第42話 時空の覇者

「メシヤくんは、歴史というものをどのように定義しますか?」

「それは・・・・・・、人類の変遷の記録、かな?」

「エクサラン」

 レオンは次の質問に移る。

「では、時間旅行はどのように可能だと思いますか?」

「それが出来たら、文句なしのノーベル賞ものだね!」

「ふふっ」

「う~ん、見当もつかないな」

「こういうことは考えられませんか?」

「うん?」


「メシヤくんがローマ時代にタイムスリップして、カエサルに逢いに行きたいとします」

「ふむふむ」

「ローマ時代の記録は文献で残っています。その時代と同じ建物・環境・法制度をそっくりそのまま、現代に再現すればいいのです」

 メシヤは口をあんぐり開ける。

「だけど、カエサルはいないよね?」

「新しく生まれた赤子を、カエサルのように育てればいいのです」

「面白い話だけど、もはや時間旅行じゃないね」

「メシヤくんは、過去のものはただ単に古臭くて使えない、そして、未来のものはどれも先進的で優れていると、お考えですか?」

「それは・・・・・・、違うけど・・・・・・」


「暦、なんてものは、人々が認識するための便宜的な道具でしかありません。いついかなる時代に、正史世界には無かった文明が誕生しても、おかしくありません」

「てことは、正史世界でははるか1000年後にしか来なかったはずの文明・歴史的イベントが、時計を早回ししてたった一年後に起こるということもありえる、と」

「まさに、おっしゃる通りです」

メシヤの物分りの良さに、レオンの講義も熱を帯びてきた。

「その時計の針を進めるのも遅らせるのも、為政者たるリーダーの資質に大きく左右されます。だってそうでしょう? 人々の心がまとまらずバラバラだったら、歴史の舞台は停滞したままのはずです」

 メシヤの両目に力がこもる。


「この世の物質・人間は、ほうっておいたらどんどん無秩序になっていくわけですが――」

「エントロピー増大の法則だね」

「はい。この法則により、将来の宇宙は徹底的に破壊され、秩序は崩壊し、混沌とすると言われています。ですが、それとは逆向きにエントロピーを減少させるファクターがごく稀に存在するのです。それがあなたです」

 メシヤは黙って耳を傾ける。


「これは散逸構造論と呼ばれます。あなたという“ゆらぎ”が、小さな影響を周りに与え、それがどんどん渦巻きになって広がっていく。そして、その渦巻きからあなたにフィードバックされ、秩序を強化するように相互作用を及ばす」

「あなたがエネルギー増幅器、永久機関とされる所以です。現にあなたが関わっていない世界では、常に諍いいさかいや暴力が絶えません。日本の政治もひどいものでしょう? これもすべてエントロピー増大の法則通りなのです。あなたが関わらなければ、世界はどんどん破滅に向かいます」


「う~む・・・・・・」

 顎に親指と人差し指を当て考え込むメシヤ。


「古代アトランティスは、いまとは比較にならないくらい優れた文明でした。資本家による搾取などなく、働くと言っても一日に1、2時間程度です。あとは好きな本を読んで思索を深めたり、趣味の時間を満喫したり、人々が集まって憩いの時間を過ごしたりしていました。

「楽園、だね」

「そのパラダイスを復活させるのが、あなたの使命なのです」

「喜んで協力するよ」

「安心しました。これで私もジョセフィンに逢えそうです」

「で、どうやってニュー・アトランティス(黄金郷)を復活させるのかな?」

「はい。まず、このエメラルド・タブレットを・・・・・・」



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