テンプレ主人公は偉大だった!?
トクシマ・ザ・スダーチ
プロローグ
コロッセオは異様な熱気に包まれていた。その中央で台形に突起した舞台を囲むように観客席がずらりと並ぶように高く設置されている。
そこからは割れんばかりの大歓声が鳴り響いている。観客は学生服を着た若者達ばかりである。それは、いわゆる闘技場を思わせる場所だった。
その中心には美形で、ともすれば少女と見まがうほど線が細く整った顔立ちの少年が武器も持たずにたたずんでいる。丸腰である。
顔は整っているがその顔色は悪い。姿勢も悪い。へっぴり腰を見るに明らかに戦い慣れしていないことが窺える。しかし不適にも見える笑みがその表情からは見受けられた。困り眉だが口角は上がっている。
そんな彼を金髪を縦にロールした豊かな胸をもつ、いかにも令嬢然とした美少女が少年をにらんでいる。
まるで絵画から出てきたように整った美しい容姿を、凜とした佇まいがより一層際立たせて芸術品のようである。
ただし彼女の手にはなんとも物騒なものが握られている。それは鞭。それも柄から鞭の先にかけてが鋼の鎖といった凶悪なものである。
片や丸腰、片や鎖鞭。剣道三倍段ではないが一見すればどちらが優位かは一目瞭然である。
彼らは今、コロッセオと呼ばれる闘技場で向かい合っていた。彼らの足下には白線が引かれており、試合開始までの柵の役割をはたしている。
「がんばれー! 弟君! 怪我しても私が治してあげるからねー!」
「そうよスレイ! 会長なんかに負けないで!」
彼をスレイと呼んだのは彼の姉らしき人と、幼なじみらしき人だった。彼女らは周囲の野次にまじって激励の言葉を投げてくる。
「会長! そんなやつひとひねりです! ぶっ殺せー!」
お嬢様を会長と呼んだ彼女のとりまきの側仕えもスレイ側にも負けずに物騒な言葉で激励する。周囲のボルテージも同じように最高潮に達していた。
『それでは、キャサリン・リリアーノ対スレイ・ベルフォードの決闘を開始する!』
渋みがにじみ出る老漢が決闘の開始を告げるとブザーが甲高い音で鳴り響いた。それがゴングとなった。
お嬢様の手に持った鎖が一度脈打つようにうねり踊って地を打つ。その光景はスレイには見覚えがあった。しかしデジャビュというには前に見た光景の方がかなり客観的だったとも彼は感じた。
振るわれた鎖、その先端にあしらわれた宝石から赤い炎が逆巻き、彼女の瞳の色と同様に燃える紅蓮の獅子が現れて、スレイを睨む。
その体躯が助走をつけて今にもスレイに躍りかからんと主人の合図を待つ。その口の端からちろちろと炎が漏れ出て燻っている。スレイにはこんな状況だがそれは神秘的に見えた。
「行くぜ、会長!」
やけくそ気味に心の中でそう吐き捨てながら、止まらない恐怖感を押し殺すようにスレイはそう叫ぶと紅蓮の獅子とその主たるお嬢様に向かって走り出す。
それにしてもどうしてこうなった?
振り返ってみよう。それは彼の体感で三時間とちょっと前の話である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます