぜ。リッキー君はその禁術を操れるように調整された聖霊だ。魔人には効かない術だからリーブラには手も足も出ないから安心してくれ」
「……いや、おかしい。魔獣を操れるならそもそも人類はもっと僕らに大勝しててもおかしくない。知性ある魔人である僕の命令を上書きできるほどの禁術なんだろう?」
「人類も一枚岩じゃない。戦争を望んでるやつがいるのさ。ほら、平時は全く儲からないけど戦時中はもうかる商売があるだろ?」
「傭兵、かい?」
「あと武器商人な。いや、戦時効果で商人全般は儲かってるか。飯代とかも多分馬鹿にならんだろうし。目の上のたんこぶの商人とかに魔獣をけしかけてやったり、わざと自分の商隊を襲わせて特別手当を貰ったりしてる。だから禁術で戦争を終わらせたりしない。食い扶持が減るからな」
「なるほど。でもそれなら魔獣使って国を滅ぼして王様になった方がよくない?」
「魔獣に襲わせると復興費がかかるしな。それに王になっても何もかもいいことばかりじゃない。政治とかクソややこしいし。王様よりもいい生活してる商人だって探せば結構いるぜ」
俺は思いつくままに口から出まかせをくっちゃべる。アドレナリンがドバドバ出てるのだろか? やけに舌が回る。なんてこった。俺は詐欺師の才能もあったのか? それともただの神がかりか? 多分そうだな。なんでもいい。時間を稼ぐのが俺の目的だからだ。
「まぁ、ここからは俺の提案になるんだが、この禁術は魔獣に対しては特効だがリーブラや知性のない魔人に対しても効果はない。だから今度人間に打撃を与える場合は商人を狙うといいぜ。戦時効果で儲けてるところを順に潰していけばいつかは禁術使いに当たる。そいつらから情報を聞き出してまた禁術使いを倒す。これを繰り返せば禁術使いはいなくなるはずだ」
「……どうしてそんなことまで僕に教える?」
「……禁術使いをさ、恨んでるんだよ。俺だって好き好んで禁術なんて覚えたくなかったんだ。妹を人質に取られて、仕方なく禁術を覚えた。代償に仲の良かった隣の家族を全員闇の儀式の生贄に捧げた。……もう、疲れたんだ」
「……そっか。ま、人間なんてそんなもんさ。来世は僕みたく魔人になれるといいね」
俺が中二の頃に設定ノートに書いたダーク系主人公の生い立ちを要所要所にちりばめて述べるとリーブラは同情と嘲笑が混じったかのような笑みを浮かべてそう言った。笑えるよな。我ながら安直な設定だもの。
俺はそれを微笑で返して、右手をポケットに突っ込んだ。スマホに似たバイブレーション、振動を感じる。
保険が間に合った……!
「じゃあ、お別れだね。意外に楽しかったよ。君とのおしゃべり」
「ああ、リーブラ。次に会う時は仲間だといいな」
「少なくともそれは今世の話じゃないね」
「さぁ、それはどうかな?」
「あ?」
俺の言葉にリーブラは再び交渉中のような怪訝な態度に戻る。
だが、もう遅い。
突然、周囲の熱量が一段階上がる。見れば上空から火球が隕石のように落ちてきている。ドジャーとレッドさんには悪いが、この火力はあいつらには再現不可能だろう。
「うおおおおお!?」
リーブラは小鳥のちーちゃんを左手から逃がすと、虚空を握ってニアのダガーを捨て、右手で大火球に触れた。するとさっきまでの熱量が嘘のように掻き消える。だが火球が確かに存在したことを示すように周囲の木々がちらほらとパチパチ音をさせながら燻っている。ああ、左手に何も持ってないと右手で触れたもんを虚空に消せるのか。マジやべぇな天秤の能力。
だが、効果範囲は右手で触れたモノだけだと俺たちはもう知っている。なら対策はいくらでもある。例えば囲んで360度全方位から聖霊術をぶっ放す、とかな。
「よう、会長。お早いご到着で何よりだぜ」
俺の視線の先では上級精霊しか連れていないがために今回も訓練から除外されていたキャサリン・リリアーノとその炎の上級聖霊であるガウルが威風堂々と立っていた。
「お待たせしましたわ、スレイ君」
「全然。むしろ夢が叶ったぜ。デートで遅れてきた彼女を相手に格好つけるのが夢だったんだ」
「大したものですわね。この状況でそんな軽口をおっしゃられるのですから」
呆れたような、安堵したような表情をした会長はお馴染みの鎖鞭をチャリチャリいわせてリーブラに向き直る。
「さぁ、覚悟はよろしくて? わたくしの大事な学友を傷つけた罪、その身で贖っていただきますわよ」
ああ、やっぱ導かれてるぜ俺。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます