第73話 モー民谷
「キミ、名前は?」
「メシヤ。藤原メシヤ」
「あたしは安倍マリア」
狐につままれたような狸顔のマリア。自分の境遇をいま知ったはずなのに、この少年は意に介せず、自然としている。
「あっ、もうそろそろ教室に行かなきゃ。みんな集まってると思うよ」
「あたしは三組だけど、あんたは?」
「僕も三組だよ。昨日の入学式で、後ろの列から目立つ子がいるなあって眺めてたんだよ」
さっきまで
「聞かないのね」
「なんのこと?」
「さっきアイツが言ってたでしょ。あたしの住んでた地区の話」
「僕も軽はずみなことは言えないし、慎重に言葉を選んで話さないといけないと思う。でも、Z地区出身の大物政治家や有名芸能人も沢山いるよね。もちろん多くの人は名も知られていない一般人だけど、反骨精神みたいなものがあるんじゃないかな」
一見、風変わりではあるが、どこにでもいる少年だと思っていたマリアは、メシヤがここまで考えていることに驚かされた。
「それにさ」
「うん」
「古代ユダヤ人が日本に渡ってきて、その血統を守るために、Z地区で固まって暮らし始めた。なんて話があるよ」
「はあ?」
急にオカルトチックな話に変わって、メシヤの奇人変人ぶりに確信を持ったマリア。まだ何かを話そうとするメシヤを制する。
「ちょっと待ちなさいよ。あんた、その情報源はどこよ? ネットでもそんなの出てこないわよ」
「ええとね。ちょっと待ってよ」
角張ったリュックからなにやら取り出すメシヤ。手垢がついて何度も読み直した形跡のある雑誌だった。
「あー・・・・・・」
その雑誌タイトルを見て、肩の力が抜けるマリア。『月刊モー。臨時特別号』だった。
1999年の文字が見える。
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