決闘編、決着……!
状況は非常に悪い。鈴木康太郎的には人生で三番目に悪い状況である。
会長の精霊倒す(予想外)↓
会長キレる(選択肢チョイスミス)↓
俺ピンチ(自業自得)←イマココ
三行にするとこんな感じだ。あかん。こんなことならガンジー作戦に徹すればよかった。非暴力を貫けばあるいは……、と思ったけど俺ってば作戦変えても全然暴力使ってないわ。普通に俺ってばガンジーだったわ。
ちなみに鈴木康太郎の人生で二番目に悪かった状況は合コンで知り合って交際を始めた相手がヤのつく職業の方の中でも上の方の娘さんだったと発覚した時で、一番悪かった状況は便意を我慢したおっさんと尿意を我慢したお嬢ちゃんと一緒にエレベーターに半日閉じ込められたことだ。碌な目に遭ってねぇな俺! マジ導かれてるわ。
そんなことより、とにかく、なんとかせねば!
「待て、待ってくれ。このまま続けるとゲロぶしゃー、よ? 女性として逝っちゃうアレよ? ゲロインの仲間入りよ?」
「嘗めないでくださる? わたくしはキャサリン・リリアーノ。リリアーノ家たるもの膝を折って這いつくばってでも自らの矜持を持って誇り高く戦い抜くのですわ! たとえ自分の吐瀉物に倒れ伏したとしても必ず一矢報いる。あがき抜いてやりますわ!」
チョロインのくせにメンタルごん太! くっそ強い!
あかん、調子乗った。間違いなく詰めを間違えてる。これは挽回無理なやつやで。これ〇〇ターン以内に説得コマンド使わなきゃ仲間にできないタイプのやつだったわ。どう見ても時すでにゲームオーバーだわ。
「待て、話せばわかる。そうだ、このあとお茶でもどうだ? こう見えて煎茶は得意でね?」
俺の苦し紛れの説得も空しく、会長が鎖の鞭を振りかぶった。鎖同士が触れ合ってチャリチャリという金属音が鳴り、一層俺の恐怖心を煽る。
「ま、待って。あれだ、そう! 世界の半分をあげようじゃないか! 待って!」
「問答無用ですわ! ふん!」
どこかかわいらしいかけ声と同時に鎖の蛇が俺の顔面へと躍りかかる光景を最後に俺の意識は途絶えた。
☆☆☆
目が覚めると、視界が真っ暗だった。何も見えない。
「フゴォ?」
なんか喋りづらいし。何かに拘束されているんだろうか。というか俺、生きてたのか。
「あ、弟君起きたみたいだよ!」
ダメ男製造しそうな声が聞こえる。そして顔に何か触れたかと思うと拘束が解かれる。どうやら包帯だったようだ。
視界が開けると予想どおりネーシャが、その隣にはフィーネがいた。
「良かった、目を覚ましたのね!」
そう言ってフィーネが俺を抱きしめる。おひょー! あたってるあたってる! 元気になっちゃう! 局部的に!
「心配させないでよね! どうして精霊出して戦わなかったの? 最初は精霊も出さずに会長の精霊倒しちゃったのに。勝ててたじゃん」
フィーネは口をとがらせて言う。かわいい。
……精霊、出せなかったとは言えませんなぁ。(震え声)
「それに治療もいつもより大変だったんだよ。何故か私の精霊が直接の治療を嫌がって薬草の効力を上げて治療に当てる、なんていう回りくどいものになっちゃったし」
ネーシャは今までこんなことなかったのになー、と思案顔である。かわいい。
……多分俺の魂が臭すぎて精霊が嫌がって寄りつかないとは言えませんなぁ。(涙声)
しかしまぁ生き残った。そこは文句ない。しかもその治療に使った薬草の効果がギンギンなのか顔面に鎖を受けたはずなのに痛くない。顔に触っても陥没もない。バッチリ直っているのである。精霊って凄い。(小並感)
でも今、スレイの顔青臭くなってない? イケメンにそれは台無し感やばいよ?
よく見ると巻いてあった包帯は赤黒い色や深緑色が付着しており目に優しくない。
これは薬草と血が付いたあとなのだろうか。ゾッとしねぇなぁ……。
しかし二人の態度は平常運転のように見える。この世界では日常茶飯事だったりするんだろうか? すっごい帰りたい。
「でも、やっぱり今日のスレイは変よ。突然俺とか言い出すし、決闘なのに剣も精霊も使わないし、……会長の胸揉んじゃうし!」
「弟君は事故って言ってたじゃない。お姉ちゃんはその現場を見てないからわかんないけど事故なら仕方ないよ」
「ネーシャさんはスレイのこと無条件で信用しすぎです!」
「フィーネちゃんは弟君が信用できないの?」
「それは、違うけど! 信用できるけど! それとこれとは話が別っていうか」
ネーシャとフィーネが毒にも薬にもならない会話をしている。ネーシャが聖母過ぎるわこれ。仮に乳揉んでも許されそう……揉むほどサイズがあるか疑問が残るわけだが。ネーシャは絶壁だったのだ。
しかしスレイってば愛されてんなぁ…。こんなおいしいポジション、タダで貰っちゃって良いんだろうか。
だがフィーネの不信感は決闘を見て確信的なものとなったらしい。しかしその表情は追求するようなものではなく、心配と困惑が入り交じったようなものに見える。うーむ。これは何か考えないとダメかも。
「とにかく! 今日のスレイは絶対おかしい。今までこんなに近くで見てたのにメガネ好きとか初めて知ったし!」
「フィーネちゃん、ひょっとして惚気ているのかしら?」
「ち、違いますよ! スレイ、今のはそういうのじゃな……いこともないけど! そうじゃなくて!」
フィーネがツンとデレで勝手に心情が揺れているのを見るのは面白いが、これは良くない流れだな。これは様々な作品を見てきた俺のサブカル知識が試されるとき! でもこういう展開のとき、主人公ならどうするんだ? わからん。覚えてねぇ。そもそも古今東西の主人公が最適解を選べてるとも限らない。
「でも、今日の弟君がいつもと違うのは私も気になるかな。試合の時は相手が女子でも『全力でなくては相手に失礼』とか言って剣は使ってたし。フェミニストに目覚める人が突然女性の胸は揉まないと思うし」
あ、実は疑われてた。まぁ決闘のときの客入りを見るに相当な人数の証言があるんだろうしな。当たり前か。スレイは有名人らしいし。
「私の精霊が治療を渋ったのも気になるし……」
とネーシャがさらにセリフを続けようとしたとき、部屋の扉がノックされて返事も待たずに開かれた。この世界のノックはそう言う文化なの?
「失礼いたしますわよ」
「失礼するぞ」
入ってきたのは会長と鬼ポテだった。
これあかんやつや! 決闘の賞品(罰ゲーム)の徴収に違いない。顔面に受けた傷は精霊の力で回復させた。
とはいえ、たった一撃が精霊に頼らざるを得ないダメージを受けたのだ。42回は死ぬ。間違いない。精霊の力とやらで回復はするかもだが精神的に死ぬ。
乳揉めたから満足だって言ってたじゃないかって? 馬鹿お前! そしたら次のステップ踏むまで死ねんだろ! 本望ではあっても本懐ではねーよ! いかん。大急ぎで考えろ。なんとか回避する方法を--!!
「もう起きられるのですね。流石は二年生主席のネーシャ・ベルフォードさんの「聖杯」の能力。お噂はかねがねですわ」
「お褒めにあずかり光栄です。生徒会長」
ネーシャは丁寧な態度で返答するが隣のフィーネの顔は険しい。あとネーシャの精霊の名前がちょっと不安になるレベルでご大層なんですが。
「で、会長はどうしてこちらに?」
不機嫌さを隠さずにフィーネが言う。
「スレイ・ベルフォードに用がありますの」
「お引き取り願います。彼は今、誰かさんのおかげで傷病人です。安静が一番です」
「そうはいきませんわ。わたくしとの決闘の件でお話ししなければならないことがありますの」
やっぱり徴収じゃないか! やばい。どうするもう時間がない。考えろ考えろ。どうする。この場で鞭打ち回避して全員がそれなら仕方ないと感じる言い訳? そんなのないわ!
「実は決闘の報償であるあなたへの折檻についてなのですが、あれは取りやめにさせて頂きました」
しかし俺の懸念は杞憂に終わってそんなセリフから会長は切り出したのだった。
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